カテゴリー3「赤い戦士の裏切り」

喫茶店で虎太郎は今までのいきさつを少女に語っていた。
「でね、その仮面ライダーが家に住むことになったんだよ〜すごいだろ!?」
「うわ〜面白そう!今度家につれてきて!」
「そのうちね。」
その少女の名前は「栗原天音」9歳で虎太郎の姉でこの店、ハカランダを経営する「栗原遥香」の一人娘だ。しかし夫「栗原晋」はすでに亡くなっている。
「でも出版社辞めたんでしょ?大丈夫なの?」
と虎太郎を心配する遥香。それに対し
「大丈夫だよ。書きたいものが見つかったんだ。今は売るほうじゃなくて書くほうなのさ。まぁ見ててよ。そのうちベストセラー叩き出して姉さんと天音ちゃんを幸せにしてあげるからね。」
悠々と語り天音の頭を撫でようとする虎太郎。が天音はその手を跳ね除け遥香は
「ありがとう」
と虎太郎が冗談を言ったものだと思って淡々と返されげんなりする虎太郎。そんな会話が終わったとき店の入り口が開いて青年がやって来た。
「ただいま」
と青年。
「おかえり、始さん。」
「おかえりなさい、写真どう?」
その青年を暖かく迎える二人。その青年の名前は「相川始」ここに下宿している青年だった。物静かで無愛想、それが虎太郎の彼に対する印象であった。しかしこの評価は後になって大きく変わってくる。
「それ義兄さんのカメラだよね?写真始めたんだ。」
指差したのはカメラ。それは元々晋のカメラであった。
「ええ、始めたばかりでまだまだ未熟なんですが。」
「誰だってそうよ。あの人も下手だった。私を写した写真なんて全部ピンボケでね。」
と遥香は懐かしそうに語る。
「でも、早くに死んじゃってね・・・ごめんね。湿っぽいのは私らしくないか。」
少し顔の曇ったもののすぐに戻った。虎太郎は始にこう言った。
「俺さ何にも出来ない弟だけど、この二人のことが心配なんだ。君がいてくれて助かるよ。これからも下宿人兼ボディーガードとしてこれからも・・・」
最後まで言おうとしたが始は
「俺はこの家気に入ってますんで。」
と言葉を切り借りている下の部屋に向かった。
「なんだ・・・あいつ。」
「虎太郎と違って無口なの。始さんを見習ってみたら?」
と反論を入れる天音。
「ねぇ天音ちゃん。叔父ちゃんの名前を呼び捨てにしないでさん付けしてくれないのかな?」
虎太郎に対しては尊敬の念など微塵もない天音はこう言った。
「ならもっと尊敬される人になってみたら?」
反論の余地のない虎太郎はただマグカップの牛乳を飲むしかできなかった。

「仮面・・・ライダー・・・」
部屋に戻った始はある感情が湧き上がっていた。それは純粋な「闘争本能」。始の中のもう一つの本性が戦いたいと始に訴えかける。しかしそれは抑えなければならない、そう思いその本能に対し抵抗する。
そしてポケットからカードが一枚始の足元に落ちた瞬間始の姿と黒い姿がダブって見えて――――――
「仮面・・ライダー!」
始の顔は「獣」の様な形相であった。



「父さん!母さん!」
少年が叫んでいた。周りには燃え盛った炎。少年が炎の中で父と母を見つけたとき二人は瓦礫に埋もれて動けずにいた。
「一真!逃げて!」
母の声が聞こえる。
「父さん!母さん!」
再び少年が叫んだとき二人の上から瓦礫が崩れてきて―――――
「はっ!?」
剣崎はいきなり起き上がった。どうやら虎太郎に借りた部屋で寝てしまったようだ。眼にうっすらと残っている冷たいもの。
「またあの夢か・・・・」
剣崎の心に残っている深くて暗い過去。彼が天涯孤独である理由でもあり自分を作っている理由でもあった。

プルルルルルル――――机に置いた携帯から着信音が鳴り響く。
それを取った瞬間に大声が聞こえてきた。
「剣崎君?今すぐBOARDに来て!!」
「広瀬さん!?」
驚きを隠せない剣崎。向こう側から雑音が聞こえてくるが栞はそれよりも大きい声で叫んだ。
「BOARDがアンデッドに襲われてるの!所長は部屋にいるはずなのに連絡取れなくて橘さんの携帯にもつながらないの!!!」
剣崎はすぐさま立ち上がりヘルメットを持ち急いでバイクに向かう。
BOARDが襲われるなんて・・それに所長と橘さんは・・・
「くそ!!」
バイクを全速力で飛ばし剣崎は向かう。



BOARD内部は壊滅的だった。ぐちゃぐちゃになってパソコンやケーブル各種、そして横たわって動かない研究員達。床で蠢く・・・バッタたちがその不気味さをより強くさせていた。そのバッタたちが一斉に一箇所に集まり人のような形を形成してゆく。出来上がった姿は人間ではない、「跳ぶ」ことに特化された足にバッタを思わせる外見。バッタのアンデッド―――ローカストだ。

