カテゴリー3「あいつの正体・・・」

「天音、しっかりしろ!天音!!」
集中治療室に運び込まれていく天音に虎太郎が叫ぶ。

事態は急を要した。三人を乗せた車はすぐさま総合病院へ駆け込んだ。
「子供が高熱で・・・助けてください!!」
周りの人たちなど気にもせず剣崎が受付のナースに大声で叫んだ。容態を見たナースはすぐさま天音を集中治療室に運び込んだ。医師もすぐさまやって来た。どうやら同じケースの患者が複数あったらしく病院側の対応は迅速だった。
しかし
事態は更に悪化するばかりだった。
「41度4分です。」
「酷い高熱だ・・・抗生剤を」
「はい!」
依然として熱は下がらない。医師側も手をこまねいていた。原因が解からない以上どう処置していいかも解からない状況だった。
そこに
「天音・・・天音!!」
知らせを聞いた遥香と始がやって来た。
「それでどうなの、天音はどうなの!?」
「わからない。原因不明の高熱だって・・・」
それを聞き遥香は絶望と焦燥に駆られた表情で天音のいる部屋の扉を叩きつけた。
「天音の母です!入れてください!」
ナースが隣の部屋から出てきてそちらに招いた。部屋に入り遥香が見たもの、それはベットの上で意識が無いまま治療を受けている天音の姿だった。



俺は助からない・・・ここで死ぬ。男は直感で感じ取った。腰を抜かせ後ろに下がっていく自分、目の前に立つ訳の分からない怪物。冷や汗やら何やらが男の背中や首筋から噴出す。足や手につく砂はもはや認識下になかった。
「うわぁぁぁ!!」
男が叫ぶも助けは依然として来ない。いや来る筈が無い・・・絶望的な結果が男の脳裏に浮かぶ。怪物がゆっくりこちらに迫って来た。

海岸、橘の聞いた呼子の洞窟からさほど遠くない場所だった。橘が着いたとき男が襲われているのを目撃した。橘はバイクのスピードを上げ前輪を持ち上げた、そしてセンチピードに突っ込む。

男から見ればそれは突然の出来事だった。バイクが背後から突如出てきて怪物を撥ね飛ばした。
「!?」
突然の出来事に男の思考が追いつかなくなる。バイクは男の前に止まり、
「逃げろ。」
ヘルメットを着けたまま橘が冷たく言った。しかし萎れた男は口をパクパクさせ立つことすらなかった。
「逃げろ!」
橘が語彙を荒げた。それを聞いた男は持てる力を全て使いその場を全力疾走で逃げさる。


ようやくヘルメットを脱ぐ橘。対峙するセンチピード。
「貴様を封印し俺は新たな力を得る!」
橘はバックルをカードに差し込みベルトを装着。左腕を前に構え叫ぶ。
「変身!!」
ゲートが出現し橘はギャレンへと姿を変えセンチピードに襲い掛かった。



遥香は自身の無力さを感じた。
「天音・・・」
医師たちが懸命な処置を施すも回復の兆しが見られなかった。ただ心配することしかできない自分。遥香はこの状況が耐えられなくなり涙を流した。

