Conflict

男はまたしてもパソコンの前に座っていた。そのモニタには二人の戦士、ブレイドとギャレンの映像があった。そして画面の右端には4桁の数値が時たま動いていた。
「ブレイドとギャレン、共に融合係数1300EHか・・・」
男は静かに呟いた。


剣と剣が交錯する。そしてそれは微動だにしなかった。
「ぬうぅ・・・」
「橘さん・・」
ギャレンの銃剣がゆっくりと前に押し出た。
「ジョーカーは人類を・・全てを滅ぼす。放ってはおけない!」
それに対しブレイドは剣を押し返し拮抗状態に盛り返す。
「あいつは・・・そんなことをしない!」
「剣崎、お前は相川始に取り込まれかけようとしてるんだ。目を覚ませ!!」
どちらからとも無く剣が弾けた。そのとき、突如ギャレンの背中の6枚の翼が展開された。
「ふっ!」
ギャレンは空中を駆け、上の道路に飛んでいく。ブレイドもその後を追い両者共にコンクリートの地面に着地した。そして剣と銃剣を構え、二人は走り出す。
「ウェイ!」
「はっ!!」
お互いが刃を振るい、弾いていく。ブレイドが袈裟目掛けて振り下ろした一閃を銃剣が弾いた。時にはギャレンが突き出した銃剣を剣で逸らしていく。まさに紙一重の攻防だった。そして剣が再び交錯し鍔迫り合いになったが長くは続かなかった。ブレイドが銃剣を外に逃がし胸元へと斬り上げる。ギャレンは防ぎまたしても空中を駆けた。ブレイドとは距離をおき着地。ギャレンの手には三枚のカードが握られている。
『バレット』
『ファイア』
『ラピッド』
灼熱の炎が六枚の翼から解き放たれる。
『バーニングショット』
ギャレンは空中に飛び上がり炎がその軌跡を描いた。その炎も銃剣に集約されていき剣をいくつもの剣を象った。ギャレンが引き金を引いたとき、全ての剣が解き放たれた。ブレイドに向かっていき煙を上げていく。これで終わりだ。ギャレンはそう確信した。



煙の中から翼が覗く。
「・・・馬鹿な!俺の攻撃を凌いだのか!?」
ブレイドの前面を背中から生えた翼が守っていた。結果、ブレイドには何のダメージも無い。そしてブレイドは剣から二枚のカードを抜いていた。
『サンダー』
『スラッシュ』
翼が大きく羽ばたき稲妻が剣に集約されていった。
『ライトニングスラッシュ』
今度はブレイドがギャレンに向かっていく。剣の稲妻はまるで光の矢のようだった。そのとき、ギャレンは戦慄を覚えた。さっきの翼、そしてここまでの稲妻・・・おかしい、この力は『異様』であると。
「違う・・・これはただのJフォームじゃない!」
光の矢がギャレンに接近する。ガード、そんなもの紙切れ程度にしかならない。
「ウェーーイ!!」
矢がギャレンを通り過ぎ、ギャレン本体と翼を三枚切り刻んだ。
「ぐぁっ!!」
浮力を無くしたギャレンが落下する。地面に叩きつけられ変身が強制解除された。
「うっ・・・」
ブレイドはゆっくりと着地した。


男は興味深そうにモニタを眺めている。モニタにはさっきとは変わって5枚のカードが並んでいた。スペードのJ、Q、そして2と6のラウズカードだった。
さらにさっきの数値は「1600EH」となっていた。
「二体の上級アンデッドの力を使いさらに強化された雷の剣。5体を超えるアンデッドの力を使役する・・・それが烏丸所長の開発したラウズアブゾーバ―」
「ナラワタシハ・・ブレイド・・ニハ・・・マケナイ・・・」
トライアルの声が冷蔵庫の中から聞こえてくる。
「そうだね」
笑みを浮かべながら広瀬義人は答えた。

「っは・・・!」
倒れた橘が苦しげに息をはく。ブレイドもバックルに手をかけ変身を解いた。
「橘さん、信じてください。始は・・・!」
橘はゆっくりと立ち上がりながらも道路に上がってきた始を睨んでいた。
「あいつは・・・ジョーカー。全てを滅ぼす・・・」
そのとき壁にもたれかかっていた始が急に苦しみだした。
「うっ・・!」
その声に気づいた剣崎はすぐさま始のもとに駆け寄る。
「大丈夫か始!?しっかりしろ!」
その様子を見ていた橘は何も言わずに行ってしまった。

