カテゴリー2「危機」

白井邸の前に剣崎と天音が立っていた。二人の前に一台のランドローバーが止まり運転席から虎太郎が出てきた。剣崎が感心したように声を上げる。
「へぇ〜中々かっこいいなぁ。って白鳥号は?」
「修理屋さんに出したんだ。直すの難しいって。あぁ白鳥号〜」
虎太郎が悲愴な声をあげた。以前のエンスト以来白鳥号はめっきり動かなくなってしまった。無理も無い。白鳥号は何とか修理してもらい、かろうじて動く状態だった。本来ならとっくに置物かスクラップに出されるアンティーク車なのだ。それでも使い続ける虎太郎の白鳥号に対する愛情は計り知れない。
剣崎と天音が車に乗ろうとしたとき一台のバイクがやって来た。ヘルメットを取ると始の顔がそこにあった。
「始さん。」
天音が言った。始はバイクから降り
「天音ちゃん、お母さんが心配してる。帰ろう。」
しかし天音は
「嫌、私呼子の洞窟行くんだからね!」
そう言って剣崎の後ろに隠れた。それを見てさっきまで穏やかだった始の顔が一変し無表情へと変化する。しかし虎太郎は朗らかに言った。
「大丈夫だよ。姉さんにも電話入れたし、僕が送って帰るから。」
「良かったら君も来るか?」
剣崎が誘いを入れる。しかし始の顔は依然無表情のまま、でもどこか影を帯びた様子を漂わせていた。
「好きじゃないんです、そういうの・・・人とつるむのが。」
ハカランダでのときと同じように再び剣崎の頭の中でプチッと何かが切れた。
「あぁそう!!悪かったね俺たちはつるんでばっかりで!!」
吐き捨て車に乗り込んだ。残り二人も車に乗り込み、車が走り出した。天音が窓から顔を出した始に叫ぶ。
「じゃあね!本当に心配しないで、大丈夫だから!」
始はその様子をただ見送るだけだった。しかしその顔はさっきまでと違いどこか穏やかだった。

その帰り道。
閑散とした道路を走る始。その時対向車線から一台の真っ黒な車がやって来た。始は何も思わずただ走る。
バイクと車が重なった瞬間―――――
突然始はバイクと止め振り返る。その目は見開かれ驚きの表情に包まれていた。しかし車は止まることなく走り続けやがて見えなくなってしまった。始も再びバイクを走らせる。
「気のせいか・・・」
そう思い込もうとした。しかしあの瞬間、脳裏に響いた声は何時までたっても脳裏から消えることは無かった。
「人間に成りすましたつもりか、カリス?いつから貴様はそこまで堕落した?」

さっき始とすれ違った車が止まる。そして後部座席の窓が下に降り乗っている者の顔を露わにする。そこにはサングラスをかけた男がいた。サングラスをかけた表情からはなにも読み取ることができない。その男が呟いた。
「あれがカリスか・・・。まぁいい。準備もできた。そろそろ始めるか。あとは・・・実験材料だな。」
再び車が動き出した。



場所は虎太郎の車の中へと変わる。天音が剣崎に話しかけていた。
「ねぇ剣崎さん。亡くなったお父さんとお母さんにの声が聞こえたら何を話すの?」
剣崎は少し考えて
「う〜ん、そうだなぁ。まず謝るよ。『助けられなくてごめん。』って。」
「え・・・?」
「火事で死んだんだ。俺が11の時だった。」
剣崎はあの日にあったことを話した。火事で燃え盛る家の中に一人取り残される自分。父と母を探し見つけたはいいが助けることができなかった自分。
「その日からなんだ、俺が欲張りになったのは。『皆を助けたい』『全部俺の手で助けたい』って。そんな能力とか無いんだけどね。」
若干照れくさく剣崎は言った。そして天音の頭にポンと手を置き
「お父さんの声、聞こえるといいな。」
「うん!!」
天音は笑顔で答えた。



診療所のいつもの椅子で橘は眠っていた。小夜子は橘を起こさないよう何枚もの資料を眺めながら呟いた。
「またこれか・・・」
そして人の気配を察したのか橘が目を開けた。
「帰ってたのか。すまない。また勝手に入って。」
「言ったでしょう。いつでもいいって。」
小夜子は朗らかに答え再び用紙に目を向けた。小夜子の悩む顔を見て橘は
「どうした?」
「患者の症例でいくつも同じ問い合わせが来てるの。呼子の洞窟って所に行った人が原因不明の高熱を出す人が増えて・・・。その人たちが『ムカデ』だとか『怪物』ってうわ言を言うらしいの。だから今そこ、封鎖中で・・・」
「怪物?」
橘の頭にその単語が引っかかった。怪物・・もしかしたら・・・



