カテゴリー1「瓦礫からのスタート」

栞は剣崎が研究所に向かってくるのを見つけその姿に顔を青白くさせた。
「剣崎君!?」
急いで剣崎に近寄り体を支える。
「広瀬さん・・アンデッドは封印しました・・・研究所の人たちは・・・?」
顔を下に向ける栞。栞は研究所内を歩き生存者を探したのだが誰一人としていなかったのだ。剣崎はさっきのことを話そうと口を開く。
「それより広瀬さん。橘さんが・・・」
しかし最後まで言い終えずに栞はこういった。
「そのことで話があるの。ちょっと着いてきて。歩ける?」
剣崎の体を支えながらゆっくりと二人は歩き出す。
着いた場所にはトレーラーが一台あった。オペレーターがライダーと連絡する際に使われるものだ。中にはパソコンが置いてある。
「エンジン部はもう駄目だったけど予備電源があったからパソコンだけは動かせたの。これを見て。かろうじて研究所内の監視モニターの映像が一部残ってたの。」
モニターに映し出されたのは所長室に続く長い廊下。そこを肩に烏丸を担いだ者が通っていく。その姿を剣崎が見間違えるわけが無い。近くで戦ってきて、そしてついさっき去っていたギャレンであった。
「やっぱり・・・橘さんが。」
剣崎が呟く。
「もしかしたら橘さんがアンデットにここを襲わせたのかもしれない・・・。私聞いたの橘さんと所長が揉めてるの。」
―――――
その時栞は書類を烏丸に提出しようと部屋に訪れようとしたところだった。
「何ぃ!?」
「あんたが全部悪いんだよ!!」
語彙を荒げる烏丸と橘。栞は見ていないものの凄い論争だったそうだ。
「お前に私の苦しみの何が分かる!」
「もういい!聞きたくない。とにかく俺の邪魔はするな。邪魔をするならたとえBOARDでも!!」
そういって橘は部屋を出たそうだ。


剣崎の思いは疑念から核心に変わっていった。そして橘と出会った日のことが脳裏にフラッシュバックする。
「君がブレイドの剣崎一真か。俺はギャレンの橘朔也だ。力をあわせて頑張ろう。」
「はい!!」
剣崎はただうれしかった。初めて「仲間」と呼べる存在が出来たと思ったから。だがそれも遥か昔の出来事のように思えた。また裏切られた・・・そう剣崎はそう思うことしか出来ない。
「これで十分でしょう。橘さんが裏切ったの。所長を誘拐したの!!」
この言葉が引き金となったのか剣崎の心の中の全てが一気に流れ出た。
「俺は本当のことを知らされずにただ動いていた・・・・BOARDは何が目的で何のために存在していたのか・・・」
「剣崎君・・・」
顔を曇らせる栞に構わず剣崎は話し続けた。そうしないと心が壊れてしまいそうだったから。それはある種の自己防衛だった。
「なぁ教えてくれよ!!アンデッドはどっから来たんだ!俺達は何のために戦ってきたんだ!俺は・・・人に裏切られるために戦ってきたのかよ!!!」
栞は何も答えることが出来ない。彼女も同じだった。一介のオペレーターに過ぎなかった。
「ちくしょう・・・」
壁にこぶしを打ち付ける音だけが虚しく響いた。