だが息を荒げながら停めていたバイクにたどり着いた橘に一本の電話が入った。
「・・・もしもし」
『橘君、すべてを見せてもらったよ』
「広瀬さん!?」
『これから来てほしいところがある・・・・』


「橘さんが言ってたことは本当なの?」
その日の夕方、白井邸では始をハカランダに届けた剣崎が戻ってきた。そして橘とのやり取りを話したのだった。栞の問いに剣崎は、
「わからない・・・。ジョーカーが勝ち残った時、すべてが滅びるのは本当なのかもしれない。けど!あいつはジョーカーに戻ることを嫌がっている。俺はあいつが世界を滅ぼしたりしない・・そう信じたい」
栞と虎太郎は何も言わなかった。が、
「そうだ」
虎太郎が何かを思い出したようで、
「始のハートの2、あれに封印されてるのは何だったのさ?」
「そうよ。剣崎君、どうだったの?」
「あれは・・・」
剣崎は昼間の光景を思い出しながら、
「封印されているのは一万年前の勝利者、俺達人類の始祖、ヒューマンアンデッドだよ」
「やっぱりいたんだ・・・!」
虎太郎は驚き半分、興味半分といった顔だった。
「ヒューマンアンデッドは抵抗せずに封印されたらしい。あいつは人間を傷つけてなんかいない」
「でも待ってよ」
こういったとき、興味が一度湧いたときの虎太郎は手がつけられない。何か疑問が浮かんだらしく、しかもその問いには誰も答えることができなかった。
「どうしてヒューマンアンデッドは抵抗しないで封印されたんだろ?」


長くて、静かな廊下を歩いていく。その最奥には一つの扉があった。広瀬義人が先に入り、橘も後に続く。中は研究室だった。
「懐かしいだろ?BOARDの研究室と似せてるからね」
広瀬はそう言ってマグカップにコーヒーを注いでいく。橘は研究室を見渡した。確かに似ている、そう思った。DNAの立体モデルや生物のサンプル、さらに様々な計器が所狭しと置かれている。だがひとつだけBOARD時代のときにはなかったものがあった。
「これは・・・!?」
橘は近づいてそれを見た。それは大量の写真だった。しかも全てに剣崎が写っている。
「どうして剣崎の写真だけを・・」
「その話はまた後だ。君には見てもらいたいものがある」
マグカップを置き広瀬はキーボードを押した。ガコンと音がし、奥の巨大な冷蔵庫が開いていく。中にいたのは紛れもない、剣崎の言っていた封印できないアンデッドがいた。
「こいつは!?」
橘は身構えたが、
「その子の名前は改造実験体トライアルD、私が開発した人造アンデッドだよ」
「人造アンデッド??」
広瀬は再びキーボードを叩いて扉を閉めた。
「アンデッドの不死の秘密。私はその秘密にたどり着こうとしている。それを手に入れれば人間は死の恐怖から解放される」
橘はそっと顔をそむけた。
『小夜子ーーー!!!』
忘れてはいけない記憶が急によみがえったからだ。
「だが、今危惧すべきなのは剣崎君のほうだ」
広瀬の言葉で橘は回想を止めた。
「前にも言ったように彼は危険な状態だ。あのトライアルDと共に剣崎君を保護してほしい」
橘がトライアルDのいる冷蔵庫をもう一度見たとき、広瀬はうっすらと口の端に笑みを浮かべたのだった。


ハカランダにいる始は苦しげな声をあげていた。
「始さん・・・」
ベッドの隣には心配そうに始を見つめる天音の姿があった。天音は始の額に置いていたタオルを取り、冷たい水に浸す。そしてきちんと絞って始の額に再び乗せようととしたとき、
「俺に触るな!!!」
始の怒号が飛んだ。天音はとっさに体を引いて身をすくませた。始はうっすらと目を開け、
「天音ちゃん・・・」
そう言ってまた永遠に眠るかのように静かに目を閉じた。
「天音。どうしたの?」
そのとき、遥香が部屋に入ってきた。そこにあるのは身を縮めている天音の姿だった。だが天音はすぐにいつもの調子に戻り、
「ううん、なんでもない」
「お母さん代わるから天音はもう寝なさい」
「嫌!私が看病して治すんだから」
天音はそっとタオルを始の額に乗せた。その様子に遥香は何も言うことができなかった。