剣崎はBOARDに着きその状況に愕然とした。暗い中の光源は動くサーチライトのみそして聞こえてくるのはサイレンだけで人の声は一つもしない。その光が一つの姿を映し出した。足元には横たわった男――まだかすかに息がある!その男の横に立つのはローカストであった。その姿を見た剣崎はバックルとカードを取り出す。
「貴様が・・・貴様が研究所を襲ったのか!!」
ローカストは返答する代わりに傍にいた男のわき腹に蹴りを入れた。それを受けた男はぴくりとも動かなくなった・・・
「許さない!!」
剣崎がバックルにカードを入れると勝手にバックルからベルトが出てきて腰に巻きつく。それを確認した剣崎は右手を前に、左手を腰に構える。
「はぁぁ・・・・変身!!」
右手をバックルのレバーに左手を前に入れ換える。バックルが裏返ってスペードの紋章が見えたとき
「ターンアップ」
と声がした。そこから剣崎の身長ほどもある青白いゲートのようなものが飛び出した。
「うわぁぁぁぁ・・・・!!」
剣崎はそれに向かって走りそして突き抜けた―――瞬間剣崎は「あの姿」であった。
ライダーシステム。エースアンデッドと呼ばれる特別なアンデッドの力を適合者に与える力。バックルから出たゲートを通り抜けることで変身することが出来る。ラウズカードシステムは現代のトランプに当てはめられる・・・そのモチーフから第一号の橘朔也は「ギャレン」二号の剣崎一真は「ブレイド」と呼ばれていた。ブレイドは剣――ブレイラウザーを抜き取りローカストに向かう。



BOARD所長室に橘がいた。
「貴様には聞きたいことがある。まだ死んでもらうわけにはいかない。」
その言葉の矛先は倒れている男――烏丸だった。返事はない・・が死んでいるわけではなく微かに息があった。橘は烏丸を肩に担ぎ部屋を後にした・・・。



「ぐあ!!」
ミドルキックを胸に受け剣崎は後ろに飛ばされた。状況は良くなかった。ローカストはその脚の瞬発力を活かしブレイドの斬撃をかわし攻撃を仕掛ける。一発の威力は重くないもののダメージは確実に蓄積されていく。ブレイドは立ち上がろうとしたときビルの陰に待っていた人の姿をみた。
「橘さん!」
橘はギャレンに変身しこちらを見ている、が一向にこっちに向かってこない。
「橘さん!何故見てるんです!!戦ってください!うわぁ!」
ローカストの攻撃がブレイドを容赦なく襲う。なおも無反応のギャレン。それを見て剣崎の頭の中で考えが一本の糸で繋がった。まさか橘さんが所長を・・・真偽を確かめるためにブレイドは叫ぶ。
「本当に裏切ったんですか!?あんたと俺は仲間じゃなかったのか!?」
遂にギャレンは何も言わずその場を去ってしまった。なおも向かってくるローカスト。

――――そのとき剣崎の中で「怒り」がこみ上げてきた。それが今の剣崎を立ち上がらせる源でもあるかのように。そしてベクトルの矛先は目の前を捉える。ブレイドは落ちていた剣を取り向かってきたローカストを迎撃する。最初は袈裟に斬りそこから切り返しダメージを与える。
「うらぁぁぁぁぁぁ!!!」
ひるむローカストにブレイドは今もてる限りの力で渾身のストレートを放つ。直撃したローカストは3mほど吹き飛び転がる。機会を掴んだブレイドはカードを展開し一枚ラウザーに通す。
「タックル」
前と同じように構えローカストに突進する、がやられっ放しでもなかった。起き上がり横に跳んでかわしたのだ。再び距離が開く両者。改めてだが状況は良くない。なぜならブレイドには「決定打」といえるものがないからだ。今持っているカードは「2 スラッシュリザード」と「4 タックルボア」のみ。ギャレンの様に二枚同時には使えないカードだった。しかしローカストにも同じことが言えるようだった。両者一瞬の間・・・・
先に動いたのはローカストだ。背中の羽で飛びブレイドを捕らえる。急な攻撃に不意を付かれるブレイド。ローカストの向かう先は研究所の壁・・・ブレイドをそこにぶつける気なのだ。しかしブレイドはカードを展開し―――――

ブレイドが衝突し壁が深くめり込みクレーターのように凹む。ブレイドはそこから剥がれるようにゆっくりと落ちていく。しかしローカストもそれに続くように落ちてくる。ローカストは立ち上がりブレイドに向かおうとするが倒れてしまった。カチャッという音がローカストのバックルから聞こえる。


ブレイドが最後に使ったカード。それは「スラッシュ」――斬撃強化のカードだった。衝突寸前の際に剣崎の中の「本能」というべきか「生への執念」というべきものが無意識に働いたのだ。しかしブレイドも動ける状態では無かった。カードを投げローカストをカードに封印する。カードは「5 キックローカスト」キック力増強。
仰向けになったブレイドはレバーを引き剣崎の姿に戻る。それでも剣崎はいかなければならなかった。限界を感じつつ剣崎は立ち上がりゆっくりとした足取りで研究所へ向かう。


胸の中では様々な不安と混乱を抱えながら。