廊下では始、剣崎、虎太郎がいた。虎太郎が呟く。
「僕が悪いんだ・・・洞窟なんかに行かなければ・・・」
椅子に座っていた剣崎も
「いや、俺があのテープを見て止めればよかったんだ・・・。アンデッドがいたって気付いていれば・・・。」
呟いた。そのときまで終始無言だった始が僅かに反応した。
「アンデッド??」
「簡単に言えば怪物みたいな奴なんだ。そいつが噛んだ時に多分毒が天音の体に・・・」
虎太郎が答えた。その時、始の目が見開き、顔からはだんだん焦りの色が滲み出てきた。
「抗体だ・・・抗体が必要だ!」
始はさっき来た廊下を全速力で走りだした。
「え!?どういうことだそれ!?」
剣崎は立ち上がり始を追いかけた。すぐに追いつき始の腕を掴んで引き止める。
「どこに行くんだ!?」
「時間が無いんだ離してくれ。天音ちゃんを助ける!」
「助けるって何のことだ!?それに抗体って・・・」
事情が全く飲み込めない剣崎。始は剣崎の腕を振り解き
「アンデッドから受けた毒はな・・・そいつの持ってる抗体から取り出した治療薬でしか治らないんだ!!」
「ちょっと待て!お前、どうしてそんなこと・・・」
剣崎は始の腕を再び掴もうとしたが
「時間が無いと言ってるだろ!!」
始は剣崎の腕を強引に弾き飛ばした。その時、
「剣崎君、アンデッドだ。場所は・・・さっきの洞窟のすぐ近くの海岸だ!!ギャレンがもう闘ってる!」
ノートパソコンを持った虎太郎が後ろから叫んだ。それを聞いた始の顔から焦りの色がさらに強くなる。
「まずい・・・」
始は呟き、病院を出た。剣崎が追いついたとき始はヘルメットを被りバイクのエンジンは唸っていた。
「おい!まずいってどういうことなんだ!!」
「ギャレンって奴が倒したら抗体が取り出せなくなる。生きてるうちに取り出さないと意味が無いんだ!」
そう言って始は走り去った。剣崎もバイクを走らせ始の後を追う。
(あいつ・・・なんでそんな事・・・)
剣崎はそう思っていた。しかし更に深く考える余裕を持っていなかった。

"何故彼がアンデッドの場所を知らずに病院を出て行こうとしたのか。まるで虎太郎に言われる前から場所が分かっていたかのように。"


バイクに乗った始の腰にバックルが浮かび上がる。片手にカードを持ち、
「変身!」
液体がバイクもろとも始を包みカリスへと姿を変えた。そしてバイクの姿も黒い物に変わっていた。カリスは更にスピードを上げる。



ギャレンは終始優勢に闘っていた。いや、『優勢のように見えた』と言うべきであろうか。
「貴様を封印する! うっ・・・!?」
ギャレンはセンチピードとの距離を詰めようとした。その時急にギャレンが膝をついた。まるで自身の体が闘うことを拒否するかのようだった。しかし立ち上がって
「はぁ・・・貴様らアンデッドを封印すれば新たな力が俺に宿る。それを続ければいつか俺の体は!!」
ギャレンはセンチピードの拳をガードし腕を跳ね除けた、そして空いた体にパンチを打ち込みさらに強い一撃を与えた。距離が離れたギャレンはホルスターから銃を抜き取り照準を合わせた。
その時――――
バイクが突然視界の横から現れギャレンの体を弾き飛ばした。バイクはセンチピードとギャレンの間に位置する形で止まった。
「なんだ・・・」
ギャレンはカリスの姿を見て動揺が隠せなかった。訳がわからないギャレンは
「誰だ、お前は!?」
こんな常套句しか言うことができなかった。しかしカリスは
「お前は手を出すな。いいな!!」
そう言っただけだった。混乱するギャレンを尻目にカリスはセンチピードに向かっていく。それを見てようやく
「何言ってんだ!!そいつは俺が!!」
ギャレンもセンチピードに向かっていった。しかしカリスは
「邪魔だ!!」
ギャレンの胸に蹴りを打ち込む。後ろに飛ばされギャレンは倒れこんだ。

その時剣崎が海岸に到着した。そこにいる者に驚いた。センチピード、あの時のあいつ・・・、そしてギャレン。
「橘さん!?」
「うぅ・・」
剣崎はギャレンに近寄り体を抱き起こす。そして闘っているかリスとセンチピードの方へと目を向けた。カリスはセンチピードの大振りな攻撃を姿勢を低くして後ろに回りこみ回避、がら空きの胴体に蹴りを放ち距離を離す。そして剣崎の方に向き
「いいか。そいつに手を出させるな。抗体を見つけるのが先だ!」
再びセンチピードとの距離を詰める。
「誰だ!あいつは!!」
ギャレンは剣崎の胸倉を掴み叫んだ。しかし剣崎はカリスのほうを向いていた。剣崎の頭には一つの考えしかなかった。

