Kamen rider

「娘さんに・・・あってあげるべきです」
研究室で橘は言った。しかし、
「前にも言ったが今はまだ会えない。それよりも・・・」
広瀬はマグカップにコーヒーを注いでからパソコンのモニタに近づいた。そしてキーボードをカタカタと叩く。
「剣崎君は姿をくらましたのか。でも変身すればこれでわかる」
アンデッドサーチャーを作動させたのだった。


「広瀬さん・・・!?どうしてここが・・・?」
「勘・・・かな」
剣崎はしばし呆然と栞の姿を見ていた。だが、すぐに我に返り荷物を手に取り背を向けた。
「来ないでくれ」
しかしそれで帰る栞ではなかった。立ち上がって背を向ける剣崎に、
「馬鹿にしないでよ!」
「え・・・」
思わず剣崎は振り向いた。
「私達に迷惑かけたくないから出て行ったんでしょ?そんなに私たちが頼りにならない!?」
「俺の近くにいると・・・あの時みたいに周りに被害が出る。皆を守る仕事のはずなのにこれじゃライダー失格だ!橘さんにもそういわれた・・・」
地下道に風が吹いて投げ捨てられた新聞紙や袋がカサカサと動いた。
「俺がライダーとして闘うせいで傷つく人がいるのなら、キングを追うのを止めて橘さんに従うべきなのか・・・キングだって強い。それなら俺は・・・」
そのとき、バシン!という音と共に急に剣崎は頬に熱と痛みをかんじた。栞は右手を下ろしていた。栞の平手打ちが剣崎の思考をストップさせていた。
「剣崎君、あなたの仕事は?」
剣崎は小さく答えた。
「仮面ライダー」
「仮面ライダーの目的は?」
「アンデッドを封印すること・・・」
栞は剣崎の左腕を優しく握った。
「私がお父さんのこと疑ってたとき、剣崎君言ったよね?『俺たちと力を合わせて救ってくれ』って。剣崎君、あなたは一人で闘ってるんじゃない。戦えない私たちの代わりに闘ってくれている」
「俺・・・」
「私達はずっとあなたのことを見てきた。どんなに苦しんで闘ってきたのかも知ってる。もし他の人が否定しても私たちは言える。『あなたは仮面ライダー』だって」
剣崎は顔を上げた。その目には力強さが灯っていた。
「あなたは今自分にできることをするしかない。もし迷ったら私達に相談してよ」
剣崎はしっかりと頷いたのを見て栞は笑顔になった。そのとき、栞の携帯電話で着信音が鳴った。
「もしもし?・・・」
しばし沈黙が続いて、
「本当ですか!?嬉しい!」
栞の嬉しそうな声が響いた。蒔いた種がついに実を結んだのだ。栞は携帯をポケットにしまって、晴れやかな笑顔で剣崎のほうを向いた。
「キングの居場所がわかったわ!」


