カテゴリー2「君に捧げる鎮魂歌」

どしゃぶりの雨が降る中橘が白井邸を訪れてきた。出迎えた虎太郎は橘の出で立ちに驚いた。
「橘さん、その格好どうしたんですか!?」
喪服のようなスーツを着込んだ橘に後からやって来た栞と剣崎は口をつぐんだ。
「橘さん・・・」
「あぁ、そのまさかだ」
「そんな・・・酷い」
「全部俺のせいだ・・・」
そして栞の方へと向いた。
「犯人は分かってる、伊坂だ。広瀬、アンデッドサーチャーで探して欲しい」
「橘さん、小夜子さんの仇を?」
虎太郎は思わず聞いてしまった。
「俺にはそれしか残っていない。たとえこの身が滅びようと俺はやる。剣崎、お前は手を出さないでくれ」
「じゃあ橘さん・・・恐怖心が消えたんですか?」
剣崎の言葉を聞いて橘は自嘲的な笑みを浮かべた。
「不思議だよな・・・小夜子が死んだら、それと一緒に恐怖心も消えた・・・情けないよ、自分が」

橘がいなくなり雨もいつのまにか止んでいた。栞は橘に言われたとおりアンデッドサーチャ―を最大範囲に広げ探し始めた。剣崎もそれを助けるためにパラボラアンテナを移動させる。一人手持ち無沙汰な虎太郎だったが一本の電話がかかってきた。
「もしもし天音ちゃん?どうしたのさっき電話くれたところなのに・・・」
そして受話器から聞こえてくる声に虎太郎の顔は見る見るうちに変化していった。
「始が帰ってきた!?」
虎太郎の大声に思わず剣崎と栞は作業を止めて虎太郎の方を見た。
「いや、駄目だよ中に入れちゃ!あいつはねアンデ・・・」
そこで電話は切れた。虎太郎は乱暴に受話器をおいて家を出ようとした。そこに剣崎が呼び止めにかかる。
「おいどこに行くんだよ?」
「決まってるだろ。姉さんのとこさ!あいつをあそこに居させちゃいけなんだ・・・」
「そしてあの二人にショックを与える。悲しませる。天音ちゃんや遥香さんに辛い思いをさせていいのか?」
「でも・・・」
虎太郎は口を濁した。
「俺は良かったと思ってる。これからもアンデッドは襲ってくる。でもあの二人を守れるのはあいつだけなのかもしれない。俺はそう思う」
それ以上虎太郎は何も言わずに階段を駆け上り自室に引っ込んでしまった。ドアが音を立てて閉められその後から泣き声と嗚咽が漏れてきた。剣崎は苦々しい思いでその部屋を見つめた。
その時、アンデッドサーチャーが反応した。


「・・・」
橘はかつて小夜子がいた診療所に来ていた。机の上には完成されたパズル。二人がほほえましく笑ったその写真を橘がずっと眺めていた。そこに橘の携帯に着信が来た。発信元は白井邸からだった。
「橘さん、アンデッドをキャッチしたわ。伊坂かもしれない」
「わかった」
静かに橘は診療所を出て行った。

小夜子、待っててくれ・・・今度こそ君の仇を討つ・・・!


波が荒立つ海に一台のジープがあった。そこにサーファーが武装兵ともみ合っていた。
「なんだよ!放せこら!!」
しかし力に勝てず砂浜にあっけなく押さえつけられる。そのサーファーの顔に研究員が薬品をしみこませた布を当てた。
「おとなしくしてろ」
その言葉どおりサーファーは眠ってしまった。

「これで終わりです」
ジープに戻ると伊坂と烏丸が待っていた。サーファーをウェットスーツを着せたまま乱暴に乗せた。
「よし、行くぞ」
しかし伊坂がそう言った時遠くからバイクの音が聞こえた。そして程なくその姿が見えてくる。
「ブレイド・・・」
剣崎は伊坂らの前でバイクを止めた。そしてその隣の烏丸に目を向けた。
「所長!?何やってるんですか!」
しかし烏丸は何も答えない。
「先に行ってろ」
伊坂の命令で烏丸もジープに乗り込み発車した。剣崎は立ちはだかる伊坂に対峙しベルトを取り出した。
「変身!」


