カテゴリー1「気付く者」

寒かった冬も終わり春の到来を思わせる時期だった。もうすぐ桜も満開だなと思いながら虎太郎は思いながら自転車をゆっくりと走らせる。
「ただいま〜」
そしてだだっ広い牧場の門で呟いた。それは出迎えてくれる人はいなくとも何となく言ってしまう常套句だった。
「あれ、おかしいな?」
門が開いている。いつもは施錠してるから誰か来たのかな、なんて思いつつ虎太郎は門をくぐり自転車を漕ぎ出すのであった。

その先で戦いが行われていることも知らずに。


小夜子は息を荒げながら診療所に帰ってきた。すぐに自分の机の上にあるものに手を伸ばす。最初はただのごみかと思っていた物・・・
「これがもしかしたら橘君を・・・」
小夜子は植物の欠片を見つめた。そしてすぐに受話器に手を伸ばしダイヤルを押していく。
「もしもし?調べて欲しい物があるんですけど・・・」


強い・・・ブレイドは改めてそう認識した。ギャレン、橘の強さは近くで見てきた自分がよく分かっている。
「迷いが見えない・・本当に治っているのか・・・」
ギャレンの一方的な攻撃が続いている。そして胸にアッパーを受けブレイドは吹っ飛んだ。
「これが俺の力だ!」
ブレイドがゆっくりと立ち上がる間にギャレンはカードホルスターを広げる。二枚のカードを抜き取り溝に通す。
『バレット』
『ファイア』
ギャレンの銃にレリーフが張り付き消えた。銃に炎の力が付加されていく。ギャレンはゆっくりと照準を定めた。

自転車でゆっくりと行く道の先に人影が見えた。
「あれは?」
虎太郎は首をかしげた。そして徐々に像がはっきりとして見えた人影に目を見張った。ギャレンがブレイドに銃を向けている。
「ブレイド!?ギャレンも!!なんで。」
そんな虎太郎の疑問をよそにギャレンの銃から火の弾が何発も発射されブレイドに直撃した。そしてゆっくりと地に臥していくブレイドの姿。
「なんだよあれ!?剣崎君!」
虎太郎は自分のもてる力の限りを振り絞り全速力で向かった。


胸が焼け付くような熱さを感じた。胸のアーマーから煙と水蒸気をたたせたときのような音さえする。薄れていく視界の中でもギャレンはゆっくりとこっちに向かってくる。
「やめろ!」
それは突然だった。ブレイドの前に急に影が出来た。しかし立ち上がろうとしても力が出ない。
「いい加減にしろよ!仲間なんじゃないのか!!」
その声でブレイドは気付いた。
「虎太郎・・・」
ギャレンが銃を向けてきても虎太郎は怯まなかった。内心足は震えて今にも倒れそうだった。しかし虎太郎は臆することなくギャレンを睨みつけた。
「どけ!」
「嫌だ!」
しかしギャレンは引き金を引かなかった。そしてどこか躊躇しているような様子さえある。その姿を見て伊坂は嘆息した。
「所詮は人間か。」
そして掌をギャレンの足元に向け火球を放った。地面が抉れ煙幕を作り出す。虎太郎は腕で自分の顔を覆った。
そして煙が納まった頃にはもうギャレンと伊坂は忽然と姿を消していた。

俺は何をやっているんだろう・・・始は路上を歩く人を眺めながら思った。その道行く人たちはふと歩みを止め道でギター片手に歌う男を見つける。
「俺はただ歩く 暗く長い道を
いつか いつか見える光を探しに・・・」
始は路上ライブをしている仁を眺めた。その周りには数人が彼の歌に耳を傾けている。始も目を離すことなくそのまま聞き続けていた。
「いつの日か 君にこの思いが届くだろう
いつの日か 君に微笑み抱えるために」
ギターに乗せたゆったりとしたリズムが終わり周囲から拍手が起こる。
「あの・・・」
一人の女性が仁に包装された箱を手渡した。
「あの歌とってもよかったです、また見に来ます!」
仁も笑顔で受け取った。そんなやり取りを始はただ見ていた。しかし
「ん・・・」
周囲に視線を感じる。冷静な目でこっちを見ているような気配。始は獣の習性のごとく気配を探る。そして後方の車道に目を向けた。そこには車が一台止まっているだけだった。そこから目を離すと仁がこっちに歩いてきた。

仁はギターケースに投げ込まれた金を数えていく。
「まぁこんなもんかな。」
その声はどこか満足気だった。
「どうだった兄貴?」
「良かった。」
「マジで!?」
仁はますます嬉しそうな笑顔を作った。
「兄貴良かったら俺とデュエット組んでみない?」
始は鼻でフッと笑った。
「冗談だろ?」
「冗談だよ。」
仁も言い返した。そしてギターを始に向けた。
「ちょっと弾いてみる?」
渡されたギターの弦を見よう見まねでぎこちなく指で押さえていく。
「ここが・・こう?」
「違うね、中指が・・・」
そんなやり取りが交わされる中、車道にあった車がゆっくりと発進した。


そこから少し離れた場所。路地裏に一人の浮浪者がいた。顔を赤らめふらふらと酒瓶を持ちながら歩いていく、が急に背筋を凍りつかせるかのような感覚が走った。
「・・・??」
後ろを見てもゴミ箱やゴミ袋が並べてあるだけ、そして紙くずが風で地面を転がっているだけだった。
「気のせいか・・・」
そう呟き振り返った途端目の前に誰かが立っていた、いや「人」ではなかった。浮浪者は一気に酔いが醒め紅潮してた顔が一気に青くなった。数歩後ずさりして尻もちを着く。
「ググヴ・・・!!」
独特の黄色と黒の斑模様、開いた口に見えるのは異常なほど鋭利な歯。そしてしなやかながらも強靭な足腰。都会の高層ビルという密林を縄張りとするアンデッド、ジャガーだった。
「うわぁ!!」
しかし男の叫び声はジャガーの咆哮にかき消された。


