epilogue

その後のことを少しだけ話そう

トライアルGが倒される様子を天王寺はモニタで見ていた。その顔は一切の焦りがなかった。
「終わったのではない・・・・・」
それどころか笑っている。
「始まったのだ・・・・本当の闘いが!!!」
そして天王寺は声をあげて笑いだした。胸のポケットから一枚のカードを取り出し、男はただ嗤うのだった。


白井邸では、橘がつぶやいた。
「BOARD理事長、天王寺博・・・一体何者なんだ?」
トライアルBの記憶を改ざんしたという天王寺。その目的はいったい何だったんだろうか。その素性さえもわからない、謎に包まれた存在だった。そして橘が振り返ってパソコンの前に座る栞を見た。
「後悔しない?」
剣崎の言葉に栞はしっかりと頷いた。
「ええ」
栞は手の中に収まる小さな指輪を取り出した。
「みんなここにあるから・・・・」
パソコンのモニタに映っていたのは以前見た削除画面だった。2つの選択肢のうち、栞がポインタを動かしてボタンの上に置いた。
『はい』
そして右クリック。父の記憶、思い出の映像は消えてしまった。後悔はない。思い出は栞の中にきちんと残っているからだ。父の結婚指輪をしっかりと握りしめて。


・・・・・
ここで一区切り。僕は上書き保存してからエディタソフトを閉じた。ここ最近、ずっと執筆作業に没頭しているせいか腰が痛くなる。僕はいつものように背を伸ばした。骨がいい音で鳴る。そして窓を眺めた。日が傾いて、外が茜色に綺麗に染まっていた。そろそろ晩御飯の準備しなきゃ。だが、
「・・・・」
僕は冷蔵庫の中が空っぽなことを思い出してしまい絶句した。昨日食べたパスタに残り物の食材を全部入れてしまったのだ。仕方ない何か買いに行くか・・・・僕はそう思って屋敷を出て行った。車で行きたいところだがたまに自転車で行くのもいいだろう。

着いた場所はとあるスーパーだった。広瀬さんにおつかいを頼まれた時に行く店だった。それを思い出すとやっぱり自分で買い物は行くべきなんだと思った。僕は買い物かご片手に店内をめぐる。野菜、肉、その他もろもろ・・・牛乳はいつものように問題ない。僕が今日の夕飯は何にしようかなぁと思っていると、突然肩に手が置かれた。僕は驚いて振り向いた。そこにいたのは二人組だった。
「白井さん?」
「睦月!?望美ちゃん!?」
僕は驚いて声を上げてしまった。睦月と望美ちゃんも買い物を頼まれていたらしい。ちなみに、二人とも今は大学生。ただし睦月は一浪していた。あの戦いの後、睦月には時間が残されていなかった。それでも望美ちゃんと同じ大学に行けたのは本人の努力のたまもの何だろうと思う。橘さんもちょくちょく教えていたらしいけどスパルタだったんだろうなぁ。大学生活のこと、今書いてる小説のこと等などいろんなことを話して僕たちは別れた。

家に帰って僕は冷蔵庫に食材を入れていった。そして夕飯をさっさと食べて僕はのんびりとソファでくつろいだ。僕はふと小説のことを考え始めた。

終わりが近い

全ての終わりが近づいていた。残ったアンデッドも数少ない。あの時のことを考えると、終わりがあるなんてとても思えなかった。いや、終わりを考えるのが嫌だったのかもしれない。けど終わりを迎えて、僕たちはこうして日常に戻っている。それぞれの思いは時間とともに風化していくんだろうな・・・・。その時僕は棚に置かれた写真に目を向けた。思わず僕はそれを見て笑ってしまった。
『そうだ!写真撮ろう!』
ある日、『彼』が突然そんなことを言い出したのだ。単なる思い付きだったんだろう。でも今はそれを見るだけで大丈夫だ。僕は絶対に忘れやしない。

だって思い出はここにあるんだから

---第三部「迫りくる者たち」Fin---