Father

施設から帰ってきたとき、そこから持ち出したデータを持って帰ってきていた。
「これがトライアルに移植された・・・・広瀬義人の記憶データ・・・」
「こんなものがあったばかりに・・・・・」
栞は右クリックを押して削除のボタンを選ぶ。削除しますか?という文とともに2つのボタンが現れる。YesかNoか。栞はポインタをYesの上に動かした。しかし、クリックを押すことはない。それどころかマウスは別の方向に持っていかれた。その様子を見ていた橘、虎太郎、剣崎は何も言うことができなかった。いくら盗まれたといっても大切な記憶を消すことはできない。
「でも、あのトライアルを作ったのはいったい誰なんだ?」
剣崎は言った。
「もしかしたら父がまだ生きていて・・・」
「そうだよ。お父さんが死んだって言う確かな証拠もないんでしょ?」
虎太郎も表情を明るくして言う。
「そのためにも、一刻も早くあのトライアルを抑えなければ」
そしてその夜、栞は自室から一歩も出てこなかった。

雨が降っていた。

朝になって朝食も済ませた剣崎と虎太郎は心配そうに上を見ていた。
「大丈夫かな。いくらなんでも女の子だし・・・・」
「俺は信じてる。彼女のお父さんを思う気持ちを!」
虎太郎は黙ってうなずいたのだった。

栞はろくに眠っていなかった。あの後からずっと考えが浮かんでは消えていた。父が生きているのか。それとも・・・・堂々巡りの考えは終わりを迎えることがない。そうこうしているうちに朝が来てしまっていた。栞は写真立てを手に取った。写真の中で笑顔を浮かべる家族3人の姿があった。そのとき、写真立ての隣に置いていた携帯がメールを受信した。

「きゃーっ!!」
屋敷に叫び声が響いた。剣崎と虎太郎は顔を見合わせて二階に駆け上がった。そして栞の部屋に駆け込んだ。
「広瀬さん!」
床に落ちていたのは栞の携帯電話だった。剣崎はそれを拾い上げて画面を見た。
「これは・・・・」
剣崎は息をのんだ。メールはものすごく短い。こう書かれていた。
『栞 会いたい 父』
「どういうこと?本当に広瀬さんのお父さん生きてて・・・?」
「いやこれだけじゃどっちともいえない」
剣崎の言う通り、メールだけでは真偽が判断できない。剣崎の持っていた携帯を栞が取った。ボタンを次々と押して送信する。内容は、
『私も会いたいです。3人で写真を撮ったあの花畑で待ってます。』
それを見た虎太郎が焦りながら、
「やばいよ!もしこれがトライアルの仕業だとしたら・・・・」
「絶好のチャンスでしょ!あいつを抑えるために・・・・私がおとりになる!」
「落ち着いて広瀬さん!」
剣崎が広瀬の両肩をつかんだ。
「だからお願い剣崎君。もしこれがトライアルの罠で・・・あいつがお父さんをどうにかしてたんだったら・・・・あいつをこの地上から消して!!!」
雨はとっくに降りやんでいた。


それから少し時間は経つ。剣崎たちが移動し、とあるバーでは虎が目を覚ましている頃合いだった。
ハカランダではギターが弾かれていた。重く、そしてどこか切ない音だった。弾き手は始だった。隣で天音が目を輝かせて始が弾く様子を見ていた。それを少し離れて遥香が見ていた。
「すごい始さん!いつのまにギターなんて覚えたの?」
「見様見まねだよ」
いつかのストリートミュージシャンに教えてもらった時のことだった。隣で天音は笑顔を浮かべながら、
「私、もう我慢するのやめたんだからね。始さんと想い出たくさん作るって決めたんだから、勝手にどっか行っちゃ駄目だからね」
遥香は紅茶を淹れるために立ち上がった。始はずっとギター弾いている。何のことはない、何も起こらない普通の風景だった。


