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第3話「空駆ける剣」

サーチャーの知らせを受けた橘はバイクで目的地に向かっていた。するとその前に見覚えのあるバイクが走っていた。睦月だ。橘ばクラクションを鳴らして隣に並んだ。
「無茶はするな。ただ闇雲に行って勝てる相手じゃない」
「戦いたい・・・」
声が風で消えかかった。
「俺は戦いたいんだ!」
大声で睦月は言いさらにスピードを上げた。そして腰に巻きつけていたベルトをスライドさせる。
「変身!」
続いて橘も、
「変身」
先にスクリーンが出現し二人はそれを同時に通り抜けた。

エレファントが出現したのはとある競技場だった。人が逃げ惑う中、エレファントは周囲の物をことごとく破壊していた。
「出て来い、ライダー供!」
エレファントはこの機会を待っていた。ライダーを全て抹殺する、それがエレファントの目的だった。そして待っていたライダーがやって来た。ギャレンとレンゲルだ。
「来たな」
二人はバイクから降りた。レンゲルは真っ先に走り出した。
「待て睦月!」
レンゲルは右手でストレートを放ったがエレファントは鼻で笑い拳を受け止めた。そして拳を持ったままでレンゲルを投げ飛ばした。レンゲルは観客席に打ち付けられた。
「その程度か」
レンゲルは椅子を悔しさ紛れに椅子を叩き起き上がり、ギャレンも走り出した。今度は二体一、数的には有利だがエレファントは物ともしない。レンゲルのパンチをかわし、ギャレンの回転蹴りを受け止めその足をつかみレンゲルに投げつけた。そして槌を召還しレンゲルとギャレンに打ちつけた。
「ぐぁっ!」
ギャレンとレンゲルは共に観客席に飛び込む羽目になってしまった。融合係数が急速に低下しカテゴリーAとの融合が解かれていく。
「ちっ・・・」
橘と睦月は迫ってくるエレファントを見た。槌をゆっくりと振り回し止めをさそうとしている。

剣崎が到着したのはそのときだった。ギャレンとレンゲルの変身は解かれエレファントはゆっくりと二人に近づいている。しかも剣崎が来た場所と二人がいる場所は遠い。剣崎はバックルにカードを装填した。
「変身!!」
スクリーンを通り抜けたブレイドは跳んだ。強化された体でエレファントと二人の間に割って入った。剣を抜いてエレファントに先制攻撃を仕掛けた。

嶋もすでにその場にいた。だが何もせず嶋はその様子をただ冷静に見ていた。
「さあ、答えを見せてみろ・・・」
そしてそう呟くのだった。

事実、先制攻撃は上手くいった。だがエレファントは、
「この程度か?」
全く効いていない。相手の防御力が高い、ブレイドは瞬時に察した。今度は逆、エレファントは槌を右から薙ぎ払った。ブレイドもそれに対し剣を振るったが力負けして弾かれる。余力を残したままのエレファントはさらに槌をブレイドの左肩に直撃させた。
「がっ・・・!」
その怯んだ隙を狙い腕、そして胸に槌を打ちつける。最後にブレイドは後ろに3m吹き飛ばされて倒れた。剣を支えに立とうとするが上手く力が入らない。
「どうしてもこいつに勝てないのか・・・」
ブレイドの口から弱音が出た。
(君が闘う理由は何だ?仕事だからか?義務か?そんなんじゃ人は真に強くなれない。もっと別の理由があるはずだ)
嶋の言葉が蘇る。だがその答えは一向に見つからない。ギャレンとレンゲルが倒された今、この場で戦えるのはブレイドだけだったが限界を迎えるのも時間の問題に思えた。
「これで終わりだ」
エレファントの手には鉄球があった。その鉄球を放り投げ槌で打ち付けた。その球は正確無比にブレイドの胸に直撃した。重い一撃が鎧の内側にも響く。
「うぁ・・」
声にもならない声が肺から漏れた。さっきの一撃をもう一度喰らえば終わる、ブレイドは確信した。だがその時、
「お母・・・さん・・・」
すすり泣く声が聞こえてきた。その方向を見ると観客席の間に小さな女の子がいた。エレファントが現れたときに逃げ遅れたのか、子供はそこで泣いていた。
「しぶといな。だが次で!」
エレファントは鉄球を放った。だがその軌道はブレイドに向かっていなかった。しかもその反れた鉄球は女の子の方に向かっている。
(不味い・・・!!)
ブレイドは駆け出し女の子に覆いかぶさった。鉄球がブレイドの背中にぶつかりまたしても肺から空気が漏れ出た。それを見た嶋は僅かに驚いた。
「はや・・・く逃げて・・・」
ブレイドは息苦しくいった。女の子は小さく頷いてその場を離れていった。そして終わりだと思っていたブレイドの変身は解けていない。席を支えにして立ち上がりブレイドはエレファントに対峙した。そして、
「分かった・・・ようやく分かったぞ。答えが!」
「何の答えだ?また逃げる方法か?」
「違う!もう逃げない。俺の戦う理由は仕事や義務だからじゃない・・・」
ブレイドは今までのことを考えた。そしてどうしてそれに気付かなかったのか分からなかった。いや、心のどこかではそう思っていたのかもしれない、だが仕事や義務ということがそれを覆っていたのだ。自分がライダーになったもっと根本的な部分、それは、
「そこにいる人を守ろうとする思い・・・そうだ!俺は人を愛してるから戦ってるんだ!!」

