カテゴリー2「人類基盤史」

自宅に戻った虎太郎は今日のことを書きとめておくためにパソコンの電源を入れる。その間に冷蔵庫に向かいお気に入りの牛乳をいくつか取り出す。
ちなみに虎太郎は一人暮らしだ。姉はいるのだがもう結婚している。そして虎太郎の家はひとり暮らしにしてはやけに広い、人が多ければここももっとにぎやかになるのだろう。いすに座ってパソコンに向かいながら虎太郎は呟く。
「にしてもカードと『これ』になんの関係があるんだろう・・・?」
そして新たに表示させたページのTOPには「BOARD 人類基盤史研究所」と書いてある。なんだか小難しい感じのページなのだが要約すれば「人類が勝ち残ったのは進化論では片付けられない理由がある」それを研究するのがBOARDなのだ。分からないことが多すぎる。カードにあの化け物・・・・
「う〜ん。やっぱ取材したいなぁ〜〜」
虎太郎はそう言って手足を伸ばす。パソコンのモニターの脇にはさっきまでなかったはずの空の牛乳瓶がそこにあった。



都内某所。そこのプレートには「BOARD」とある。
剣崎は研究所内を走っていた。研究室でDNAの螺旋構造があるのだがそれには目も触れず剣崎は衛兵の脇を通り過ぎた。途中の階段は一段飛ばし、なぜか途中にある彫刻に触れ壁のパネルに携帯をかざしている。衛兵を超えたところから無数のセンサーが張り巡らされていたのだ。それを解除するのが一連の流れなのだ。これを知らずに強行を試みた連中がどうなるか考えたくもない。もちろん一段飛ばしは剣崎がただ急いでいるからなのだが。一直線の廊下を走りぬけ一つのドアにたどり着く。最後の網膜スキャンでの認証を終え剣崎は扉を開く。

そこには大きな机に座った中年の男性と橘と一緒に立つ女性。面子は揃ったとばかりに男、所長こと「烏丸 啓」は話し出す。
「剣崎、橘、ご苦労だった。早速だがカードを見せてくれ。」
それを聞いて橘はカードとメモリーを烏丸に渡す。
「この二ヶ月で三体目のアンデッドです。」
「どんどん活動は活発になってるような・・・なんであんな化け物が・・・」
先に言ったのは橘、あとに言ったのはオペレーターの「広瀬 栞」だ。主な仕事は変身した剣崎と橘への連絡役。先の戦いでも彼女がそれを勤めた。
「ラウズカードシステムが奴らに対して有効なのは分かってるけど・・・」
と剣崎。ラウズカードシステム―――それはカードにアンデッドを封じ込めそれを力に変えるシステムだ。虎太郎がみたのもこれのことだが今はまだ知らない。
「アンデッドの件はこちらで調査している。」
「調べている・・・・か。」
烏丸の言葉にどこか含みを持たせた風に呟く橘。
「ところで素朴な疑問を一つ。俺を早く助けろと剣崎に急かせたそうですね?そんなに俺の力が信用できないと?」
「いや・・・君の力はもちろん信用している。が、万が一のことを考えてのことだ」
少し返答に渋る烏丸。それにも気付かず剣崎は
「でも流石ですよね橘さん。俺なんかまだ足元にも及びません。かっこいいというかなんというか・・・」
「一つ聞いてもいいか?お前は何のためにライダーになった?」
と橘。それに対して剣崎は少し迷ってこう答えた。
「仕事といえば見も蓋もないんですが・・・やっぱ地球と人類を守るためですね」
そのやり取りを見つめる烏丸。橘はこういって部屋を後にした。
「その純粋さを利用されないようにしろ。俺から言えることはそれだけだ。」
それを聞いて少し顔を曇らせる剣崎。誰にも聞こえないように
「だまされたことなんて山ほどありますよ・・・・」
とだけ呟いた。
剣崎はそんな簡単な理由で戦ってるわけじゃない・・・もっと根底にはあの日のことがあるからだ。けれども戦う理由はまだ剣崎自身気付いていない。彼が気付くのはもっと後、「あの人」がやってきたときだ。