花畑は昔来た時からずっと変わっていなかった。今の季節は秋、春には劣るもののある程度の花が咲いていた。それでも辺りを見渡せば綺麗な景色だった。その中で栞は立っていた。小高い丘の上には木のベンチがある。家族で写真を撮った場所だった。そこにスーツ姿の男が歩いてきた。ここにスーツで来ること自体少し浮いているように見えるが、栞はそんなことも気にせずその男を見据えた。
「栞」
広瀬義人が坂をゆっくりと登っていた。
「会いたかった」
しかしその言葉で栞は警戒心を解かない。
「だったら・・・・どうしてすぐに会いに来てくれなかったの?」
「許してくれ栞」
「止まって!それ以上近付かないで!」
男は少し驚いたようだったがまた歩き出した。
「何を言うんだ。お父さんのことがわからないのか!?」
「止まりなさい!!」
その一言で男は完全に歩みをとめた。しばし呆然として、辺りを見渡した。
「一人じゃないんだろう?剣崎君と橘君だったか・・・・彼らも来てるんだろ?」
男の言うとおりだった。剣崎と橘は気配を殺して近くで身を潜めていた。しかし、男は一発でそれを看破していた。栞は敵意をむき出しにした。
「やっぱり父じゃない・・・・お前の目的はブレイド!」
「何を言うんだ。どうしてそんな酷いこというんだ!」
男はスーツ姿で走り出した。その姿は不気味だった。栞は逃げ出した。
「お母さんも悲しんでるぞぉ!」
「来るな!!」
まずい、そう感じて隠れていた二人も遅れて走り出した。丘を下り花畑を出ると芝生があった。栞はそこで、雨のせいでぬかるんだ地面に滑ってしまった。あっという間に広瀬が追いつく。
「栞!」
「来ないで!」
男が栞を捕まえようと腕を伸ばす。だがそれを栞は弾いた。バチンといい音がした。栞はいまだ男を睨みつけ、男は弾かれたまま呆然としていた。
「あ・・・・うわぁぁぁぁぁぁ!!!」
突然男が叫び出した。紫の光が一瞬だけ男を包んでその正体であるトライアルBとなった。今度は間近でそれを見た栞が呆然とする番だった。
「シオリ!!」
トライアルが叫ぶ。そこに、
「止めろ!!」
二人がようやく追いついた。二人で同時にトライアルを蹴り飛ばした。その腰にはすでにベルトが装着されている。
「広瀬さん逃げて!」
橘が先にスクリーンを通り抜けていた。
「変身!」
『ターンアップ』
遅れて剣崎も変身した。


ブレイドの気配をいち早く察知したのは始だった。今はハカランダの下にある自室にいた。
「剣崎」
敵となる気配が周囲にはなかった。ギャレンの気配が近くにあったがそれは違う。この前の封印できないアンデッドだろう。行かなければ。そう思い始はいつものコートに手をかけ部屋のドアを開けた。が、その前に女の子が立っていた。
「・・・!」
「始さん・・・・?」
天音はお盆に二つ、カップを乗せていた。一緒に飲もうと思っていたのだろう。
「天音ちゃん・・・・行かなくちゃ」
「私・・・待ってなんかいないんだからね。始さん、もし帰ってこなかったら私待ってなんかいないんだからね!」
「大丈夫。絶対帰ってくる・・・・約束する」
それを聞いて天音はゆっくりと道を開けた。始は部屋から出て行った。