少年は不快感を覚えていた。昼下がりのカフェテラス。そこでゆっくりとアイスコーヒー飲んでいただけはずなのに。その理由を少年は知っていた。
「・・・」
周囲から視線を感じる。それもかなりの数、さらにささやき声も聞こえている。なぜ?少年はイライラしながら立ち上がり歩き出した。当てはない。ただそこから離れたかっただけだった。しかし、
「・・・・・・」
少年の不快感は消えなかった。後ろで明らかに自分の後を歩いている足音と人影があったからだ。やがて人影が少ない場所へと向かい、階段をのぼり、開けた場所で少年は振り返った。遅れて階段をのぼる人たちが少年を前にして立ち止った。若い男性や女性、中には少女もいた。10人強はいる。
「僕に何の用かな??」
キングはイライラとしながら言った。ざわついている人だかりの中の青年が、
「すごいな君!話題だぜ!!」
そして一人の女性が携帯を片手にキングに近寄った。
「早く連絡しなさいよ。連絡先はね・・・」
といいながら携帯の画面に現れたのは動画だった。少年はそれを覗き込む。
『悪い人に絡まれていたのをたすけてくれた少年に会ってお礼がしたいんです』
一人の女性が自分とそっくりな似顔絵を持っていた。しかもその女性、見覚えがある。
『見つけた人にはお礼します。お願い・・・私のヒーローを探して!』
そこまで見たときキングは自分が嵌められたのだと気付いた。そして人だかりが二つに分かれた。その真ん中には、
「は〜い!私のヒーロー!」
動画に映っていた本人、栞が歩いてきた。さらに剣崎も一緒にいる。
「あなたのやり方、真似させてもらったわけ」
栞の視線が鋭くキングを捉えた。キングはそれに大した反応を見せず、うんざりしながら、
「本当にしつこいな。そんなにジョーカーを助けたいのか?」
剣崎はバックルを取り出した。そしてカードを装填しベルトが腰に巻きついた。周囲の視線が一気に剣崎に集まる。
「いいの・・・皆見てるよ?」
キングの言葉に耳を貸さず剣崎は右手を前に、左手を腰に構えた。
「俺は仮面ライダーだ!」
周囲に驚きという波がたった。その中で剣崎は右手でバックルのレバーを引っ掛ける。
「変身!」
『ターンアップ』
現れたスクリーンを通り抜けブレイドへと変身しホルスターから剣を抜いた。。栞は周りの人たちに「逃げて!」と叫んだ。その間にもキングは人間とは思えない距離を跳びブレイドから離れた。そしてキングの像が揺らぎ、すぐにコーカサスへと姿を変え何処からともなく空間から大剣を抜き取った。そこで人だかりは四方八方に散っていった。静まり返った場所で両者はほぼ同時に動き出した。そして剣同士がぶつかった。
「くっ!」
しかしコーカサスの大剣はブレイドの剣を弾いた。さらに力を利用してコーカサスは剣をふるってくる。それから逃げるようにブレイドは走り出した。コーカサスもその後を追いかけてくる。
「ふん!」
その間にも大剣はブレイドを襲う。ブレイドはその剣をはじき返すことができず、ただいなすことしかできなかった。しかしそれも長くは続かなかった。ブレイドの剣が体から離れた瞬間をコーカサスは見逃さない。すぐに切り返し下から斬りあげた。
「ぐぁっ!」
ブレイドはコンクリートの地面を転がった。この流れではまずい、そう思い立ち上がりながらカードホルスターを展開させた。そしてカードを抜こうとした瞬間、
「お前の力、全部もらう!」
コーカサスが剣を振るうと同時に突風が吹いた。その突風はブレイドに襲いかかり、剣はブレイドの手からはじき落とさた。そのときにカードホルスターのカードがすべて舞い上がった。そしてそれらはきれいにコーカサスの手に収まる。
「何!?」
「剣崎君のカードが・・・」
物陰から見守っていた栞も驚いて呟いた。今、ブレイドの持つカードは変身に使用しているAカードだけだった。
「これでわかったろ?お前に僕を封印することなんてできない」
吐き捨てるように言いながら今度は盾を召喚する。ブレイドは素手のまま走り出す。そして右腕でストレートを放つ。しかしその一撃は盾によってコーカサスに届くことはない。あっさりと剣でさっきの場所まで吹き飛ばされてしまう。
「くそっ!!」
ブレイドは地面を叩いた。近くにある剣には見向きもしない。全力でコーカサスの盾めがけてパンチを連打する。すべて封殺され、ブレイドは剣の柄で横っ面を殴られた。それでも再びパンチを放つ。
「うわぁぁぁ!!!」
「君はアンデッドの力を借りていただけ。今は無力だ」
「たとえカードが一枚も無くてもお前を封印できるはずだ!」
今度は腹を殴られ体がくの字に折れた。しかしブレイドは倒れなかった。駆け出す。
「俺にライダーとしての資格があるなら!!」
拳に跳ね返ってくる衝撃は半端なものではない。痛みで悲鳴を上げそうな拳でブレイドは何度でも盾を打つ。
「闘えない・・・」
そのとき、コーカサスの体がピクリと動いた。
「全ての人のために・・・・・」
コーカサスの体が少しだけ後ろに下がる。そしてブレイドは最後とばかりに右腕を引き渾身の力を込め一気に放った。
「俺が闘う!!!」
拳に圧倒されコーカサスは完全に後ろに下がることになった。すぐに大剣で応戦する。斜めに斬るように振り下ろされた。しかしブレイドは腰を落として避ける。次に振り下ろされてきた一撃もブレイドは身を低くし避け懐にもぐりこんだ。盾が眼前に上げられようとしたところをブレイドは左手で押さえつける。そしてコーカサスの横っ面目掛けてさっき防いだときの腰のためを利用し右拳を放つ。
「ウェイ!」
カウンターとばかりにコーカサスは大剣を真横に振るおうとする。だがそれよりも速くブレイドは剣の柄を掴み、
「ハッ!」
その場で地面を蹴り体を浮かせた。それと同時にコーカサスの腹を蹴った。そして重力と蹴った力で大剣を奪い取った。すぐに剣を真横に薙ぎ払いコーカサスを引き離した。立ち上がって三回剣を振るいダメージを与える。
「ぐっ・・・・」
態勢を整えコーカサスは最強の盾を構えた。ブレイドは一回転するようステップを踏みその間に剣を地面と平行になるように構える。そして突き出した。全てを防ぐ盾と全てを超える剣がぶつかる。
ガッ
大剣は盾に突き刺さり、そして割れるような音と共にコーカサスが握っていた盾が音を立てて砕け散った。大剣の勢いはそのままコーカサスを突き飛ばす。ブレイドは落ちている自身の剣を拾い上げた。右手に大剣を構え、左手で逆手に剣を構える。
「ウェイ!!」
右手の大剣を振り下ろし、さらに斬り返す。その勢いで回転し左手の剣で斬りつけ、さらに大剣で薙ぎ払う。そして二本の剣を地面と平行に構えて突き出した。形勢が逆転し、コーカサスは足元がおぼつかない。ブレイドは大剣をかなぐり捨て跳び上がった。高さが頂点に達したところで剣を両手に構え一気に振り下ろす。
「ウェーイ!!」
兜割り、全てを真っ二つにするような一撃だった。それがコーカサスに直撃する。脳天から縦に真っ直ぐ斬られコーカサスの手からブレイドのカードが舞った。栞が駆け寄りすぐに拾い上げる。