封鎖中だとはいざ知らず三人を乗せた車が海岸に着いた。とはいってもそこから歩いて呼子の洞窟に行くのだ。三人は車から降り歩き出す、が警察で捜査のとき等に見られる「KEEP OUT」と書いてあるテープ張り巡らされが行く手を阻んでいた。
「なんだこれ?立ち入り禁止?」
剣崎がテープを触りながら言った。
「何かあったのかも。ねぇ天音ちゃん。出直そう。」
虎太郎は不安げな声で言った。しかし天音は
「いや!私行くから!怖くないもん。だって仮面ライダーが一緒なんだから。」
天音がニヤニヤした顔で剣崎のほうを向く。剣崎は驚きを隠せない。そしてすぐに虎太郎の肩に腕を回し
「お前・・・言っていい事と悪いことがあるだろ、なあ?」
「え・・・いや・・その・・・」
うっかり漏らしてしまったことがこんな所でしっぺ返しを喰らうとは・・・つくづく自分の口の軽さに虎太郎は嫌悪感を覚える。しかしそうしている合間に天音はテープの反対側にいた。
「ねぇ早く来て。」
「「天音ちゃん!?」」
二人もテープを飛び越え天音を追いかける。

呼子の洞窟は見た目、普通の洞窟だった。海岸沿いでただぽっかりと口をあけそこに来る者を飲み込んでしまいそうだった。三人は持参した懐中電灯を持ちながら薄暗い洞窟に入っていった。
中に入って虎太郎は何かを感じていた。何か出てきそうな・・・そんな気配を。
「なんだか気持ち悪いなぁ。ねぇ帰ろうよ。」
しかし剣崎は
「臆病だなぁ。だから天音ちゃんに虎太郎って呼び捨てにされんだよ。」
何事も無いかのように言った。虎太郎が天音の方に目を向けるとこちらを見ながらニヤニヤしている。虎太郎は嘆息を漏らした。
その時、
「ん?何か聞こえてこない?」
天音が言った。確かに奥から何かが聞こえてきた。しかし風の音や波の音でかき消されてしまいそうな音だった。しかし天音は
「お父さんの声だ!お父さん!!」
奥へと走り出した。そして天音が見えなくなってしまった。


天音は角を曲がった瞬間、心臓が止まるような思いをした。天音の目の前に怪物が立っていた。
「キャーーー!!」
天音は叫んだ。しかし逃げることも無くその場に立っていた。

「呼子の洞窟」事件の真相、それはムカデのアンデッド―――センチピードだった。

叫び声を聞いた瞬間に二人は走り出した。曲がり角には天音が倒れていた。その傍らに立つセンチピードの姿に虎太郎は驚き、剣崎は警戒した。
「虎太郎。俺があいつを引きつける。その間に天音ちゃんを連れて逃げろ!」
「わかった。」
二手に分かれ走り出す。剣崎はセンチピードへと向かい虎太郎は様子を窺いながら天音に近づいていく。
剣崎はセンチピードにパンチを打ち込む。しかしその攻撃はかわされ生身の身体に一撃が入る。
「う・・・」
後ろに仰け反った剣崎はバックルを取り出しカードを差し込んだ。その間にもセンチピードは攻撃を仕掛けてくる。
生身でこれ以上攻撃されればやばい・・・剣崎はそう思った。そして攻撃をかわしながら変身の機会を窺う、がセンチピードに組み付かれのまま壁に叩きつけられてしまう。しかし組み付かれた際に生じる僅かな隙を剣崎は得た。腰にベルトが巻きつく。そして
「変身!!」
バックルのレバーに手を掛けた。ゲートが飛び出しセンチピードを吹き飛ばす。剣崎はゲートを通り抜けセンチピードにさっきまでとは違う明確な一発を顔面に入れる。
その間に虎太郎は天音の方へと走った。
「天音!?天音!!」
天音の反応が無く顔は蒼白となっていた。しかも―――
「なんだこれ!?」
首筋に小さな穴が二つ開いていた。まるで吸血鬼が血を吸った後のように。もしかしたら・・・そう思った虎太郎は天音を抱き上げ洞窟を抜け出した。

「はぁ!」
ブレイドは剣を抜きセンチピードに斬りかかる。その攻撃をセンチピードはブレイドの背後に避けた、しかしブレイドはすぐに身体を転換させ右足をセンチピードの胸にめり込ませる。怯んだセンチピードにもう一度ブレイドは剣を振るった。
「ウェイ!」
袈裟から斬り上げ、更にそこから手を持ち替え斬り返し。更なる追撃を仕掛けようとした瞬間センチピードは洞窟の更に奥に逃げてしまった。ブレイドが後を追うも曲がり角を曲がった瞬間センチピードを見失ってしまった。
「くそ・・・」
ブレイドは呟く。そして変身を解除し虎太郎の下へ走りだす。


「虎太郎!天音ちゃんは!」
「わかんない・・様子が変なんだ。」
絶望的な声を虎太郎は上げた。後部座席で横になっている天音に剣崎は額に手を当てた。剣崎は驚きそして
「すごい熱だ!!早く病院へ!」
そう言って車に乗り込んだ。虎太郎も急いで車に乗り込みエンジンを入れる。三人を乗せた車が猛スピードで病院へと向かった。