ブレイドが上段の蹴りを放った。トライアルはブレイドの足をつかみ取り、片足立ちで不安定なぶれいどを殴り飛ばした。次にギャレンが1・2とパンチを打つもトライアルには何のダメージもなかった。
「ドケ!」
仕返しとばかりに胸に蹴りを入れた。よろめいたギャレンを突き飛ばしブレイドに向かう。
「ブレイド!」
ブレイドは左手を上段、右手を下段に構える。その時、
「危ない!」
栞が叫んだ。ブレイドとギャレンが気がついた時には遅かった。まずはブレイドに死神は向かった。死神は手に握られた鎌でブレイドの胸を打ちつけ、ギャレンに対しては刃のあるほうで薙ぎ払うように振るった。よく見れば外見こそは死神に似ていたものの、持っている武器は鎌ではなくレンゲルのもつ杖によく似ていた。
「こいつ・・・・」
「また新しいトライアルシリーズか!」
トライアルBとGが別々の方向に走り出した。Bはギャレンに、Gは杖を振りまわしてブレイドへと向かっていった。二人は圧される形になってしまっていた。芝生の場所はさらに中へと進むと木が生えていた。
ブレイドは剣を抜く暇も与えられなかった。トライアルGの杖が袈裟を斬るように振り落とされたのをブレイドは後ろに一歩引いて避ける。トライアルGガそれに合わせるように杖を両手でもち、突きを放った。ブレイドがひるんだすきに即座に右手で杖の端を持ち薙ぎ払い、ブレイドを吹き飛ばす。
「はっ!」
トライアルB相手に隙の大きな技は出せない。そう思いギャレンは拳を放つ。放たれた右ストレートをかわしてトライアルBは右手で手刀を打ちこんだ。今度は左腕を薙ぎ払うように力任せに振るうのをギャレンが腰を落として下をくぐるようにしてかわす。しかしそれはフェイントだった。左腕を振るった時に捻った腰の少しの溜めを利用し、右アッパーをギャレンの胸に打ち込んだ。先に飛ばされたブレイドの隣にギャレンは受け身を取って着地した。今度はトライアルGだけが二人に向かった。ブレイドには袈裟で斜めに打ち付け、ギャレンには胸に向かって突きを打つ。さらに追撃とばかりに杖を振り上げて、一気に振りおろす。ギャレンは地に伏せた。ブレイドがトライアルGに向かったがトライアルGがカウンターとばかりに背を向けたまま後ろに向かって杖を突きだした。そして振り返りながらブレイドの脇腹に杖を差し込む力任せに放り投げた。ギャレンの隣に墜落する。二人とも雨上がりのせいで体中に泥がついていた。この新しいトライアルの動きに、なぜか見覚えがあった。
「こいつ・・・・」
「どこかで見たような動きを・・・」
トライアルGは咆哮を上げながら再び走り出した。

「まさか・・・・」
睦月はその様子を呆然と見ていた。あのバーでの会話の後、光に連れられてやってきたのがこの場所だった。おそらく臭いを探りながらたどり着いたのだろう。そしてあの死神のように見えるやつが自分そっくりな動きをしているのを見ていた。
「そう。あれはあなたをモチーフにして作られたトライアルGってことらしいわ」
後ろに立っていた光が腕組みをしながら睦月に言った。
「うってつけだったてわけね。ブレイドに憎しみをもつあなたが・・・どう?自分をコピーされた気分は」
睦月は歯を食いしばって拳を固めた。その手にはカードとバックルが握られていた。カードをバックルに装填する。ベルトが勝手に装着された。
「コピーのくせに・・・ふざけるな!!」
走り出すとともにスクリーンが現れた。それを通り抜けレンゲルはトライアルGへと向かう。


「剣崎君!橘さん!」
その時、栞が二人に近づいた。
「広瀬!」
「来るな!!」
しかし遅かった。いや、トライアルGが来るのが速かったというべきか。ブレイドとギャレンは何とかしてトライアルGを遠くに押しのけようとした。ブレイドがタックルしたが体を半身にして避けられる。その背中を杖で打ちつけた。ギャレンが栞の壁になるように立ちトライアルの攻撃を受けて膝をついた。ブレイドと同じように背中を打たれ、横っ腹に杖を打たれて飛ばされた。そのままトライアルGは栞のほうにも歩きだした。そして杖が振るわれる。ブレイドとギャレンは地面を転がっていた。誰もその一撃から栞をを守ることはできないはずだった。しかし、
「!!!」
誰かの名を呼んだような叫び声が響く。栞は奇跡的に無傷だった。なぜなら目の前には壁があったからだ。それはブレイドでもギャレンでも、ましてや遠くから見ていた睦月でもなかった。栞の目の前には、自分の名を叫びながら跳んできたトライアルの姿があった。その隙にブレイドとギャレンは二人がかりでその場からトライアルGを引き離した。その時、レンゲルが杖でトライアルの背中を打った。
「睦月!?」
ブレイドの言葉にも耳を貸さず、レンゲルはトライアルG目がけて杖を構えながら走っていた。その間にギャレンとブレイドは栞のほうを見た。

