Meet again

昔のことだった。それは最後の家族の思い出。広瀬が大学を卒業し、家族3人での時間を久しぶりに過ごした時のことだった。家族はとある場所に来ていた。一本の道の周りにはたくさんの花が咲いていた。あたり一面、何処を見渡しても花ばかり。自分はその景色を見渡していた。そして道は少し坂になっており、小高い丘になっていた。そこには木製のベンチが一つ。そのベンチに座る一人の女性がいた。母は本当にうれしそうに笑っていた。その対面には男がカメラのピントを合わせていた。
「栞」
父が自分の名を呼ぶ。嬉しくなって自分は走って二人のもとに行った。カメラのシャッターが時間差で落ちるようにし、家族三人でならんだ。カシャッとカメラから音がした。忘れることのできない思い出だった。しかしその景色が一転する。周りの花が急に消え失せ、晴れていた空は暗くなり、辺りにノイズのような線が走る。

まるで思い出が消え失せていくようだった。

「嘘だ。私がトライアルであるはずが・・・・・」
広瀬、トライアルBは呟いた。
「ではその体をどう説明する?」
男は自分の手を見た。一瞬だけ自分の手が人のものとは思えない手に変わった気がした。
「やはりあの時・・・」
男は回想する。自分が行ったアンデッド解放。光が研究室を満たしそして・・・
「私は死んだ・・・・・だとしたら、私は誰だ?!」
自分は誰であり、誰に作られたのか?男は自分の存在が酷くあやふやに感じられた。
「あなたなのか、天王寺さん・・・・あなたが私を・・・・」
「いずれにしろ、君は広瀬義人の意思を受け継いだ。永遠の命の謎を解明するため、仮面ライダーブレイドを追い詰め、二人目のジョーカーを誕生させようとした。その業績は神のみもとにも届いた。トライアルであろうと君は広瀬義人その人だ・・・・・広瀬義人のしようとしたことを続ければいい・・・・」
「私は・・・・広瀬義人・・・・」
広瀬義人はゆっくりとそう言ったのだった。


悪い・・・・悪い夢を見てしまった。悪夢のせいで栞は目を覚ましてしまう。最後の家族の思い出・・・・それが消え失せていく光景だった。

白井邸に橘が来ていた。広瀬義人を探し出すためだ。剣崎と橘は椅子に対面に座っていた。オプションとして牛乳が置いてある。しかし二人とも一滴も飲んでいない。
「剣崎、お前は休め。俺が必ず広瀬さんを探し出す」
「いえ・・・優しい父親として広瀬さんのもとに帰してあげる。俺も同じ気持ちです」
「しかし、あの人はお前を・・・・」
「大丈夫です。もう二度と俺はジョーカーに支配されたりしません」
そう言った時、虎太郎がリビングに入ってきた。笑顔な虎太郎は、
「ねぇ!せっかく始も戻ってきて剣崎君もジョーカーを抑え込んだんだから、ここら辺でパーっとパーティーでも・・・・」
そう言って剣崎と橘が口をつけていない牛乳瓶を一気に飲み干した。しかしその二人はと言えば、
「行くぞ」「はい」
虎太郎を無視してリビングを出て行った。
「ちょっと、どうしたのさ!?」
「いいか虎太郎。広瀬さんには余計なこと言うなよ」
剣崎に言われて余計に混乱する虎太郎だった。バイクのエンジン音が遠ざかっていくのと同時に栞が階下に降りてきた。
「どうしたのよ・・・」
「僕もわからないよ。『広瀬さんに余計な・・・』」
虎太郎は自分の手で口を閉ざした。余計な事を言ってはいけない本人を目の前にしているから当然だ。いそいそとリビングに戻る虎太郎だったが栞はさっきの言葉が気になる。
「ねぇさっきのどういうことよ!」