「何日間もあのままなんだ。話しかけても生返事ばっかりでさ。」
「橘さんに裏切られたのが相当ショックだったんだ。」
栞と虎太郎の視線の先には外で一人放置された重機に座っている剣崎がいた。心ここにあらずな感じを漂わせている。
あの日栞は何とかトレーラーを動かせるようにしBOARD内部に残されていた資料やデータの数々を積んで剣崎と共に虎太郎の家に帰ってきたのだった。
「結局どうだったのさ ?BOARDと烏丸所長って人は?」
「それが不思議なの。もう一度あそこに行ってみたらすでに整備されていたの。どうも上のほうの力が働いたみたい。」
後日もう一度跡地を訪れた栞は驚いた。そこは何事も無かったかのように更地になっていたのだ。BOARDがどれくらいの組織かはわからない。どうもスポンサーか他の何かが裏にいるようなのだが徹底した秘密主義だったので知ることが出来なかった。
「一体なんなんだ。BOARDって・・」
そういいながら虎太郎は牛乳を飲んだ。そして部屋に積みこまれてきた荷物に目を向ける。
「にしてもすごい量だな。これ全部解析するの?」
「それしかないでしょう。ちょっと運ぶの手伝ってよ。」
重たいダンボールやケースの数々を部屋に運んでいく。虎太郎は精一杯なのに栞は楽々と自室に運んでいく。
「あぁそうだった。」
と栞。
「何なのさ?」
虎太郎が返す。
「部屋貸してくれるのはうれしいんだけど一応レディーの部屋だから覗いたり勝手に入らないようにしてね。」
その言葉に虎太郎が反抗する。
「僕がそんな人に・・・」
「見える。」
そういった栞はピシャリと部屋のドアを閉めた。


「いや、参ったよあの娘。人を痴漢呼ばわりしてさ。」
「お前・・・」
虎太郎は剣崎の隣に座った。そして剣崎がここに帰ってきてから初めて自分から口を開いた。
「なぁ聞いてもいいか?お前人に裏切られたこと何回くらいある?」
「何回って・・・そんなの数えたことないし。」
「俺は何百何千とある・・・その度にもう人は信じないって誓った。でも気付いたらまた人を信用してる・・・。情けない話だろ。そんな自分が嫌になってくる。」
俯く剣崎。虎太郎はこう言った。
「でもそっちのほうがいいよ。何百回人を裏切った奴より何百回裏切られて馬鹿を見た人間の方が僕はすきだな。」
それを聞いた剣崎は少し笑った。
「お前変な奴だな。」
「お互い様だろ。」
虎太郎も笑う。場の雰囲気が少しだけ軽くなった。その時栞が窓から顔を出し二人に叫んだ。
「剣崎君。早く来て!!大変なの!!」
二人は急いで栞の部屋に向かった。部屋の中ではパソコンからアラーム音が鳴り響いている。
「何なのこれ?」
と虎太郎。栞は急いで解説する。
「アンデッドサーチャー。これでアンデッドの現在地を特定するの。カテゴリーの大まかな特定も可能よ。ほとんど出来ないけど。」
後で聞いた話だがこれは戦闘本能が一定値を越えるときアンデッドから発する特殊な波長を感知するシステムらしい。その波長を登録しておけばカテゴリー分けもできる、もちろんライダーの現在位置も。そして円錐をひっくり返したものが東京の地図の上にあった。場所はすぐ近くの・・・
「そこすぐ近くの天文台だ」
と虎太郎。しかし剣崎は一向に動こうとしない。
「どうしたの。早く出動しなさいよ。あなたライダーなんでしょ!」
しかし剣崎は後ろを向いたまま動かない。その姿に見限った栞が無理矢理剣崎を振り向かせ頬にビンタを入れた。
「何すんだよ!!」
「馬鹿!!いつまでぐずぐすしてるのよ!傷ついたことも分かる、悩みも分かる。でもあなたライダーでしょう!?目の前の苦しめられてる人たちを救うのがあなたの仕事じゃないの!?」
その言葉に剣崎は圧倒され
「行ってくる。」
とだけ言い残してヘルメットを持って出て行った。それに虎太郎も続く。
「待ってよ。取材してくれる約束なんでしょ!」
剣崎がバイクで行ったあとを虎太郎が自転車で必死についていこうとする。



声が聞こえる―――そう思ったのは相川始だった。誰にも聞こえない声、そして脳裏に浮かぶ姿。始はコートを持ち部屋を出た。上では遥香が誰かと話している。
「天文台でついさっき化け物が出たんですって。」
「嘘でしょ!?天音、友達と天文台に・・・」
始はバイクを駆り目的地へと目指す。