「ア・・ア・・・シオリ・・・・・」
トライアルBが崩れるように倒れた。トライアルGのもつ毒がすぐに回り始める。膝をつき、仰向けにして倒れた。
「シ・・・オ・・・・リ・・・」
「お父さん・・・・・」
トライアルの体が広瀬義人へと変わった。
「思い出した・・・・・」
あの瞬間、トライアルBの中で急に映像が浮かび上がった。砂嵐のようなノイズが走るなか、その中で男はこう言っていた。そしてその言葉に引きづられるように、気がつけばトライアルBは跳んでいた。
『栞を頼む』
男の名は広瀬義人。紛れもない、本物の広瀬義人だった。
「私はあの人に作らされた・・・・」
作られた男は話し出した。

ノイズが走るなかでも男の声はひどくはっきり聞こえていた。
『私は間違いを犯した・・・・そのうえで敢えて私はお前を作った』
病室のような場所で本物の広瀬義人は消えそうな声で言った。
『目的はただ一つ。私はもう長くない・・・・』
広瀬は隣に置かれたベッドに腰かけてメガネを外した。
『私の代わりに娘を頼む。栞を守ってやってくれ・・・・。あとは私の記憶データを・・・・』
広瀬がベッドに寝て機械が作動した。トライアルの中に記憶がなだれ込んできた。広瀬義人の記憶が。それは一瞬で終わった。その時すぐに、別の男が入ってきた。
『記憶データの一部修正を』
男を記憶の中から見つけた。天王寺博という名だった。
『大丈夫だ広瀬君。君は今まで通り私のもとで研究を続ければいい』
男は立ち上がった。そして隣で横たわる男の指にはめられた指輪を取り、自分の薬指にはめたのだった。トライアルBが広瀬義人として生まれたのはこの瞬間だった。

栞はその場で座り込んだ。その頬には涙がつたっていた。
「お父さん・・・・」
広瀬はゆっくりと首を傾けて栞を見た。その顔は優しい笑みを浮かべていた。栞の記憶の中にもある、優しい父の笑顔だった。栞は父の胸に顔をうずめた。
「お父さん・・・・・」
泣きじゃくる娘の頭に父親はゆっくりと手を置いた。

