カテゴリー2「絡み合う糸」

「よっと」
手から離れたバスケットボールが放物線を描き吸い込まれるようにしてゴールポストをくぐった。ボールを取り上げ今度は数歩後ろに下がりそして真正面からではなくすこし角度をつけてのスリーポイントシュート。
「あ・・・」に
しかしボールはリングの上をいきボードに跳ね返った。跳ねたボールを追いかける先に誰か立っていた。さっきまで気配もしなかったのに。
「うわぁ!」
腰を抜かし地べたに尻餅をつくも『蜘蛛』の姿をした怪物はゆっくりと近づいてくる。そして、
「レ・・ン・・ゲ・・・ル・・・」
確かにそう聞こえた。
「え?レンゲル・・・?」
その時、視界がまばゆい光で覆われた。

「うっ・・・」
気が付いたら目の前には大空があった。どうやら寝転がっているらしい。
「あれ。俺なんでここで寝てんだろ?」
思い出そうとしても記憶が曖昧だった。フリースローを打ってからの前後の記憶がはっきりとしない。
「疲れてんのかな。帰ろ・・・」
『睦月』は公園を後にした。後ろからレオが跡をついてくることも知らずに。

「システムの適合者は見つからないのか?」
「はい、想定していたシステムの出力が大きすぎて現在それに耐えられるのはまだいません」
伊坂は嘆息した。
「使えない奴らは記憶を抹消しておけ」
「はい」
伊坂は黒革の椅子に座った。そして再び嘆息。
「最強のライダーに適合する人間などいないのか・・・」


「探してるってことはまだ適合者は見つかっていないのか?」
「さぁな」
始は蜘蛛を地面に落とし踏みつけた。何の造作も無く蜘蛛は潰れ無残な死骸となった。
「まぁせいぜいがんばるんだな」
これ以上用はないとばかりに始は背を向けた。その背中の雰囲気がどこか変わっていた。ハカランダを出てから何があったのだろうか、始の表情は以前より起伏が無くそして押し殺そうとしてまで見える。
「お前はどうするんだ?」
「俺には関係の無いことだ。俺は俺で戦う」
決然とした声で始は言った。その時剣崎の携帯から着信音が鳴り響いた。
「剣崎君。そこからすぐ近く、北東2キロのところにアンデッドをキャッチ」
「わかった」
剣崎は電話を切って誇張するかのように始に言った。
「そうかい!なら俺は人間を守る。天音ちゃんや遥香さんも守ってみせる!」
そして剣崎はその場を離れた。


「何なんだよ一体・・・」
睦月は全力疾走して振り返った。しかし後ろからやってくるレオとの距離は一向に広がらなかった。それどころか差が縮まっている。やがて人気のない立体交差に入り込んだ。トンネルの入り口の壁に手を当て睦月は酸素を取り入れようとした。
「はぁ・・はぁ・・・もう限界だ」
バスケットをやっていて体力には少し自身があったがそれも限界を迎えていた。そしてゆっくりとレオの姿が近づいてきて、あぁ俺の短い人生もここまでなのか・・・、そう悟ったときだった。
「待て!」
上から突然大声が聞こえた。見上げると男が縁に足をかけ今にも飛び降りようとしていた。腰にベルトのようなものを巻きつけている。
「相手は俺だ!」
そして跳躍。
『ターンアップ』
音声が聞こえ、睦月の目の前に着地したときさっきの男の姿とは一変していた。

ブレイドは剣を抜くや否や真横に薙ぎ払った。しかしその剣はレオの鬣を数本斬っただけだった。腰を落として回避したレオが一気に間合いを詰めてくる。そして胸に迫り来るようなアッパーを打った。ブレイドの体が宙に浮き後ろに跳んだ。
「うわ!」
睦月は迫ってくるブレイドを避けるため壁に身を寄せた。ブレイドの足がコンクリートの地面を抉りやがて停止。しかし苦しむ様子は微塵も感じられなかった。その胸には剣が構えられていた。そして剣からカードを一枚引き抜く。
『サンダー』
剣に紫電が集約されていく。ブレイドは腰を落として剣を構えた。
「はぁぁ・・・ウェイ!!」
剣を振るい雷の刃が放たれた。それはレオに直撃し煙をあげた。ブレイドは追い討ちをかけるためそのなかに突っ込んだ。しかし気配がまったくしない。やがて煙がおさまるとレオの姿はどこにも見当たらなかった。
「くそ!」
ブレイドはバックルに手をかけた。スクリーンを通り抜けた剣崎はこっちを見ながら目を丸くする少年に歩み寄った。
「怪我は無い?」
「あっ、はい・・・ありがとうございます」
呆然とする睦月の肩にはさっきの蜘蛛がいた。この子にもライダーの資格が・・・、剣崎はそう思い眉をひそめた。そして肩を払い蜘蛛を叩き落した。
「これで君は襲われないはずだ。じゃあな」
「えっ!?待ってください。あなたは・・・」
剣崎は暖かい笑顔を向け颯爽と走り去った。
「今のが仮面ライダー・・・」
睦月は呟いた。

剣崎は停めてあったバイクに跨った。その時ポケットの携帯からお気に入りの着信音が流れてきた。それは白井邸からだった。
「もしもし」
「剣崎君。お疲れ様」
虎太郎のやんわりとした声が返ってきた。
「アンデッドに逃げられた。そっちで何か反応ないか?」
「いや、こっちにはないけど。それよりも剣崎君、何か大事なことを忘れてやしないかい?」
剣崎は顔をしかめた。記憶を辿ってみてもそれらしいものに行き着かない。
「何かあったっけ?」
「やっぱり・・・」
虎太郎のため息混じりの声が返ってきた。
「今日は天音ちゃんの誕生日だよ。ハカランダに行こうって言ってたじゃないか」
「あ!!」
剣崎は声を上げた。そういえばそうだった・・・すっかり忘れてた・・・。剣崎の額から汗が滴り落ちてきた。

さて剣崎君がハカランダでどんなプレゼントを渡したかについてはまた別の機会にでも書こうと思う。そして話は次の日の朝に起こった。

蜘蛛が再び動き出す。