天音と始は病院に来ていた。天音の目の検査のためだ。診察の結果、何の異常もないとのことだった。
「まぶし・・・」
病院を出た天音は太陽を手でさえぎりながら呟いた。始は天音の前にしゃがんだ。
「大丈夫、天音ちゃん?」
心配そうに見つめる始を見て天音は笑った。
「お医者さんも完治しましたって言ってたでしょ!始さん、心配性なんだから」
苦笑いを浮かべながら始は、
「うん。さ、帰ってお母さんに報告しよう」
「やだ!」
天音の手がするりと始の手の中に入った。
「私、久しぶりに始さんとデートがしたい!いこっ」
天音が走りだしたから、それにつられるように始も走り出した。
その後の時間は本当に他愛もないものだった。二人で大きなショッピングモールの中に入ってこれでもかと言うくらい、いろんな店を回った。本屋、服屋、雑貨店・・・・。天音が本当に楽しそうに先に行ってしまうので、始は後を追いかける形になっていた。しかし始は嫌な気分は一切起きなかった。自分が手にしたかった時間というのはこんな風なものなのだろう、と思った。最後に二人でアイスを食べ、帰ることにした。傍から見れば年の離れた兄と妹のように見える光景だっただろう。
自動ドアが開いて天音が先に出る。始はそのあとから出ると、たまたま鉢合わせた少年を見てしまった。黒いジャケットを着て、蜘蛛の巣のピアスをつけた少年、睦月だった。
「・・・・・」
睦月もここで遭うとは思わなかったのだろう。始はサッとすぐに表情を消して睦月と対峙する。が、
「最っ低!」
天音がその間に割り込んだ。睦月に向かって舌をべーっと突き出し、
「いこ、始さん」
始と天音は行ってしまった。たったそれだけのやり取りだったのだが、
「あはははは!」
腹を抱えて笑う女がいた。睦月は何も言わずその女を見た。
「最っ高!」
虎は笑顔でそう言った。睦月は光を一瞥してさっさと行ってしまう。その後を光はついていく。
「何を考えているか当ててあげましょうか?」
睦月は無視を決め込んでいた。歩調がどんどん速くなっていた。
「みんな進化して、みんな強くなっている。どうして自分だけ・・・・こうなったら・・・・・・」
「うるさい。ついてくるな」
睦月は遂に走り出して行ってしまった。光はつまらなさそうに息を吐いた。
「相変わらずね坊や。少しはこの戦いを面白くしてくれるといいんだけど」


剣崎の携帯に橘から電話がかかってきた。高速道路の高架下を走っていた剣崎は脇にバイクを停めて電話に出た。
「どうでしたか?」
「駄目だ。いくつかBOARDの施設跡をたどってみたが広瀬さんにつながるようなものは何もなかった。そっちは?」
橘の声のほかにも車のエンジン音が聞こえてきた。剣崎は広瀬のいた施設の周辺を、橘はBOARDの施設跡を中心に広瀬を探していた。しかし橘と同じように剣崎も収穫なしと告げた。
「わかった。もう少し探してみよう」
剣崎はヘルメットをかぶってバイクのエンジンを点けた。バイクを走らせようとしたその時に、眼の前に何か降ってきた。黒と紫と白の影が見えた気がした。剣崎は咄嗟に『何か』が真上の高速道路から降ってきたのだと思った。影はゆっくりと起き上がる。人の姿から逸したものだった。黒い体に、顔にはたった一つの目があり、その目を中心に紫のラインが走っていた。もう何度も目にしてきた。こいつはアンデッドではない。
「トライアル!」
剣崎は携帯電話を取り出した。すぐに着信履歴から橘の番号を探し出した。すぐに電話をかける。しかし一行に出る気配がない。それどころか、
『おかけになった電話番号は・・・・』
駄目だった。今度は別の番号、白井邸にかけた。すぐに栞は出てくれた。
「広瀬さん!」
すぐに剣崎は事情を話した。
『わかったわ。橘さんにはこっちから電話する』
白井邸で栞はは橘に電話をかけながらすぐにアンデッドサーチャーを使われた。しかし何の反応もない。トライアルシリーズだとすぐにわかった。そして橘が出た。
「橘さん!」


