Not stop

烏丸所長の非公開記録、そこにはこう書かれていた。

『ライダーシステムとラウズカードシステム。それはアンデッドをカードに封印し、さらにその力を使役する、つまりジョーカーのシステムを人間に合わせて作られたものである。アンデッドの封印が解かれ、私達はジョーカーの力に目をつけ研究を・・・』

橘はパソコンのテキストをゆっくりと読んでいった。
「確かに・・・だがどうしてこれが秘密にされなければならないんだ・・・?」
橘はマウスをクリックし新たなページが表示されていく。まず初めに出てきたのは一枚の画像だった。それはラウズカードであり、今までに見てきたものとは一線を成すものだった。背景は黒く、緑のいびつな紋章のようなものが描かれている。そしてその左上には『JOKER』と刻まれていた。
「これがジョーカーのカードか」
マウスをスクロールするとテキストが出てきた。

『ジョーカーのカードが発見され調査したところ、ジョーカーはどの始祖にも当てはまらないことが判明した。ならジョーカーは何のために存在する?私達はさらに調査をすすめ結果一つの事実が浮かんだ。ジョーカーが勝利者となったとき・・・』


「めんどうだからここ一帯の時を全部止めちゃったよ」
場所は剣崎と始がいたところからそう遠くない、都心で人がにぎわうジャンクションだった。時計の針は午後1時を指そうとしている。だが秒針は一向に動こうとしない。それどころかにぎわっている人達も動こうとしない。そして、
「ジョーカー」
少年の目の前にいる剣崎と始も動かない。時が停止してるのだ。キングは邪悪な笑みを浮かべて始を見た。だが次に剣崎を見る目つきはとてつもなく冷ややかだった。そして剣崎に向かって拳を振るおうとしたが、

ガン

見えない壁のせいで剣崎に拳は到達することはなかった。ここは時間の停止した空間、隔絶された空間に触れることは許されない。
「っ〜〜!動かせ!」
キングは腕を押えながら隣のスカラベに命令した。命を受けたスカラベの能力ですぐに時は正常に動き出す。時計は1時をさし音楽が鳴り響く、人々は何も無かったかのように動き出す。だからそこにいる異形の姿に気づくのが遅れた。
「始!」
剣崎がスカラベの姿に気づき身を構えた。それが引き金となり周りの人がスカラベの存在に気付き悲鳴を上げた。さらに悲鳴は感染していきジャンクションの一角から人がどんどん消えていく。
「ブレイドが邪魔だ。やれ!」
その中で少年が叫んだ。命を受けたスカラベが剣崎よりも速く動き出す。スカラベの薙ぎ払われた腕によって剣崎はコンクリートを転がった。
「剣崎!」
始が駆け寄ろうとしたがキングがそれを妨げる。
「ジョーカー、君は僕と来るんだ。ほら、カードはここにある・・・」
始のカードを見せつけるように広げた。当然、剣崎もそれを見ていた。
「カードを・・・下がれ始!」
バックルにカードを装填しベルトが腰に巻きついた。
「変身!」
出現したスクリーンを突き破るような勢いで剣崎は駆け抜けた。そしてその勢いのままスカラベに拳を放つ。だが、
「!?」
目の前にいたはずのスカラベの姿がない。それと同時に背後で感じる気配。振り向くとさっきまで目の前にいたスカラベがそこにはいた。時間を止められたのだ。だがブレイドが振り向くのに合わせ、スカラベはブレイドを投げ飛ばし、ブレイドは宙を舞い手すりに叩きつけられた。
「くっそ・・・」
ブレイドは立ち上がり左太ももに取り付けられたホルスターに手を伸ばした。しかしさっきと同じように、
「止めろ!」
少年の一言でスカラベの能力によりブレイドが動きを止めた。キングはブレイドに近づいてホルスターの剣に手をかけた。そして、
「動かせ!」
時間が動き出す。ブレイドが剣を抜くよりも速くキングはブレイラウザーを奪い取った。
「あれ?」
ブレイドが一瞬だけ視線を落とし、上を向いた時には己の剣の刃が目の前にあった。
「うぇぁ!?」
顔面に衝撃が走りブレイドはよろめいた。
「はぁっ!」
その隙にもキングは逆手に構えた剣を袈裟に、そして真横に斬り払う。倒れたブレイドにキングは最後に手を持ち替え真上から叩きつけるように振り下ろす。だがブレイドは片膝を立てて肩でそれを無理やりに受け止めた。剣の峰を掴み逃げないように固定しようとする。しかしキングのほうが一枚上手であった。さっさと剣を手放し、低い位置にあるブレイドの胸に前蹴りをぶち込んだ。