それは始も感じ取っていた。心の中で呟く。
「アンデッド・・・!」
ギターを置いて始は走り出した。
「兄貴!?」
ギターをケースに収め仁も後を追った。

始がジャガーの気配を感じた場所にたどり着いたとき誰もいなかった。路地裏に漂う換気扇や空調の生暖かい排気が髪を揺らす。注意しながら歩いていく。そのとき後ろから素早く迫る何かを感じ取った。急いで振り返ればジャガーは既にこちらに飛び掛っていた。始はなす術も無く地面に叩きつけられ転がった。そしてすぐに立ち上がり腰にベルトが現れる。
「変身。」
駆け出しながら体がカリスへと変身を遂げアローを召還する。ジャガーも右手の爪を模したクローで迎撃する。カリスはジャガーの頭を飛び越えアローと爪が交錯した。

「兄貴・・どこ言ったんだよ〜?」
仁は始を見失ってしまった。辺りを見回してもどこにいない。しかし仁の耳に獣の唸り声が聞こえた。
「なんだ?」
仁は注意しながらその声が聞こえる路地裏を覗き込んだ。そこにいたのは怪物が二体。しかも戦っている。
「怪物!?」
仁はすぐさま首を引っ込めた。そしてずっと前、どこかで聞いた噂を思い出す。
「まさか・・・仮面ライダー!?」

ジャガーの動きはカリスの想像より速かった。アローで斬りかかった場所に既にジャガーは姿は無く側面から攻撃を仕掛けてくる。顔に迫り来るクローをアローで防ぎ今度は回し蹴り。しかしジャガーはその脚力を持ってその場で真上に一気に飛び回避する。そして飛び上がったジャガーは右手のクローをコンクリートの壁に突き刺し空中で静止した。カリスはその様子を見上げて様子を窺う。ジャガーは壁に足をつけたかと思うと壁からクローを抜き一気に壁を走った。
「!?」
重力と自身の速さが付加され迫ってくる。隕石のように落下してきたジャガーをカリスは真正面から受け止めた。あまりの威力に耐え切れずカリスは膝を付いた。しかし渾身の力でクローを跳ね除けカリスはバックステップを踏んだ。バックルを外しアローにセットする。そして腰のホルスターに手を掛けカードを抜き取った。
『バイオ』
ジャガーの動きを封じるべく蔓が一気に向かっていく。しかしその蔓すら掻い潜り一陣の風が如くジャガーはその場から姿を消した。カリスはそれ以上の深追いを止め武器を収め今度は別のカードを取り出した。
『スピリット』

怪物の争う物音が消えようやく路地裏の怪物がいなくなったと確信し仁は再び覗き込んだ。そしてそこにいたのは仁の想像していなかった人物だった。
「兄貴!?」
路地裏で一人立つ始に近寄る仁。
「ねぇあの怪物は?仮面ライダーは??」
その問いに始が口を開くことは無かった。


場所は小夜子の診療所へ移る。小夜子は受話器を耳に当てていた。
「それで結果のほうは・・・そうですか・・・」
小夜子は残念そうな声を上げた。
「あ、でも急かしてるわけじゃないんで。よろしくお願いします。」
そういって電話を切る。そしてため息。
「はぁ・・・まだか・・・」
そして机の上の植物を入れたシャーレを取り上げた。
「これが橘君を変えた・・・あーもう、橘君、一体どこに行っちゃったの?」
小夜子は机から離れ今度はパソコンの前に行った。インターネットを立ち上げ語彙を入力していく。
『人類基盤史研究所』小夜子はただ結果が出ることを祈った。

「落ち着いたか。」
伊坂の言葉に研究員は答えた。
「ええ、あの植物には鎮静作用もありますから。」
伊坂の見つめる先には水槽があった。そこにさっきまで浸かっていた男は今着替えているだろう。まぁ何にせよあいつは俺の手駒だ・・・
後ろのドアが開いた。伊坂は振り返りその男を見据えた。
「もっと・・・もっと強くなれるんだろうな・・・」
橘の目は黒くぎらついているようだった。声もどこか不気味さを帯びている。伊坂は内心予想通りだった。
「ああ、お前は闘うためにライダーになった。そしてお前が闘う理由は一つ。」
暗示をかけるような口調で伊坂は言った。
「力を・・・力を証明する!俺の力を!!」
「そうだ今のお前ならブレイドだって倒せる。」
「俺がブレイド・・・剣崎よりも!!」
橘はその場から離れた。そして伊坂は満足そうにほくそえんだ。


剣崎は以前烏丸が眠っていた研究所を訪れていた。しかし人の気配すらしない。
「やっぱりこんな所にいるわけ無いよなぁ〜」
ゆっくりと歩いていく剣崎だったが

ガサッ

後ろで何か音がし体がビクッとする。落ち着け・・・落ち着くんだ、俺・・・まずは深呼吸。剣崎は暗示をかけるように自分に言い聞かせた。ライダーをやってる身としては少し恥ずかしい感じだが・・・。そして言い聞かせたとおり深呼吸を一回、意を決して振り向いたそこには。
「あなたは・・・」
それは橘でも伊坂でもなかった。まるで予想してなかった自分。目の前にいる人は驚きの眼差しでこちらを見ている。長い沈黙の末、剣崎はようやく思い出した。ゼブラと戦ったとき橘さんのすぐ傍にいた女性。
「橘君の知り合い・・・ですよね?」
小夜子はおずおずと剣崎に尋ねた。