剣崎はひたすらバイクで走って逃げていた。あんな人目につく場所で戦ってしまえば周囲に被害が及ぶと思ったからだすぐに人気のない工業地帯に向かった。ここなら大丈夫だと剣崎はそう思いバイクから降りた。その時トライアルの姿を見た。バイクで逃げていたはずなのにこれほど速く追いつくとはあり得ないはずなのだが、相手は改造実験体。トライアルも剣崎を確認し、向かいながら手からエネルギー波を放った。紫の目に見えるものだった。剣崎はそれを避けた。さっきまでいた場所の地面が爆ぜる。それをちらりと見て、再びトライアルを見るとすでに次の攻撃が行われていた。剣崎は走り出した。その後ろでは地面が爆ぜ、粉塵が舞い上がっていた。紫の球は徐々に走る剣崎の足元に向かい、その距離を縮めていた。そして、
「!」
ついに剣崎に追いついた。舞い上がった砂ぼこりに剣崎は隠れてしまった。それを機にトライアルがそこに集中砲火を浴びせる。だが粉塵の中から、
「変身!」
その声に一瞬遅れて紫紺の戦士が飛び出した。ブレイドはそのまま走り出してトライアルと拳を打ち合う。ブレイドが顔面めがけて放った拳をトライアルは半身に構えて紙一重で避ける。そしてトライアルがブレイドの腕をつかんだ時にこう言った。
「ブレイド、オマエハユルサレナイ!」
もう何度も耳にしてきた言葉だった。トライアルシリーズは剣崎を捕獲するために作られたと橘は言っていた。これも広瀬義人の作ったトライアルシリーズなのか、とブレイドは思った。トライアルは掴んでいた腕でブレイドを投げ飛ばした。そして宙を舞ったブレイドに向けて右手をかざした。その手からさっき放たれた紫色の球が放たれた。空中で体勢を変えることができずにブレイドは全て受けることになってしまった。
「ぐっ」
ブレイドは地面に叩きつけられると同時に、紫の閃光がブレイドの視界を覆った。トライアルの右手からさっきまでとは違う、一条の紫の光が走った。それは地面を抉り、爆発した。衝撃がブレイドを襲った。
「こいつ・・・!」
今までのトライアルとは段違いに強かった。ブレイドをしのぐ肉弾戦や紫のエネルギー波、そして何より恐ろしいのはそれらの組み合わせだった。トライアルが右手をかざしたままブレイドに近寄る。
「ホカクスル」
だが工業地帯に新しい音が聞こえた。バイクのエンジン音だ。その方向を見ると真紅の戦士がバイクに乗ったままトライアルに突っ込もうとしていた。トライアルは転がりながらブレイドから離れた。ギャレンはその間で停まりすぐにホルスターから銃を抜いた。照準を合わせてトライアルに光輝く弾丸を叩きこんだ。
「剣崎!」
ギャレンはブレイドのほうを見た。ブレイドは立ち上がり、ギャレンは敵のほうに再度向こうとしたが、
「・・・・いない!?」
トライアルはその場から消えてしまっていた。すぐに二人は辺りを見渡したが一向に見つからない。気配すら消え失せてしまっていた。


剣崎がトライアルと戦っている間、白井邸ではアンデッドサーチャーを使って橘にブレイドの現在地を伝えていた。虎太郎はパソコンを操作する栞の様子をちらりと見て、
「なんだ、いつもどおりじゃんか・・・・」
思わず呟いてしまった。それを栞が突っ込まないわけがない。
「なにが?」
「え、い・・・・いや、やっぱりパーティーなんてしてる暇ないかなぁ・・・って」
虎太郎は内心ひやひやしながら答えた。「ふーん」と栞はさらりと流した。そのとき、屋敷の扉が開く音がした。二人は扉のほうに注目した。ブレイドは今も戦闘中だ、あり得ない。出はいったい誰なのか?二人してそう思っているところに入ってきたのは黒いジャケットを着て蜘蛛の巣のピアスをした少年が入ってきた。
「睦月!」
「睦月君!?」
睦月は何の返事もなかった。虎太郎は敵意をむき出しにして睦月に向かった。
「お前・・・・!」
しかし睦月は虎太郎の肩を叩いて突き飛ばした。
「あんたに用があって来たわけじゃない」
「僕はある!よくも天音にあんな酷いことを・・・・!」
天音が目の怪我をしたときのことだった。睦月は一向に相手はせず再び肩を突き飛ばした。怒る虎太郎を栞がなだめた。睦月は椅子に座って栞のほうを見た。
「あんたに話があってきた。広瀬ってあんたの父親だよな?」
「え?」
栞は耳を疑った。父は死んだはずだ。睦月は広瀬に誘い出された時の光景を思い出していた。
「あの人は俺を強くしてくれるといった・・・・。ブレイドを追い詰めてジョーカーの力を・・・・」
「なんですって!?」
睦月は立ち上がって栞の両肩を掴んだ。その顔は何かに追い詰められて必死さが漂っていた。
「なぁ頼むよ!」
「頼むってお前・・・広瀬さんのお父さんは・・・・」
「どう言うこと!!」
栞が睦月の手首をつかんだ。その手が万力のようにギリギリと睦月の手首を絞めていく。そしてこの場にいる三人の中で一番の迫力をもっていた。
「詳しく話して!」


