カテゴリー3「高速と幻影」

まず一番は最初に気付いたのは始だった。
「カテゴリーA・・・」
バイクを道路の脇に止めバイザーを上げてあたりを見渡した。
「もう一体いるな」
伊坂の差し向けたアンデッドなのだろうか。カテゴリーAは山奥、そしてもう一体はそこから遠く離れた街の中。さてどっちに向かう・・・

(天音ちゃんや遥香さんも守ってみせる!)

不意に剣崎の声が蘇ってきた。
「関係ない・・・」
始は自分に言い聞かせるように言った。
「俺は俺の理由で戦う!」
そして再びバイクを走らせた。


伊坂のいる研究所でもすぐに動き出した。
「カテゴリーAだ。今度こそお前の力を見せてみろ」
「あぁ」
橘はゆらりと部屋を出て行った。そしてモニタにギャレンの位置を示すしるしが浮かび上がる。


最後に白井邸では、
「剣崎君。カテゴリーAよ!・・・もう一体いる。多分前の奴よ」
剣崎は飲み干した牛乳ビンを机に置いた。
「体は一つしかないんだ。どうしろっていうんだよ」
「カテゴリーAは今山の中にいる。もう一体は街中よ・・・ここまで言ったらわかるわね?」
「人間を守る。わかってる。こっちが終わり次第すぐにカテゴリーAの位置を教えてくれ」
「わかった。気をつけてね」
「ああ!!」
剣崎は家を出て行った。

三者三様の思いを胸に戦いに向かう。


「そこの橋を渡ったところだ。急げ、橘」
伊坂の言うとおり目の前には大きな橋があった。そこにできた谷は深く落ちれば一溜まりもないだろう。そしてギャレンはその橋の中腹に誰かがこちらの行く手を阻むかのように立っているのが見えた。ギャレンは男の前でバイクを止めた。
「なんだ?そこをどけ」
「お前達にカテゴリーAは渡さん」
「何だと!?」
ギャレンが呆気に取られる間にも男、始はカードを取り出した。
「あいつを封印するのは俺だ・・・変身」
見る見るうちに液体が始を取り囲み、液体がはじけ飛んだとき以前見た黒いライダーが立っていた。
「何!?」
動揺を隠せないままギャレンをよそにカリスは跳んだ。ギャレンに組み付き左腕で首を掴み押し倒す。万力のような力がギャレンの首を締め上げる。
「う・・ぁっ・・・」
ギャレンは左腕でカリスの腕を引き剥がそうとしたが全く動かない。カリスは右腕を伸ばしどこからともなくアローを召還した。
「く・・っそ!!」
ギャレンは右腕をホルスターへ伸ばし銃を抜くや否や発砲した。光弾がカリスの胸に直撃し腕が外れる。そしてギャレンはカリスを蹴り飛ばした。新鮮な空気が肺に一気に入り込んでくる。
「はぁ・・・」
カリスは立ち上がりアローを構え走り出した。ギャレンは発砲したがアローが間に割り込み光弾を弾く。そしてカリスはアローを振り上げた。袈裟に斬りつける、そう読んだギャレンは翻した。
「ちぃっ!」
予想以上に速い攻撃を何とかかわしギャレンは銃を突き出し照準を定めようとした。しかしカリスの姿は目の前にいなかった。首の後ろのあたりが何かを感じたかのようにぞっとする。ギャレンが振り返るとカリスはアローがすぐ目の前にまで来ていた。胸に衝撃が走り内臓がゆれる感覚に陥る。
「ぐっ・・・!!」
後ろに仰け反りながらギャレンは銃の引き金を引いた。しかしさっきと同じように光弾は弾かれカリスが目の前にまで迫る。ギャレンはカリスの顔を狙うコースに銃身を向けたがカリスは動じない。カリスはアローで銃を真横に弾いた。そして体をかがめ回転しまわし蹴りを放つ。ギャレンは橋の縁にたたきつけられた。
(どうした?)
その時、伊坂の声が聞こえてきた。
(何をやっている。カテゴリーAを追え)
「あんたの言ってたカリスって奴が俺の邪魔をいてる」
(何!?)