その一連の流れを始はもちろん見ていた。
(何故だ・・・何故奴は停止した時間の中を動くことができる?)
ブレイドが動きを止めた瞬間、確かに周りの空間も停止したはずだった。そこに正しい時間の流れが入り込むことはない。だがキングは何事もないようにそこに入り込んだ。
(何か秘密があるはずだ・・・)
始はスカラベとキングを見比べた。秘密があるなら何か印のようなものがあるのではないかと考えたのだ。そう、例えば共通したものを身につけているとか・・・、
「あれか・・・!」
始はスカラベに向かって走り出した。それが不意打ちのような行動だったので始の対処に少し遅れた。始はスカラベの右腕に組みつき、

シュッ

何かが布のようなものが擦れる音がした。そしてスカラベは始を力任せに放り投げ始は時計のある柱にぶつかった。
「始!」
ブレイドがすぐに駆け寄った。始は背中の痛みにうめきながらも手に持たれたものをブレイドに差し出した。
「これは・・?」
それはぼろい布きれだった。だがその布と同じものが少年の右腕にもくくりつけられていた。キングはわずかに目を見開いた。
「おそらくこれが時間停止の影響を受けない秘密だ」
ブレイドは布きれを受け取り左手に巻きつけ、グッと握った。
「止めろ!」
「無駄だ」
始の嘲笑うような声が響く。その言葉通りスカラベの体が一瞬輝き能力が発動したはずだったのだがブレイドは動きを止めなかった。立ち上がり右手は剣を握り直し、そして左手を目の前の敵に向かって突き出す。
「お前に・・・俺の時間は止められない!」
そう言い放ちブレイドは駆け出す。剣を振り上げて真っ直ぐ振り下ろした。スカラベは時間を停止させることを止め剣が最高の力で襲ってくる前に両手で止めた。白刃取りのような状態でブレイドは剣を引いて新たに攻撃することが出来なかった。だが、
「うおおぉぉぉ!!!」
ブレイドの雄叫びと共に抑えられていた剣が徐々に動き出す。そしてスカラベが耐え切れなくなったとき、解放された力がスカラベに直撃する。渾身の一閃を振るったブレイドは立て続けにドロップキックを胸に打ち込んで一気に突き放した。さらに剣に備え付けられたカードホルスターを展開させ三枚のカードを抜いた。
『サンダー』
『キック』
『マッハ』
「はぁぁぁぁ・・・!!」
背後にカードのシルエットが浮かぶ中、ブレイドは腰を落としつつ逆手に持った剣を高く掲げた。剣を地面に突き刺したとき、カードが足、胸、頭と貼りついて消えた。そして紫電が走った。
『ライトニングソニック』
無限に発散している時が『0』という極限に収束されているような感覚に襲われる。その中でブレイドだけが弾けた。駆け出した勢いをそのままにブレイドは宙へ跳ぶ。最高点に達したときに突き出した右足が紫電によって一瞬で覆われ、まるで一本の矢のようになる。跳び蹴りだ。
「ウェーーーイ!!!」
全てのベクトルを右足に集約し、さらには雷が籠もった一撃をスカラベの胸に叩き込む。その瞬間に時が元あるべき無限に発散していく。最高速の一撃を受け、スカラベは吹き飛ばされ仰向けに倒れた。

カチャッ

いまだ雷の走る体から軽い金属音が聞こえる。ブレイドは突き刺した剣を抜いてカードを取り出した。それをスカラベに投げつけて封印する。
『10 タイムスカラベ』対象空間の時間停止
「あとは・・・」
ブレイドはもう一人の敵を探した。

