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第4話「動き出す蜘蛛」

「上級アンデッドの力?」
それを聞いたとき嶋は耳を疑った。嶋がチベットに訪れ烏丸と出会ってすぐのときだった。ここで何をしているのか?とたずねたことが発端だ。
「そうだ。恐らく上級アンデッドの能力はラウザーに通しても反応が無いはずだ。それは全く異質な能力だからだと私は思う。そしてライダーの力に直接関与することはない。ラウザーのポイントがチャージされるだけだろう」
「それをライダーの力に変換するのが君の考えるラウズアブゾーバーなのかい?」
烏丸は力強く頷いた。
「彼らは今も戦っているはずだ。なら私もここで力になれることをしてやりたい。君も手伝ってくれ、嶋」
「もちろんだ、烏丸。そのために私はここに来たのだから」
・・・

「Jフォーム・・・」
ブレイドはラウズアブゾーバーを見つめた。ここにも鷲を象ったレリーフがあった。
「そうだ。それが烏丸から預かった物、ラウズアブゾーバーだ。それを君に渡すのは簡単だった。だが君には何かを掴んでから渡したかった」
「人間を愛しているから戦う・・・」
ブレイドの言葉に嶋は頷いた。ブレイドはバックルに手をかけ変身を解いた。スクリーンを抜けた剣崎はカードとバックルをポケットに入れた。その目は自身が掴んだもので迷いがないように見える。そして剣崎は頭を下げた。
「ありがとうございます。嶋さん」
「私は何もしていない。掴んだのは君自身だ、自信を持て。橘君、烏丸は君の分も作り始めているはずだ。必ず届く」
橘が頷く中、睦月は一人その場を立ち去ろうとしていた。
「待て。君が一番心配なんだ。蜘蛛の力、君はちゃんと押さえつけているのか?」
「あんたに指図されることは無い・・・」
睦月はちらりと振り返って嶋を睨みつけた。そしてそこから行ってしまった。
「待て、睦月!!」
橘が追おうとしたが嶋がそれを引き止めた。
「橘君。言ったと思うが彼から無理矢理蜘蛛を離してはならない・・・」
橘は追うのを止め落ち着いた表情で、
「分かっています。あいつの心を壊すような真似はしません」
と言った。
「よろしく頼むよ。それに・・・私にも多少なりとも原因がある」
そう口にしたとき嶋の表情が曇った。


夜になって橘、剣崎と嶋は屋敷に戻ってきた。そして栞、虎太郎も加わり五人は嶋が話すのを待っていた。
「そうだな・・・改めて自己紹介をさせて欲しい。私の名前は嶋昇、チベット帰りの・・・アンデッドだ」
そのとき嶋の像がぼやけて蜘蛛のアンデッドへと姿を変えた。その禍々しい顔を改めて近くで見ると威圧感がある。初めて見た栞はもちろんだったが虎太郎もギョッとした。だがその蜘蛛も一瞬で嶋に戻った。
「私はカテゴリーK、タランチュラのアンデッドだ」
「カテゴリーK・・・でもどうして誰とも戦いたくないんですか?」
虎太郎の問いに嶋はしばし考えてからこう言った。
「バトルファイトにおいてアンデッドは自分の種の繁栄を目的にしている。故に本来なら闘争本能があるのだが私には何故かそれが無い。バトルファイトに興味の無い私は人間に手を貸そうと思った」
「所長の所に行った理由は?」
「ライダーと呼ばれる存在に上級アンデッドである私達は薄々気付いていた。そして初めてそこにアプローチを仕掛けてきたのは橘君、君自身がよく分かっているはずだ」
「伊坂・・・」
橘はそう口にした。最初にして苦しい戦いだった敵のことを。
「あいつは頭が切れていた。最後のカテゴリーAからレンゲルを作り君達を倒そうとした。だが奴が封印されたことで計画は終わった。そして我々は認識を変えることになった」
「自分達もやれるかもしれないと思ったからですか?伊坂みたいに」
「その通りだよ、栞君。そして私もBOARDの所長、烏丸のもとに行こうと決意した。彼のアンデッドの研究に私が役立つのは言うまでも無いだろ?」
「そしてその成果がこのラウズアブゾーバー」
「そうだ。彼の上級アンデッドの力をライダーに変換できるようにした成果だ。彼は今もアンデッドの研究に没頭しているはずだよ」
そこまで話して嶋は虎太郎の牛乳が大量に入ったコーヒーに口をつけた。誰もまろやかすぎて口をつけなかったコーヒーを飲めたのはこの場で嶋だけだった。そして次に虎太郎はこんなことを聞いた。
「あとどうして嶋さんに原因があるんですか?カテゴリーAが活動を再開した理由って」
「蜘蛛は私に気付いたんだ。蜘蛛と近い、それもカテゴリーKともなれば活動を再開しない理由は無い。病む終えないとはいえすまないと思っている」
確かに病む終えない判断だった。橘は睦月を鍛えることで睦月自身が蜘蛛の力を押さえ込もうとしたがそれ以上の力を持って蜘蛛は睦月に干渉していた。
「だが本当に奴を封じ込めるなら奴を表に出す必要があった。今が好機だろう」
風が吹いて窓を打ち付けた。