ブレイドがバイクを止めた前にはレオが立ってた。
「お前か。今度は逃がさない!」
バイクから降りブレイドは先手必勝とばかりにすぐに攻撃を仕掛ける。何発もの拳をレオに打ち込む。レオのストレートを下にもぐりこみ受身を取りながらで回避、そして横っ腹に右足で蹴りを入れその勢いに身を任せたまま左足での回し蹴り。後ろに飛ばされたレオは立ち上がってブレイドの頭上を跳び越そうとした。
「はぁ!!」
ブレイドもすぐさま跳びあがり頭上にいるレオを掴み一緒に空中から落下する。しかしブレイドは立ち上がるや否やレオをドロップキック。再び後ろに吹き飛んだレオにぶつかったコンクリートの柱が崩れる。
「今度は逃がさないって言っただろ!!」
気迫のこもった声を上げ、ブレイドは剣を抜きカードを三枚抜き取った。
『キック』
『サンダー』
『マッハ』
ブレイドが腰を落とし剣を掲げるその背後に三枚のカードが出現する、それと同時に稲妻が周囲に走り出した。後ろに展開されたカードは青白いレリーフに姿を変え、体に張り付いたその時ブレイドのマスクがスペードマークに光る。
「はぁぁぁ・・・ウェイ!!」
剣を地面に突き刺し声がその力の名を宣言する。
『ライトニングソニック』
―――誰よりも速く―――
その思いに反応するかのように稲妻が更に大きく、力強くなり火花が飛び散る。


ギャレンは銃身でアローの軌道を逸らして紙一重で攻撃を避けた。そして後ろに下がり距離をおく。
「どうした?」
カリスはアローを構えた。しかし突然背中に焼け付くような痛みと衝撃が走った。
「ぐっ・・!!」
振り返ると伊坂が掌をこちらに向けて立っていた。その体が虹色に輝く。
「ここがお前の死に場所だ。覚悟しろ」
光が収まりピーコックは走り出した。カリスの前には迫るピーコック、そして後ろにはギャレン。分が悪すぎる。
「ちっ!」
カリスはピーコックの上を飛び越えようと跳躍した。だがギャレンの精密射撃がカリスの体を打ち抜く。あえなく撃ち落されるカリスの前にピーコックは剣を持ち立っていた。
「はぁ!」
真横に一閃。こんどは首をつかまれカリスは後ろに投げ飛ばされた。その間にギャレンはカードホルスターから三枚のカードを抜き取る。
『ファイア』
『ドロップ』
『ジェミニ』
超高温の熱が周囲の大気を覆い尽くす。ギャレンの背後にはカードが現れ、レリーフとなりそして消えていく。
『バーニングディバイド』
ギャレンのマスクが緑色のダイヤのマークに発光しさらに足が炎を覆われた。

カリスはピーコックの背後からギャレンが飛び出すのを見た。足の炎の熱がスラスターとなったかのように噴き出しギャレンは体を捻る。
「はぁぁぁ・・・!!」
しかしカリスは立ち上がり空中から迫ってくるギャレンを冷静に見つめた。そして自分の間合いに入ったその時、
「っらぁ!!」
カリスは渾身の力をこめギャレンの足をはらった。しかし、
「何!?」
カリスは動揺した。なぜならアローがギャレンに命中した瞬間、本来なら軌道がそれ地面に叩き落されるはずのギャレンの姿が突然消えてしまったからだ。思わず首を左右に振りその姿を探した。だが、
「吹き飛べ・・・」
後ろで熱さと声がした。さっきの何だ・・・まさかフェイク?そう考えたときカリスは何もかもが手遅れだった。ギャレンの足がカリスの横っ腹にめり込む。焼けるような痛み、そして足の焔がそれに追い討ちをかけるかのように爆散した。
「ぐぁ!!」
強烈な衝撃を受けカリスの身は橋の外に投げ飛ばされた。そのまま落下し、水の跳ねる音が遥か下で聞こえる。それを伊坂は見て嘲笑した。
「ふっ・・・伝説のアンデッドも息絶えたか。次はカテゴリーAだ。行け、橘」
ギャレンはバイクに乗りその場を後にした。