「どこだ・・・どこに抗体がある。」
カリスの複眼がセンチピードの姿を映し出す。センチピードの体を透視し抗体のある場所を探す、が透視できるのはほんの少しだけ、少しづつ探していかなければならなかった。しかしそうしている間にもセンチピードには攻撃を仕掛けてくる、カリスはその攻撃も回避しなければならない状況だった。
センチピードがカリスに組み付いた。カリスがそれを振りほどくと同時にセンチピードはパンチを打ってくるがガード、さらなる攻撃をいなして回避していく。

(まさか・・・あいつが)
依然胸倉を掴まれたままその様子を見ていた。その闘い方とさっきの言動から一つの考えが色濃くなっていく。

"ギャレンって奴が倒したら抗体が取り出せなくなる。生きてるうちに取り出さないと意味が無いんだ!"
相川始が・・・。
そのときカリスはセンチピードに放り投げられた。ダメージが蓄積したのかカリスの動きが緩慢になりセンチピードの攻撃が当たっていく。その状況を見るに見かねたギャレンは
「まどろっこしい闘い方しやがって!!」
掴んでいた腕を放しセンチピードの方に走り出そうとした。しかし後ろから肩を持たれギャレンが止まった。振り返って見るば剣崎の腕だった。
「あのアンデッドを封印しちゃ駄目だ!俺の話を聞いてくれ。」
「うるさい!どけ!!」
剣崎の腕を払いギャレンは走り出そうとする。しかし剣崎は前に立ちはだかった。決意と、ほんの少しの哀しさを秘めた瞳がギャレンを見据える。
「戦わせない!それでもと言うなら・・・あんたを止める!」
剣崎はバックルを取り出しカードを装填。ベルトが腰に巻きつき、そして
「変身!!」
剣崎はゲートを通り抜けると同時にギャレンにタックルし突き飛ばす。倒れこむ二人。ギャレンは上に被さるブレイドを跳ね除け再びセンチピードに向かおうとした。
「待て!話を聞け!」
ブレイドはギャレンを後ろか羽交い絞めにする。しかしギャレンは空いた体にエルボを入れブレイドを投げ飛ばした。
「お前の指図は受けない!」
ブレイドはすぐに起き上がりギャレンに後ろから再びしがみつく。
「放せ剣崎!」
ギャレンは振りほどこうとするがブレイドは抵抗した。そしてブレイドは後ろに投げた。よろめくギャレンの胸に蹴りを打ち込んだ。
「ぐは・・・」
起き上がったギャレンはブレイドへと走り
「うわぁぁぁ!!」
ブレイドに殴りかかろうとする拳をブレイドはガードした。そして防いだギャレンの腕をそのまま掴み体を転換させ腰を落とした。
「!?」
一本背負い。その攻撃に咄嗟に受身を取るギャレン。そして仰向けのままブレイドの腕を蹴り、すぐに起き上がり仰け反るブレイドの顔にパンチを放った。倒れたブレイドは呟く。
「違うんだ橘さん・・・どうして分かってくれないんだ!!」
「おれの体はボロボロだ。それを治すにはアンデッドを封印するしかないんだ!!」
ブレイドは立ち上がって剣を抜いた。ギャレンも銃をホルスターから引き抜いて対峙した。


抗体はまだ見つからない。カリスの体も徐々に限界が近づいていた。カリスと組み合っていたセンチピードが突然口から液体を吐き出した。カリスはそれをぎりぎり首を傾けることで避けることができた。液体は岩に付着し煙を立てながら溶けていく。
「抗体は・・・どこにあるんだ!!」



タイムリミットは刻一刻と近づいていた・・・・