翌朝、望美は不安だった。学校に睦月の姿が無い、いつもなら講習に出ているはずなのに今日はいない。元々真面目な性格であるはずのあの少年が来ないなんて珍しい。望美は学校を出てすぐに睦月を探した。そしてやっとその姿を見つけたとき、睦月は河原をほっつき歩いていた。
「睦月、こんなところで何やってんのよ」
「何だ望美か・・・」
ちらりと望美の方を向いただけで睦月はまた歩き出した。まるで望美のことがどうでもいいかと言う様に。
「何だ、って何よ!人が心配してるのに。講習はどうしたのよ?」
「もう面倒だから行かない」
あっさりと睦月は返した。
「どうしたのよ。そんな事言うなんて睦月らしくないぞ?」
「だからもうどうでも良くなったんだ。勉強なんか今の俺にとって何の価値は無い・・・」
「そんなことは無い。勉学って奴はな、やる内容に大した意味は無い。けどな、やると言う行為に意味がある。俺はそう思う」
新たな声が聞こえてきた。睦月と望美の二人の正面からやって来たのは橘だった。
「橘さん・・・」
「学生の本分は勉強だ。そうじゃないか?」
橘はそんなことを言っているが明らかに狙いは他にある。当然のごとくそれを察した睦月は、
「望美、お前は先に帰ってろ。俺はこの人に用がある」
「この人・・・睦月の知り合いなの?この前も会ったけど」
「そういえば名前を言っていなかったかな。橘朔也という、君の言うとおり・・・睦月の知り合いかな」
そして望美は不安そうに睦月を見つめてから帰り道を歩いていった。
「・・・で何のようです?」


睦月と橘は陸橋の高架下に来ていた。人気も無い、話すのにはいい場所だろう。まず切り出したのは橘だった。
「気分はどうだ?」
「気分も何も・・・俺は普通です。俺だって聞きたいことがあります。嫉妬しないんですか?」
それを聞いて橘は顔をしかめた。
「嫉妬??」
「だってそうでしょう?烏丸所長って人はギャレンより先にブレイドをパワーアップさせたんですよ?普通悔しいでしょう」
橘は何だ、と言って穏やかな表情で答えた。
「あの時俺はライダー辞めようとしてたからな。無理も無い」
「それが甘いんですよ」
そんな橘に睦月は辛辣な言葉を吐いた。
「俺は強くなる。そのためにはあの嶋って人を・・・」
「彼のことを知ったのか?」
「ええ、彼がここに来てから・・・蜘蛛の王、俺はあのアンデッドを倒して力を手に入れる・・・」
「落ち着け。蜘蛛の意思に惑わされるな。彼は味方だ」
だが睦月の表情はいまだ厳しいままだった。
「俺達は仮面ライダーです。アンデッドを封印するのが使命じゃないんですか!?」
橘は反論できなかった。確かに睦月の言うことは正しい。自分達がライダーでありながらアンデッドと共に居るという矛盾。だが自分達は嶋という一人の人間として見ているのではないだろうか。そこにアンデッドと人間の差はあるのか?
そこまで考えたとき、ポケットの中で音がしていた。栞だ。
「俺だ」
『橘さん。アンデッドよ、それも二箇所で。片方は剣崎君に向かってもらってるから橘さんは今から言うところに向かって』
場所を聞いた橘は通話を切った。睦月はずっとこっちを見ていた。そして興味を無くしたかのように背を向けて、
「雑魚の始末は任せます。俺は行くところがあるんで・・・」
行ってしまった。橘もバイクへと走り、ヘルメットを被ってエンジンを吹かした。そしてバイクは走り出した。