雨が再び降り始めた

ブレイドとギャレンは父と娘のやり取りをずっと見ていた。だが、
「うぁっ!」
レンゲルがトライアルに押されているのに気づいた。
「貴様よくも・・・・!」
「許さん!」
ブレイドとギャレンは走り出した。ブレイドは剣を抜きトライアルの背中を斬りつけた。その振り向きざまにトライアルが杖を振るったがギャレンと共にバックステップを踏んで回避。そしてトライアルが杖を振り切った隙をついてギャレンが飛び込んだ。杖が苦手とするショートレンジだった。杖を左手で掴み、顔に右ストレートを打った。今度はレンゲルが杖を振り下ろしたのをトライアルは杖で何とか防いだ。トライアルは瞬時にレンゲルの杖をいなすようにして、杖を振り上げた。レンゲルの杖は下に振り下ろされる。トライアルは振り上げた杖を一歩踏み込んで首筋めがけて振りおろそうとした。その時、ブレイドは視界の端に新しい姿を見た。雨の中を走る、コートを着た青年だった。その青年の腰にはハートの紋章を象ったバックルをつけたベルトが巻きついていた。青年は走りながらカードを取り出し、バックルの溝に通した。
「変身!」
『チェンジ』
瞬時に液体が包んで弾ける。漆黒の戦士は弓を召喚しながら腰のホルスターから新たな一枚を取り出した。
『トルネード』
突然突風がトライアルに向かって吹いた。降った雨が舞い上がり白い霧を生み出す。その瞬間、トライアルは少し動きを止めた。その一瞬で十分だった。カリスはトライアルめがけて跳び込むように跳んだ。
「ふっ!!」
弓に付けられた刃がトライアルを斬りつけ、カリスは着地した。霧が晴れていく。そこには4つのスートを象徴するライダーがいた。トライアルGはその中に突っ込んでいった。降りあげられた杖をレンゲルとカリスが二人で完璧に押し切った。ブレイドが懐に飛び込む。
「ウェイ!!」
剣で三回斬りつけた。そしてカリスが弾丸のように弾けた。黒い影がその速度をもってすれ違いざまに肩から生える鎌を斬り落とした。レンゲルが杖を地面棒高跳びの用量で杖を地面に叩きつけた。反動で一気に跳びあがった。そしてギャレンがホルスターから銃を抜きとり照準を合わせた。レンゲルが跳びあがってからの隙を補うべくギャレンは引き金を引いた。光の銃弾が的確にトライアルを打ち抜いていく。
「うらぁぁぁぁ!!!」
雄たけびとともにレンゲルが落下してきた。トライアルが杖を横にしてレンゲルの攻撃を防ごうとする。振りかぶっていた杖をレンゲルは真っ直ぐ振り下ろした。レンゲルの紛い物であるトライアルGの杖を真っ二つにへし折り、トライアルを地面に叩きつけた。その時、カリスが腰から紅きカードを抜いた。
『エボリューション』
13枚のカードが飛び出しカリスの中に取り込まれた。ワイルドカリスへと進化した。ブレイドがラウズアブゾーバ―のカードホルスターを展開した。一枚、溝に通した。
『アブゾーブクイーン』
そしてもう一枚をカードに差し込んだ。
『エボリューションキング』
ブレイドの周りでも13枚のカードが舞い、黄金の鎧をまとう。カリスがすぐに鎌を弓に取り付け、13枚のカードを一つに束ねた。ブレイドも右手を掲げ、五枚のカードを手にした。
『ワイルド』
弓にエネルギーが集中した。カリスが弓を引き絞るような動作をして、矢を放つ。一本の矢がトライアルの胸を貫いた。そして、
『スペード10,J,Q,K,A』
「はぁぁぁぁ・・・・・!」
大剣が金色に輝いた。トライアルGとブレイドの間に巨大な五枚のカードが並んだ。
『ロイヤルストレートフラッシュ』
大剣を腰に構えたままブレイドは五枚のカードを駆け抜けた。そして、
「ウェーイ!!」
一閃。トライアルの体を真っ二つに斬った。光がトライアルを包み粉々に分解していく。そして一切の欠片も残さずトライアルは消えうせたのだった。


広瀬は木に座ってもたれていた。
「栞」
父は娘の名を呼んだ。ずっと顔を下に向けていた栞が顔を上げた。残された時間はあと僅かだった。
「無事でよかった」
栞は鼻をすすりながらうなずく。
「ごめんね・・・・これで母さんの傍に行ける・・・・」
父は左手を伸ばした。その手をしっかりと娘は握った。
「その指輪・・・・」
広瀬は栞の右手に付けられた指輪を見た。栞はまた頷いた。父はまた優しく微笑んだ。それが最後だった。広瀬の体を紫の光が包んだ。トライアルBが一瞬だけ姿を現して、消えてしまった。しかし栞の中にたった一つだけ残されたものがあった。

母の形見と対を成す、エンゲージリングだった。