しかし以前と同じようにブレイドはピーコックに押し切られてしまう。砂浜に投げ飛ばされるブレイド、その後ろから橘がバイクに乗りやって来た。
「橘・・・」
ピーコックが橘を見据える。
「橘さん!所長が!」
「ここは俺がやる。お前は所長を追え」
「でも!」
「いけ!!」
今まで聞いた中でも力強い台詞だった。その橘はずっとピーコックを見つめていた。
「はい!」
そう言ってブレイドはその場を立ち去った。

「伊坂・・・貴様だけは・・貴様だけは俺が倒す!」
「ふ・・・この前のように行くかな?」
不敵な声を漏らすピーコックに耳を傾けず橘はベルトを装着する。右手を前に構え宣誓の声をあげる。
「変身!!」
ゲートを通り抜けた途端ピーコックの火球が飛んでくる。しかし構うことなく両腕を前に構え火球を真正面から受け止めた。それでも勢いは落ちることは無い。以前のように吹き飛ばされたりしない、熱さが腕を伝わるも気にならない。一気に肉薄したピーコックの顔面に右拳が入った。そして次に左拳が顔面にめり込む。すぐさまピーコックは剣を召喚し不意をついてギャレンの下から剣を振り上げた。しかしギャレンは体を仰け反らせぎりぎりの距離をかわしアッパーを打つ。

小夜子・・・君との思い出は数えるほどしかない。でも君を思い出させる思いは沢山ある。そしてなにより、君の笑顔が忘れられない!!

君が居てくれただけで俺はどれだけ救われただろうか。あの笑顔があったからこそ俺はここまで来れた。遅いかな・・・今頃になって言うのは・・・俺は・・・俺は・・

君の事が好きだった!君の事を大切におもっていた!!

でも俺はその言葉を永遠に君の前で言うことが出来ない・・・でもその思いがいつか・・・いつか君へと届くのなら俺はこの弾に全ての思いを込め、この体を炎で包み込みこの男を倒そう!それが・・・それが俺に今出来ることなら!!

そしてその力は打つごとにより力強く、熱くなる。ギャレンはピーコックの剣を左肩で受け止めそれをロックし顔面を何発も殴りつける、そしてロックした腕とは反対の右腕で剣を奪い取り瞬く間に斬りつける、そして左手に持ち替えて胸を真横に薙ぎ払うように斬る。ピーコックは胸を押さえつけ
「ぐっ・・・っらぁ!!」
声にもならない掛け声とともに無数の羽が飛び出した。一瞬にして鋭利な羽が生成されギャレンに襲い掛かる。しかしすでにそこにギャレンの姿は無かった。
「はっ!」」
後ろ向きに大きく飛びながら砂浜に刺さりきらなかった羽に向かって光弾を撃ち込む。巻き上がる煙。しかしその中から光弾が飛び出しピーコックに向かう。
「ぐぁ!」
ギャレンの光弾が胸、腕、脚に次々と命中していく。ねらい澄まされたその弾は無駄なくピーコックにダメージを与える。
「っ・・・!!」
ついにピーコックは膝を付いた。ギャレンは左手に持っていた剣を突き刺し銃からカードを開き、三枚抜いた。
『ファイア』
『ドロップ』
『ジェミニ』
ギャレンの思いに反応するかのように紅い炎が一気に開放されていく。
『バーニングディバイド』
左拳を固めギャレンは二度と会うことの無い、けれどもその彼女に届くよう最大限の声を振り絞った。
「小夜子ーーーーー!!!!!!」
今までギャレンが見せたことも無いような大量の炎が噴出し脚全体を包み込む。そしてギャレンは空中へと跳びあがった。体が炎によって無理やり捻られていく。空中で弧を描いていたギャレンの体が突然二つに分裂した。全く同じ動きをした二人。そして二人分の炎がピーコックに叩きつけられる。
「はぁ!!」
ピーコックの肩に二人のギャレンの脚が命中する。ピーコックは地に臥しいつの間にか一人に戻っていたギャレンは背を向けたまま前に歩いた。そして炎が解放されピーコックを中心に爆発が起こる。それがおさまると伊坂が体中火傷を負いながら立っていた。
「くそ・・・俺が負ける・・・!何故・・・」
そして伊坂はピーコックに姿を戻し砂浜に倒れた。バックルが割れギャレンはゆっくりとカードを抜いた。そしてピーコックの元に歩み寄りカードを手放した。カードはひらりとピーコックの上に落ちカードに封印されていく。
『J フュージョン・ピーコック』??
手元に戻ってきたカードをギャレンは強く握りしめた。