場所はまだ雪が少し残る天文台。シーズンにもなればそれなりににぎわうその場所は静かであった。そして動かない人の山。
「ぐあぁぁぁ・・・・」
男がうめき声を上げる。その男は蔓で首を締め上げられていたのだ。たちまち苦しそうなうめき声と表情はなくなってしまった。蔓が緩み男が落ちる。その蔓の先には――――体の至るところに蔓を巻きつけ右腕にはムチのようについた蔓、体の所々には棘。植物のアンデッド、プラントであった。


剣崎が天文台に着いた時プラントはまだそこにいた。
「なんてことを・・・何故・・こんな・・!!」
倒れて折り重なっている人を見ながら剣崎は子供の頃の自分とさっきの栞の言葉を思い出す。
―――そう、俺は戦わなくちゃならない。人を助けるのが自分の仕事だから。
剣崎はバックルとカードを取り出す。カードを入れようとしたとき視界の端に人の姿を捉えた。プラントの後ろで子供が逃げようとした、がこけてしまったのだ。少しそこに視線を向ける剣崎、だが一瞬の隙を付かれプラントは蔓を伸ばし剣崎に攻撃を仕掛けた。なんとか横に転がって回避する剣崎、だが蔓は想像異常に俊敏に動き剣崎の首に巻きついた。徐々に蔓を引き寄せていくプラント、そしてかすれていく剣崎の意識。プラントと剣崎の距離が肉薄したとき剣崎は薄れる意識のなかでなんとかバックルにカードをいれた。ベルトが巻きつきレバーに手を掛ける。
「・・・変身!!」
「ターンアップ」
プラントはゲートが飛び出し後ろに飛ばされると同時に剣崎の首を絞めていた蔓も外れた。呼吸を整え剣崎はゲートに向かう。
「はぁ・・はぁ・・・。うわぁぁぁ!!」
ブレイドに変身した剣崎はブレイラウザーを抜きプラントに走り出す。それに反応しプラントは蔓を伸ばしてブレイドに攻撃。それをかわしながらなおもプラントに向かうブレイド。しかし
「うっ」
ブレイドは突然うめき声を上げた。さっきブレイドにかわされた蔓が後ろから180度ターンし背中に攻撃したのだった。その蔓は一気にプラントの元に戻りもう一度伸びてきてブレイドが手に持っていた剣を弾いた。敵の武器が弾き飛ばされたのを見たプラントは一気に間合いを詰め右腕の蔓で攻撃した。それを受けて雪の上にブレイドは転がった。プラントはさらに右腕を真横に振ってきたがブレイドは前回り受身の用量で下を抜けて距離をとる。そしてブレイドは落ちていた剣を急いで拾いに行く。すかさずプラントは蔓を伸ばして攻撃してきたがブレイドは間に合った。剣で蔓を斬って攻撃を阻止する。
「今度はさっきのようにいかないぞ!」
ブレイドはプラントの伸ばしてくる蔓を次々と両断して距離を詰める。そして一気に飛んだ。プラントは尚も蔓を伸ばして攻撃をしたが空中にいるブレイドはそれをも斬って着地。プラントと一気に肉薄する。
「ウェイ!!」
袈裟に一閃。しかしプラントは蔓を真下に打ち込み砂煙や雪を舞い上がらせた。視界が見えなくなったが剣を振るった。しかし手ごたえが無い―――プラントの姿はそこには無かった。
「どこだ!逃げるのか!!」
ブレイドの声に反応する者は誰一人いなかった。



プラントはまた別の場所にいた。状況悪しと見切りをつけ逃げたのだった。しかしそこに突然バイクに乗った男がプラントの前に現れた。その男はバイクから降りプラントに視線を向ける。
――――男の腰からバックルとベルトが突如出てきた。男はカードをバックルの溝に通す。
「変・・身・・・!!」
「チェンジ」
無機質な声がした。その瞬間男は人間ではなかった。黒をベースとした金のラインが入っている。そしてハートを模したバックルに赤いマスク。プラントは驚きながら確かにこう呟いた。
「カ・・・リ・・・ス・・・!」
「聖杯」の名を持つものがそこにはいた。