カシャッ

シャッターが切られる音がした。その方向を向くと少し離れたところで少年が携帯片手に、
「すっげぇ・・大迫力!やるねえ、人間のライダーも」
「ふざけるな!!」
怒りを露にするブレイドを馬鹿にするように笑ったキングは始の方を向き、
「でもこのカードが僕の元にあるのを忘れないでよ?ジョーカー」
そのとき、少年の体が一瞬だけ金色に輝き姿が消えてしまった。
「待て・・・!」
始が追おうとしたが体が上手く動かず躓いてしまう。さっきのダメージが大きかったのだろうか。
「始!?しっかりしろ!」


「落ち着いたか?」
二人は近くの高架下に来ていた。剣崎に連れられていたときの顔色は悪かったものの、涼しいところに来て顔色は大分マシになったように見える。石でゴツゴツした始は地面に座った。
「始。お前は傷を治した方がいい」
「余計なお世話だ・・・」
始は顔をしかめつつ、
「カードは俺が取り戻す。お前の手は借りない」
「何言ってんだよ。俺たち仲間じゃないか?」
始は冷たい視線を放った。
「そんなこと言ってもいいのか?俺の正体は・・・」
「相川・・・始だろ?」
始が言い切るよりも早く剣崎が言った。冷たかった始の目が少しだけ変わった気がした。
「・・・」
二人はしばらく無言だった。だが高架下に足音が響いた。やってきたのは、
「橘さん」
橘だった。真剣な顔つきで二人の元で歩みを止めた。剣崎は気楽な感じで笑みを浮かべて、
「橘さん。もう大丈夫です。アンデッドは封印しました」
「剣崎。俺の敵はまだそこにいる」
橘がゆっくりと指を指した。その方向にいたのは紛れも無く始だった。
「そいつは・・・ジョーカー・・・!」
「橘さん聞いてください。こいつは・・・」
「お前こそ聞け!」
そして橘は話し出した。

・・・
『ジョーカーのカードが発見され調査したところ、ジョーカーはどの始祖にも当てはまらないことが判明した。ならジョーカーは何のために存在する?私達はさらに調査をすすめ結果一つの事実が浮かんだ。ジョーカーが勝利者となったとき地球上に存在する全ての生物が滅びる。これではジョーカーは殺戮マシーンと呼んでもいいのでは無いだろうか・・・?』
「そんな・・・!」
そのとき電話の着信音が鳴り響いた。
『見てくれたかな?橘君」
「広瀬さん!?」
電話の主はさっきまで部屋にいた男からだった。
「これが本当ならジョーカーは・・・」
『そうだ。それと言い忘れていたが・・・今はジョーカーよりも剣崎君の方が問題だ』
「剣崎が!?どういうことです??」
受話器越しで静かに男は話した。
『剣崎君はジョーカーに取り込まれようとしている』
・・・

「ジョーカーが全てを滅ぼす・・・」
剣崎はジョーカーが殺戮マシーンと呼ばれる理由『だけ』を聞かされた。橘はバックルを取り出しカードを装填しベルトを装着する。
「変身」
出現したスクリーンを通り抜けギャレンへの変身が完了し銃を抜いた。
「ジョーカーを今封印する!」
だが始の前に剣崎が立ち塞がった。それを見てギャレンは銃口を下げた。
「橘さん!」
「どけ剣崎・・・」
始が立ち上がり剣崎の前に行こうとした。が、剣崎はそれを許さなかった。
「橘さん。俺はこいつを信じます!」
「剣崎、これはお前の為でもあるんだぞ・・・!」
「こいつは人類を滅ぼしたりはしない。別の解決法があるはずです」
「そんなものはない!!どけ!!」
ギャレンが再び銃口を始に向け一歩にじり寄る。それにあわせて剣崎も始の壁になった。
「もし無いなら!そのときは・・・」
チラリと始の方を見て、
「俺が封印します」
目には決意を秘め剣崎は一歩も下がらなかった。そして橘と同じようにバックルを取り出しカードを装填した。
「変身」
ブレイドはすぐに右腕に装着されたラウズアブゾーバーを起動させた。それと同時にギャレンも騎士と女王のカードを抜き取る。
『アブゾーブクイーン』
『フュージョンジャック』
鷹と、孔雀の鳴き声が響き二人の戦士は翼と剣を得る。

そして二人の剣が交錯した。