次の日の朝
剣崎はハカランダを訪れていた。バイクを停めて小さなビニール袋片手に店に入っていく。
「さ〜て、ブレイドとジョーカー・・・どうやって無茶苦茶にしようかな」
スナック菓子の袋を片手に、少年は独り言を言った。だがその耳に新しい声が飛び込んできた。
「助けて!睦月!!」
それは女性の声だった。少年はそれを聞いて、
「睦月・・・レンゲルか。こっちのほうが面白そうじゃん」
少年は軽い足取りで声のしたほうに歩きだしたのだった。


「始、薬買って来たぞ」
ベッドの隣に置かれていた椅子に腰かけながら剣崎は袋の中から色々と出していく。
「これは風邪薬だろ。それでこれは頭痛に効いて、これは漢方。そしてこれが・・・下痢止め。何が効くかわからないから片っ端から買ってきた」
なぜ下痢止めが入っているのだろうか。だが始は弱弱しく、
「俺は病気じゃない」
そう言って始は再び目を閉じる。その顔色は真っ青まではいかないものの、白く血色がない。ついでに大量の汗をかいており一見すれば風邪に見えてしまう。
「じゃあどうすればいいんだよ。病院に連れていくわけにもいかないし・・・」
病院に連れて行けばそれこそ一大事だ。原因がわからない今、剣崎は何もすることができない筈だった。いや、剣崎には最後にひとつだけ、始に渡せるものがある。そしてそれが最も始のためになるかもしれないとわかっていた。ポケットから取り出したのは一枚のカードだった。それを裏返し机の上に置いて剣崎は部屋を出て行ったのだった。

剣崎が上の階に上がって遥香に礼を言って店を出た。階段を下って脇に止めていたバイクのエンジンを入れようとした時に、
「あ、剣崎さん!」
遠くから駆け寄ってくる少女がいた。剣崎はその娘に見覚えがあった。
「望美ちゃん?」
望美は剣崎の前でとまった息を切らしながら事情を話したのだった。

それは望美がハカランダに行く道中のことだった。睦月がいなくなって以来、望美はずっとハカランダを訪れていたのだ。だが、
「おい。そこの嬢ちゃん。俺達とあそばね?」
そう言って若い男たちが4、5人で望美を取り囲んだ。望美は必死にそれを拒否したのだが、
「いいじゃねえか!来いよ!!」
一人が無理やり腕をつかみ望美を強引に連れて行こうとした。本当に強引で、卑劣な手段だった。望美は何とか腕を振りほどき男たちから逃げ出した。そしてその道の先に少年がいた。
「助けてください!」
藁にもすがる思いで望美は少年の背中に隠れた。男たちはすぐに追いついて少年と対峙する。
「行けよ」
少年はあっさりと言った。少し驚いたものの望美はそこから再び走り出した。

ハカランダから少し歩いたところには森と、川がある。剣崎は森が生い茂って陰ができた道をバイクを押しながら隣で歩いている望美の話を聞いていた。
「でもその人弱そうだったから・・・きっと今はボコボコにされてると思うんです」
「わかったよ。俺がなんとかしてくる。望美ちゃんはハカランダに戻ってて」
剣崎はそういってバイクを押し進めた。望美の言う通り少年が殴られていたりしたら大変だ。剣崎は適当なところでバイクを停めて森の先、開けた場所へと向かったのだった。


だが剣崎の思っていたこととは正反対のことがそこでは起こっていた。
「おい・・・お前、何したか分かってるんだろうな?」
男が一歩前に出た。少年を自分たちよりも弱い、弱者と見たのだろう。だが少年は右手に持ったスナック菓子の袋に左手を突っ込んで口に運んでいた。おびえている様子などまったくない。
「ガキはお家帰って勉強でもしてろよ!だけどその前に・・・お仕置きが必要なようだな」
また別の男が言った。少年は左手についたカスを払い落した。
「そう?じゃあ勉強につきあってよ。まずは・・・台風から」
少年が左手を前にかざす。それだけで男たちに向かって台風のような突風が吹き荒れた。

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