しばらくしてから橘と剣崎が帰ってきた。トライアルはどこかに消えてしまったと剣崎は言いながら気づいた。
「あれ、広瀬さんは?」
「何か睦月と一緒に出て行った。広瀬さんのお父さんが睦月を呼び出したって言う場所に」
それを聞いた剣崎と橘の顔から表情が消えていった。それに気づかない虎太郎は、
「でもさ広瀬さんのお父さんって・・・・」
「睦月の奴、しゃべったのか!!」
剣崎と橘は大急ぎで屋敷を出て行った。もちろん虎太郎には何の説明もない。
「もぉ〜〜どいつもこいつも!!!」


睦月に案内された場所は広い部屋だった。そこで睦月と剣崎は戦い、ブレイドは暴走した。何とか抑えることができたのだが。
「ここでブレイドと戦ったのね」
栞は部屋を見渡しながら言った。
「何か分かったことはあるか?」
「いいえ、ここだけじゃ何も・・・・」
「それはないだろう!『無理やり』案内させて置いて!」
『無理やり』という言葉に引っかかりを覚えるところだ。実際栞は睦月を半ば強引に案内させていた。しかし栞の言う通りここだけでは何の情報も得られるわけがない。

カツン

背後で足音がした。革靴の出す少し硬い感じのする音。その足音がとまる。睦月と栞は振り返った。栞は言葉を失った。目の前にいた男はかつて死んだはずの男だったからだ。
「栞」
広瀬義人は娘の名を呼んだ。
「お父さん!どうして・・・・生きていたんだったらどうして連絡くれなかったのよ!」
栞は泣きそうになりながら父の腕をつかんだ。
「どこで何してたのよ!」
「栞・・・私にはすべきことがあった。『広瀬義人』としてすべきことが」
「それがお母さんのため・・・アンデッドを解放することだったの!?そんなことしてお母さんが喜ぶわけないじゃない!」
広瀬は睦月のほうを見た。
「睦月君。私を探していたんだろう?一緒に来たまえ」
広瀬は睦月を手を差し出しだが、その手を睦月は払った。敵意をむき出しにして広瀬と対峙した。
「・・・・」
広瀬は無言で睦月の腕をつかんだ。そして
「!?」
一気に放り投げた。地面に叩きつけられる。
「何なんだあんた・・・・」
人間があんなに人を放り投げられるわけがない。そう思いながら睦月はバックルにカードを装填した。ベルトが勝手に巻きついて、
「変身」
紫のスクリーンを通り抜ける。レンゲルに変身し右ストレートを放った。広瀬はそれを避けてレンゲルの手をつかんだ。
「!?」
その手がピくりとも動かなかった。ライダーと同等の力をこの男は発揮していた。それを見て栞も驚いた。
「ぐ・・・うらぁ!」
今度は空いていた左腕を薙ぎ払うように振るったが右手を離して、左腕でそれを受け止めた。次に右足で上段回し蹴りを放った。広瀬は腰を一気に落として潜るようにして避けた。レンゲルは回し蹴りの勢いを殺さずに右腕を放った。その腕を一瞬だけ広瀬は受け止めて勢いを殺して、その腕の下を潜りレンゲルの背中を取りながら腕を弾き飛ばした。レンゲルはぐるっと反転した勢いで左手で裏拳を打つがバックステップを踏んだ。その時、広瀬の体から紫の光が漏れて一瞬で体が変化した。その姿を見て栞は息をのんだ。
「そんな・・・・」
そいつは剣崎を襲ったトライアルだった。そのトライアルが一瞬だけ栞を見る。レンゲルは杖を取り出してカードを二枚通した。
『スクリュー』
『ラッシュ』
二枚のカードを使役する。コンボにはならないものの組み合わせることで更なる力を発揮することができる。レンゲルの杖に力がこもる。その力が渦を巻いた。
「はぁ!!」
一気に杖で突きを放った。しかしあっさりとかわされて、杖を掴まれた。そのまま一気に壁に投げつけられた。
「ぐっ・・・」
レンゲルは立ち上がろうとしたが首ががくりと垂れた。紫のスクリーンがレンゲルを通り抜け変身を強制解除させた。気絶する睦月をトライアルは肩に抱えた。そして部屋を出て行こうとする。
「待って!」
栞は叫んだ。トライアルは一瞬だけ立ち止まって栞を見た。その時、一瞬だけ父親の姿を見た気がした。トライアルは再び歩き出した。
「待って!!」
だがその言葉に変わり果てた父親が振り返ることがなかった。