場所は変わって白井邸
「どうしようかな〜〜〜」
いすに座ったまま虎太郎は長いこと悩んでいた。机には空の牛乳瓶が10本ずらりと並んでいる。もう一度言うが彼は一人暮らしだ。
一応二人のことは調べておいた。BOARDのページにアクセスしてちょっと見せてもらうことは虎太郎にとっては簡単なことだった。
「仕方ない・・・家に訪ねてみるか。」
あつかましいようがこれも仕方ない、それに家に誘ってご飯をご馳走するのもいいだろう。なんて思いながら虎太郎は家を出る。動かない愛車「白鳥号」を通り過ぎて自転車に跨る。
「今日は冷えるな・・・・」
そういう虎太郎はため息を一つつく。



「くそ〜〜〜どうしよ〜〜〜」
こちらでも悩んでる男がいた。剣崎である。たったいま大家さんから借りていたアパートの撤退命令を下されてしまったのだ。無理もない、『仕事』で二ヶ月間帰ってこず家賃を滞納してしまったのだから。
「今日は野宿か〜」
バイクを押しながらため息を一つ。そこに見たことのある顔がやって来た。
「君、色々大変そうだね?」
虎太郎だ。
「お前!?」
「物は相談だけど家に来ない?」
取材やらなにやらされそうだなと思いつつ剣崎は考える。今日はやたら寒い。このままでは風邪を引いてしまいそうだ。とにかく寒さを凌ぎたかった剣崎は虎太郎に付いて行くことにした。

「広いな・・・お前の家・・・。これ庭なのか?」
「庭というより牧場なんだけどね。
剣崎と虎太郎の前にはひろい牧場が広がっていた。しかし家畜は一頭もいない。古びた「白井農場」と書いてある看板が柵にかけてあった。
「お前こんな場所に住んでんのか?」
「両親が死んで親代わりだった叔父さんが僕に残してくれたのさ。でもそのおじさんも去年死んじゃってさ。」
「ふ〜〜ん。じゃあ一人暮らしなのか。」
そんな会話をしながら二人は真っ直ぐでやたら長い一本道を抜ける。ようやく家に到着。家というより屋敷だな・・と剣崎は思った。
「これかっこいいじゃん。」
そういって指差したのは真っ黒のアンティーク車だ。
「あぁ、動かないけどね。名前は『白鳥号』」
名前に違和感を覚えつつ剣崎は家に足を向ける。
「しっかし汚くてボロボロだな。」
確かに外壁はボロボロ。ところどころ穴が開いているところすらある。
「だからさ、君と僕とで直して使おうよ。仲良く掃除したりしてさ。」
あれ・・おかしいな俺は寒さを凌ぎに来ただけなのに・・そう思った剣崎はこう反論する。
「ちょっと待てよ。俺はまだ住むなんてまだ言ってないぞ。」
「でも行く当てないんだろ?僕の調べでは君は天涯孤独だって。」
そんなことまで調べられていたのか・・・
「僕は本当に記事を書きたいんだ。だから僕は君に部屋を提供する。君は僕の取材を受ける。ねぇいいアイデアでしょ?もちろん公に出来ることじゃないと思う。だから君のOKが出るまで発表はしない。」
「う〜ん、本当かな?」
疑う剣崎。虎太郎はため息をついて冷蔵庫に向かいながらこういった。
「天気予報じゃ今日は北の方から寒気がやってきて冷えるみたいだね。夜の気温は零下2度か3度。つらいだろうなぁ。」
取り出したのは牛乳だ。外では風で木の枝がなびいている。
「分かった、分かったよ。とにかく今は住む・・いや住んでやるよ。でも取材全てがOKって訳じゃないからな!」
「りょーかい」
笑顔で答えた虎太郎。そして
「飲むかい?」
と言って差し出したのはまたしても牛乳であった。



場所はどこかわからない。狭くて遮蔽された空間。
しかし橘が立っていた。周りにあるのは気味の悪い卵のようなもの。それを見渡す橘。次の瞬間卵が割れ何かが飛び出してきて――