Royal Straight Flash

世界が震えた

ビルの屋上で、
「なんだこの力は・・・!」
女が険しい顔で呟いた。

別の場所、橋の上で男はメガネの弦をくいと上げた。
「この力、カテゴリーKだけのものではないな・・・」

そして、研究室では橘はモニタを食い入るように見つめていた。
「カテゴリーKと融合した!これがキングフォーム・・・・・」
「いや、これはただのキングフォームではない」
広瀬は落ち着きを払った声で言った。
「彼は13体すべてアンデッドと融合している・・・!」
「そんな!?でもどうして・・?」
「本来ならあり得ない。ライダーシステムで起こるとは到底思えない現象だ。だが彼なら・・・・・・」

「ぐああああ!!」
河の中で男はうめき続けていた。何かを振り払うかのように腕を振るうたびに水が飛び跳ねる。そして時にジョーカーの姿に戻り、時に相川始の姿に戻る。
「止めろ剣崎・・・!」
始の中で本能が制御不能なものになっていく。
「その力を使うな・・・!!」
ついに始はジョーカーの本能に従うままに河から飛び出しあっという間に消えてしまった。


トライアルDがブレイドに向かって走り出した。しかし金の鎧を纏うブレイドは動かない。ブレイドの右腕にある獅子のレリーフが輝き拳に炎が灯った。トライアルが間合いにまで入り込んだ瞬間、その拳をトライアルに打ち込んだ。
「!!」
吹き飛ばされる中トライアルは驚愕した。今までとは別格の力。モニタ越しに見る橘も驚きの色は隠せない。壁に激突しクレーターが出来上がる。そしてブレイドは右腕を上に掲げた。5か所のアンデッドレリーフが輝き、その光はブレイドの右手へ向かう。それは五枚のカードだった。しかし今までのものとは違い、金色に変わりカードのデザインも微妙に違っていた。それらを大剣、キングラウザーのラウザーに通す。溝に通すのではなく、カードは挿入部に吸い込まれていく。
『スペード 10 J Q K A』
大剣が一瞬光輝いた。同時にトライアルとブレイドとの間に巨大な五枚のカードが現れる。
『ロイヤルストレートフラシュ』
ブレイドが薙ぎ払った大剣は巨大なカードを通り抜けるとき、刀身が光を帯びて何倍にも伸びトライアルを真っ二つに切り裂いたのだった。そしてその塊は光の中で粉々に分解されていく。さらに爆風がそれに続く。一瞬で事は終わってしまった。
「きゃっ!」
離れていたはずの栞までもその衝撃を受けた。突然のことに栞は後ろに倒れコンクリートの床に頭を打ち付けてしまった。だがブレイドはそれに気付いていなかった。
「・・・」
ブレイドの目の前に居たはずのトライアルはもう何処にもいなかった。ブレイドはバックルのレバーを引き変身を解除する。スクリーンを通り抜けた剣崎の足はどこかおぼつかない。
「はぁ・・・あれ・・・・?」
顔色がどこか悪い。目も虚ろだ。
「どうして・・・眠い・・・・・・」
何かの糸が切れたかのように剣崎はその場でドサッと倒れた。

しばらくして、栞が気づいた時には剣崎の姿がなかった。


研究室のモニタは砂嵐になっていた。広瀬はモニタに興味を失くし電源を切る。
「広瀬さん・・・今のは・・・・・・」
広瀬はコーヒーメーカーの前に立ち新たにコーヒーを注いでいた。
「剣崎君はとうとう手に入れてしまったか・・・。さっきのを見て分かっただろう?剣崎君の持つ力は異常だ。13体全てのアンデッドと同時に融合するなんてことはまず有り得ない。烏丸所長も想定していなかったはずだ・・・・次の改造実験体はもう用意しなければならないね。少し手伝ってくれないかな?」
橘は振り返って奥の巨大な冷蔵庫を見た。居る。なぜかそこには何かがいる気配がしたのだった。