カチャッ

その音はコーカサスのベルトから聞こえた。それは勝敗が決した証でもあった。
「剣崎君」
渡されたカードの中から一枚、ブランクカードを手に取った。そして立ち尽くすコーカサスに歩み寄った。
「始のカードはどこだ?」
「あんなもの・・・どっかに捨てちゃったよ」
吐き捨てるようにコーカサスは言う。
「貴様・・・!」
ブレイドはコーカサスの目の前で立ち止まった。カードを突き刺そうと手を上げる。
「気をつけてね・・・レンゲルと同じように封印したつもりで・・・・・僕に支配されないようにね」
その言葉が最後だった。ブレイドはコーカサスの腹にカードを突き刺した。その瞬間、コーカサスの体はカードに吸い込まれていく。
『K エボリューションコーカサス』進化
「広瀬さん・・・ありがとう」
全てを終え、ブレイドは栞に軽くお辞儀をした。栞はただ笑顔で返したのだった。

「13枚、全てのカードを手にしたか・・・」
研究室で広瀬義人は呟いた。パソコンのモニタ、つまりトライアルの視点は今ブレイドを見下ろしていた。そしてトライアルは飛び降りてゆっくりと歩き出した。

「!!」
ブレイドは直感的に奴の気配を感じ取った。視線の先にはトライアルDが今まさにブレイドの方に向かっていた。
「広瀬さん逃げて!」
栞は被害が及ばない場所まで離れた。トライアルの右腕から紫電が放たれブレイドの鎧で小規模な爆発が起きた。ブレイドは吹き飛ばされた。その間にもトライアルは距離を詰めてくる。立てひざをつきながらブレイドはラウズアブゾーバーのカードホルスターを展開させた。さらにまずは一枚、カードを差し込む。
『アブゾーブクイーン』
「キング・・・お前の力を貸してもらうぞ」
そしてもう一枚、新たなカードを溝に通そうとしたとき、コーカサスの最後の言葉が蘇った。それがブレイドの動きを止める。
「・・・」
しかしその迷いもほんの一瞬だった。ブレイドは一気に溝にカードを通す。
『エボリューションキング』
変化は突如おきた。体中に痛みが走ったのだ。
「うぁ・・・うわぁぁぁぁ!!」
走った痛みはおさまらない。ブレイドは体を折り曲げたりして悶えた。必死に気合で痛みを追い出そうとする。
「・・・ああああああ!!!!」
ブレイドの声と共にさらに変化が起こった。バックルからブレイドのカードが全て飛び出した。それらはブレイドを囲み、そして頭上で周った。
「うおおおおお!!!」
最後の掛け声で痛みは完全に消え去った。頭上にいたカードが金色に輝く。そして一枚一枚がブレイドの体中に張り付いた。蜥蜴が描かれたカードは左腕の二の腕に、獅子は右の肘よりしたという具合に。カードが張り付いたところから鎧が変化する。金色に変わり、張り付いたカードに描かれたアンデッドのレリーフが刻まれている。最後にキングのカードが胸に張り付いてコーカサスの紋章が浮かぶ。さらに右手を開くと、どこからともなく巨大な剣が現れた。

それがブレイドの得た最後にして最強の姿、金色の鎧を纏うキングフォームだった。