「ふう・・・これで良しと。橘さんにも連絡取れたわ」
「良かった・・・」
そう言った虎太郎は窓際をちらりと見た。その先には鳥かごと一人の男が瞑想していた、嶋とナチュラルだった。部屋に風が吹いていないというのに嶋の指先の糸は揺れていた。
「敵は二体。一体は力強き雄牛、角に力の源がある・・・それも特異な力か。もう一体は空を舞うキツツキか。数少ない飛行能力を持つ珍しいアンデッド」
ナチュラルも嶋の言うことに賛同するかのように鳴いた。そして嶋が目を開けようとしたときもう一つの気配が飛び込んできた。
(・・・蜘蛛も動いている。私も行かなくてはならないのか)
「どうかしたんですか?難しそうな顔をして」
その表情が顔に出ていたのか栞が聞いてきた。嶋はかぶりを振った。
「なんでもないよ。少なくとも君達には何の心配もかけさせない。私は少し出かけてくる。その間ナチュラルを頼むよ」


剣崎はバイクを走らせながらバックルを装着した。その後ろから橘が追いついてきた。橘はちらりと剣崎の方を向いた。
「橘さん」
「Jフォームが無くとも俺は負けない」
そう口にしバックルのレバーに手をかけた。
「「変身!!」」
二人の男は同時にスクリーンを通り抜けて戦士となった。そして二つの分かれ道。アンデッドの場所からしてここで分かれることになる。二人はさらにスピードを上げて道を進むのだった。

そうしてブレイドが着いたのは海沿いの工事現場だった。ブレイドが着いたときには機材が滅茶苦茶に荒らされ何かの通り道のようなものが出来ていた。ブレイドはその道をバイクでたどった。

その先に居たのは、巨体で頭に生えた二本の角。鼻息を荒げて今にも突っ込んできそうな牡牛、バッファローだった。
ブレイドはバイクを加速させバッファローに突っ込んだ。それに対してバッファローは腰を落としてブレイドをバイクごと受け止めた。
「くそ!」
ブレイドはさらにバイクを唸らせた。だがタイヤがその場で空回りするだけでびくともしない。そしてブレイドに突然、どこからとも無く衝撃が走った。そしてバイクから弾き落とされ地面を転がった。バッファローに弾かれたバイクはスピンしてやがて停まった。
「なんだ・・・さっきの衝撃」
さっきバッファローは両手でバイクを受け止めていたはずだった。しかしさっきの衝撃、まるで見えない誰かが自分を弾いたかのようだった。何か仕掛けがあるのだろう、ブレイドはそう考えた。剣を抜いて注意深くバッファローの様子を窺う。だが、
「!?」
ブレイドは不思議な感覚に襲われた。何故か自分の体がバッファローに近づいている。それも足は動かしていない、そう、まるで引力に引き寄せられるかのように。周りは何の変化も無いのに自分だけが動いていた。
「なんだこいつ!?」
ブレイドは剣を突き立てて足を踏ん張ったがその行動も長くは続かなかった。そしてブレイドの足が遂に地面を離れてしまう。その少しだけ浮いた体は真っ直ぐにバッファローに向かっていく。
「うわぁぁぁぁ!!」
その先には巨大な二本の角が待ち構えていた。
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