・・・ゴトン 頭が宙に浮いて、固いものにぶつけた気がした。

「うっ・・・・・・」
その痛みで剣崎は目を覚ます。ぼんやりとした意識がゆっくりと覚醒していく。どうして寝ていたんだっけ?そうした疑問と一緒に瞼も開く。
「・・・・」
しばし呆然。剣崎は上体を起こして辺りを見渡す。
「ここは・・・・」
全く見覚えのない場所だった。部屋を見渡せばどうやら事務所のようだった。しかし机や椅子は乱雑に置かれ、人が使った形跡がない。自分が今座っている場所は茶色くて堅いソファーだった。よく見れば隠れ家のようにも見える。窓から見える景色はもう夜だと告げていた。その時奥のほうでドアが開いた。剣崎はすぐさま警戒した。しかし姿を現したのは例のトライアルでも、橘でも、ましてや栞や虎太郎でもない。これまた見覚えのない少女だった。
「あ、気がついた?」
10代の後半、高校生くらいかなと剣崎は思った。少女は迷路のようになった事務所をひょいと抜けながら、ライターで途中にあるロウソクに火を灯していった。電気が通っていないのだ。そしてソファーに座る剣崎の前まで来た。
「どこだここは?」
少女はデスクの上で立ち上がった。
「ここは私の隠れ場っ。そんで私は生原羽美!」
この場に似合わない軽い調子で言われて剣崎は調子が外れた。
「あなた仮面ライダーでしょ?」
剣崎は立ち上がった。それはまさに条件反射の勢いだった。
「アンデッドなのか!?」
「何それ?何かの名前??センスないね・・・・」
羽美はつまらなそうに言ってデスクの上に座る。そして脇に置いていたポテチの袋を破った。剣崎は力が抜けてソファーに座り込んだ。
「自分で言ってたよ。『俺は仮面ライダーだ!』って」
剣崎はそう言われて思い出した。キングと対峙したあの時、剣崎はそう口にしていたことを。その様子を羽美は見ていたのだろう。
「ああそっか・・・俺あの後眠ったのか・・・・・」
それでこの少女、何らかの手段で剣崎を運んだのだろう。
「ねぇ、なんで仮面ライダーなんてやってわけ?」
「それは、これが俺の仕事だからだよ」
「仕事!?あんな化け物たちと戦うのが!?」
「違うよ。あの怪物たちから人間を守る、それが俺の仕事だ」
羽美は脇に置いていたロウソクの灯を消した。その一角だけ暗くなった。
「ヒーローってのはさ、人類を守るために戦うのか?」
剣崎はその言葉を無視して、
「俺もう行かなくちゃ。ここにいたら危ない。家まで送るよ」
「送るって・・・・・・」
羽美は机から飛び降りてドアの方に向かった。
「帰るところなんかないもん」
そして隠れ家から出て行った。剣崎は後を追う。出ると階段があった。上でまた別の扉が開いた音がする。上に行ったのだろう、剣崎は階段を昇った。事務所は屋上の一歩手前で、すぐに屋上へ続くドアがあった。剣崎はドアノブをひねって外に出た。秋の涼しい風が顔に当たった。案の定、羽美は手すりにもたれていた。
「羽美ちゃん」
「家に帰れないんだ。ちょっと居づらくて・・・・・」
剣崎は歩き出した。そして羽美は振り返って何か思いついたように、
「そうだ!ねぇ、明日一日だけ私のヒーローになってくんない?」
「なんだよそれ」
「いいでしょ!」
小さな子供のように駄々をこねる羽美に剣崎は苦笑。
「あのまま放っておいたらあなた眠ったままだったんだよ。きっとマスコミにも見つかってただろうな〜」
「だから言っただろ。俺には仕事が・・・・」
その時、羽美は意地悪そうに目を光らせた。再び手すりのほうに歩きながらポケットの中に手を突っ込んだ。そして、
「じゃあこれ捨ててもいい?」
手が手すりを超えた。別にそれ自体に問題はなかった。が、問題はその手に握られている物だった。
「うぇ!?」
カードだった。しかも『A チェンジヘラクレス』。剣崎は必死にポケットを探った。バックルしか見つからない。
「これ使って仮面ライダーになってたよね?」
気づかなかった自分が恥ずかしい。
「ちょ・・・・ちょっと待って・・・・・・」
その時、携帯の着信音が鳴った。