稲妻の一つがパイプを焼き水を吐き出す。その時ブレイドの周りで変化が起こった。
「・・・!?」
その変化に戸惑ったのはブレイド本人だった。周囲がまるで水銀の中にいるかのようにゆるやかになり始めたからだ。パイプから噴き出す水は細かい水の粒にまで見える。そしてレオはスローモーション再生したかのようにこっちに向かってきている。その中で唯一自由に動けるのは自分だけだった。
「はっ!」
ブレイドはレオの目の前にまで来て胸にパンチを入れる。レオは空中に飛ばされ後ろに下がっていく。今度はブレイドはその先に回りこんだ。
「ウェイ!」
そして真上に蹴り上げる。空中のレオを見上げブレイドは少し距離をつくり腰を落とした。それと同時に今まで放出していた雷が一気に収束されていく。そして足に溜めた力を解放するかのほうに跳躍。空中で一回転、そしてつま先、アキレス、太ももと雷で覆われていく右足を突き出し物理法則を捻じ曲げ一気にレオに向かって加速する。。
「ウェーーーーイ!!」
キックがレオに命中したところで時が本来の時間を取り戻した。水は勢いよく噴き出しさっきの感覚が消えた。そしてレオは地面に叩きつけられ体中には紫電が迸っていた。ぴくりとも動かないレオのバックルが開かれる。ブレイドは剣を引き抜いてカード投げつけた。カードはレオを吸い込みブレイドの元に戻ってきた。
『3 ビートレオ』殴打力の強化。

それはテクニカルコンボと呼ばれるものだった。カード三枚を使役し互いの効果を最大限に発揮させる大技。まさにライダーにとって「必殺」と呼べるものに等しい。ギャレンの『バーニングディバイド』はジェミニの能力を追加させ攻撃のかく乱および二体での同時攻撃を可能とする。ブレイドのコンボ『ライトニングソニック』は雷の力をキックに付随、しかしそれだけではない。自身も雷のごとき速さを短時間得るのだ、そして『ライトニングブラスト』より強力な一撃を与える。

そしてブレイドは次の場所に向かうべく通信網を開いた。


「うっ・・・・」
始の体は川岸に打ち上げられていた。持てる力を振り絞り何とかここまで来て、そして倒れた。さっきの攻撃で受けたダメージが大きすぎる。始は右のわき腹から血が出てくるのを感じた。水のひんやりとした感覚を感じながら視界が次第にかすんでいく。
「くそ・・・」
始は這い上がろうとしたが腕に力が入らない。ここまでなのか・・・これが最期なら・・・最期にもう一度だけ会いたかった・・・
「天音ちゃん・・・」
その声と共に始は意識を手放した。


それからしばらくした後、剣崎は橘が戦っていた橋に来ていた。
「カテゴリーAを見失った!?」
携帯から聞こえる栞の声も心なしか焦っていた。
「そうなの。急に反応が消えて。そこでギャレンも戦ってたみたいなんだけど・・・」
「まだ近くにいるかもしれない。少し探してみるよ」
剣崎は電話を切って川を見下ろした。そして、
「誰か倒れてる・・・!」
剣崎は川岸に誰か倒れているのを見つけた。
「おーい!大丈夫かーー!?」
しかし倒れて気を失っているのかその声には反応しなかった。剣崎はあたりを見回して下にくだる道を見つけ走り出した。

「大丈夫か!?」
剣崎は斜面をゆっくりと滑り降りながら何とか川べりにたどり着いた。倒れているのはどうやら男性らしかった。うつ伏せで倒れているにもかかわらずその後姿に剣崎は見覚えがあった。
「お前・・・」
薄手のコートそして腹から出血しているのか緑色をした血が流れている。剣崎は始に駆け寄った。