嶋はそれを聞いて歓喜を覚えた。
「そうだ・・・それだよブレイド!!」
嶋はついに聞きたかった言葉を聞いた。剣崎自身の戦う理由を。そして嶋は風呂敷から何かを取り出した。それは奇怪なものだった。
「烏丸。君の思いを彼に渡すときが来たようだ。ブレイド!」
そして大きく振りかぶってブレイドに投げた。

「ブレイド!」
嶋が投げたものをブレイドは受け取った。それはブレイドが今までに見たことも無いものだった。何かを収納するようなスペース、そしてその横につけているのは何かを通すような溝。だがブレイドのマスクには新たな情報が流れてきた。
『圧縮ファイルを展開・・・完了。次いでライダーシステム二号、ブレイドと同期を開始・・・・完了。ラウズアブゾーバー起動』
「ラウズアブゾーバー?」
ブレイドの戸惑いもよそに新たな情報がなだれ込んでくる。それに従うままにアブゾーバーを取り付けブレイドは剣のカードホルスターを展開させた。そして選び抜いたのは二枚のカード。女王と騎士だった。
『アブゾーブクイーン』
女王のカードをアブゾーバーのスペースに差し込み
『フュージョンジャック』
騎士のカードを溝に通した。途端、鷹の鳴く声がして白い光がブレイドを覆った。
「させるか!」
エレファンとは果敢に槌を振りかぶってその光にむかって振り下ろした。


確かに手ごたえはあった。エレファントはそう確信していた。だが、光はビクともしない。そしてその光が収まったとき槌を真っ白な羽が受け止めていた。
「何?」
その羽が槌を跳ね除けブレイドの姿があらわになった。その姿はさっきまでと違う。その胸には鷲を象ったレリーフ、鎧は銀色から黄金色に変わっていた。そして最も際立つのは背中から生えた羽。がブレイドは剣を構えた。その剣も刀身が伸びより鋭利に強化されていた。
「はあ!」
横に薙ぎ払われた剣をエレファントは槌で受け止めた。その力は互角だった。ブレイドは身を翻して後ろに下がった。羽もまるでマントのように翻る。そしてブレイドは腰を落としエレファントに肉薄した。直線的に迫るブレイドにエレファントは槌を振り上げたがブレイドは片手で腕を止めた。
「ウェイ!」
がら空きになったボディを真横に切り払う。そしてその勢いを生かしたまま回転し、またも剣を振るう。今度は袈裟から斬り上げさらに正面に斬りおとす。最後にもう一度斬り上げてエレファントが吹き飛んだ。
「ちぃ!!」
エレファントは鉄球を取り出し打ち出した。その時、外套のようになっていたブレイドの翼が展開された。どこか大鷲の羽を思わせつつ機械的な一面を持つ二枚の翼でブレイドは飛び上がった。鉄球をかわし遥か上空へと飛んでいく。

ブレイドは空がこんなに広いこと改めて知った。おそらく大空を舞ったイカロスもこんな思いをしたのだろう。背中の翼が羽ばたく度にブレイドの体を上空に運ぶ。
ラウズアブゾーバー。それは上級アンデッドの力をライダーに上乗せする効果があった。カテゴリーQは『吸収』、カテゴリーJは『変化』の効果をもつ。それに目をつけた烏丸が開発したのだ。今まさにブレイドは大鷲のアンデッドの効果を確かに引き出していた。
そしてスタジアムが小さくなり、エレファンとの姿が豆粒くらいの大きさになった辺りでブレイドは上昇を止めた。そして手に持った剣のホルスターを展開し二枚のカードを抜いた。
『サンダー』
『スラッシュ』
背中の翼から雷が空一面に走った。その雷はだんだんと剣に集約されていく。
『ライトニングスラッシュ』
「行くぞ!」
そう言いブレイドは急降下をはじめた。


エレファンとは上空にいる敵に狙いを定めていた。そしてついにその敵が動き出した。
「!?」
降り注いできたのは一本の光の矢だった。いや、巨大な矢に見えただけだった。猛スピードで落下するブレイドの周囲を雷が纏っていた。エレファントはその矢に鉄球を打ち出したがあるものは真っ二つに切れ、あるものは雷にあたり燃えカスとなってしまった。そして雷の中でブレイドは剣を振り上げた。
「ウェーーーイ!!」
矢がエレファントを貫いた。ブレイドの雷は収まり翼は閉じていた、その後ろでエレファントの槌の柄が一刀両断され体中に電気が走っていた。
「なぜ・・・この俺が・・・」
そして終にエレファントのバックルが開いた。ブレイドはブランクカードを取り出しエレファントに投げつけた。
『フュージョンエレファント』変化
「それが烏丸の開発したJフォームだ!」
それは戦士が翼を得た瞬間だった。
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