「痛っ〜〜〜」
栞は呻いた。
「うわ、でっかいたんこぶだ・・・・」
虎太郎は消毒液を染み込ませたガーゼをピンセットでつまみながら言った。場所は白井牧場の中の屋敷。剣崎はいなくなり、栞は辺りを探したのだが遂に見つからなかった。そして帰ってきて頭を打ったときの傷を診てもらっていた。
「でもたんこぶくらいなら大丈夫だよ」
救急箱を虎太郎はしまった。
「携帯に何度も電話したのに・・・・出ないのよね」
「もしかしたら剣崎君を追ってる封印できないアンデッドってのが蘇って・・・・・」
「ううん。あの時、そのアンデッドは消滅した・・・と思うんだけど」
確かに栞はその瞬間を見ていた。しかしあの完全に消滅したと思ったのは嘘だったという可能性も否定できなかった。
「もう一度電話かけてみる」
そう言って栞は携帯電話を開いた。

剣崎は携帯を取り出して電話に応じようとした。しかし視界の端から何かが飛び込んできて携帯を取られしまった。言うまでもない、羽美だった。
「いや〜〜〜ん〜〜」
『剣崎君!?』
電話の向こうの者は驚いているようだった。羽美はまたしても意地悪そうな笑みを浮かべていた。
「へぇ、この人剣崎って言うんだ」
「何話してんだ!?」
携帯を取り返そうとする剣崎を羽美はひらりと避けた。
「ごめん!しばらく帰れないから!!」
その言葉を最後に電話を切った。
「はぁ・・・・」
剣崎はただただ頭を掻くことしかできなかった。

「ど・・・どうしたの・・・・繋がった?」
明らかに話しかけてはいけない空気が漂っていた。が、話しかけなければどうしようも無い状況でもあった。栞の手の中の携帯がミシミシと悲鳴を上げている。もしかしたらディスプレイにヒビが入ったかもしれない。
「信じらんない・・・・・!!」
オーラが見えているようだった。じろりと虎太郎を睨む。
「どこかおいしいところ食べに行きましょ」
「え・・・でもけんざ・・・・」
栞の手が虎太郎をつかむ。まるで万力のように締め付けられて逃げることができない。栞に引きづられるようにして虎太郎も部屋を出たのだった。


何の異常も無い。警備員はいつものように、いつものルートを見回っていた。学校の中、最後に体育館へと向かう。夜の学校は不気味というものだが実際のところ何も起こったためしは無い。体育館の脇につけられた水道を懐中電灯が照らす。
「ん?誰だ水を出しっぱなしにしたのは・・・・」
蛇口から水が出ていた。警備員はすぐに水を止めた。それ以外何の異常も無い。立ち去ろうとしたとき、背中で音が聞こえた。
「・・・・・・・・・」
恐る恐る振り返るとさっき止めたはずの蛇口から水が出ていた。それだけではない。両隣の蛇口からも水が出ている。しかもかなりの勢いで。水が溜まったとき、何かがゆっくりと出てきた。それは、不気味な『人でない何か』の生首だった。
「ひゃぁぁぁぁぁ!!!!」
学校に叫び声が響いた。警備員は逃げ出した。しかし何かが首に絡みついた。蔓のような、しかし湿り気のあるものだった。そしてあっという間に警備員はあっという間に倒れて動かなくなってしまう。蔓、いや触手が離れた首にミミズ腫れが残っていた。

体の殆どが水で出来ているという、そして一度触手に触れれば下手をすれば死を招く種だった。そいつは手の代わりに鞭のように発達していた。クラゲの始祖たるジェリーフィッシュだった。今殺した獲物に近づこうとしたとき、何かの気配を感じた。
「・・・?」
その気配にジェリーフィッシュは居辛さを感じた。そして気配のするほう、校舎の屋上を向いたときその感覚は恐怖へと変わる。暗闇の中で不気味な緑色の光があった。
「ジョーカー・・・・・」
そういい残してジェリーフィッシュはさっきの水の中に飛び込んだ。あっという間に消えてしまった。
「グ・・・グラァァァァ!!」
獣の咆哮が響いた。