カテゴリー1「疑念から確信へ」

ブレイドは剣を構えギャレンに向かって走りだした。ギャレンはブレイドに向かって銃を放つがブレイドは剣でそれを弾いていく。
「何!?」
ブレイドがすぐさま肉薄する距離に近づいた。
「はぁ!!」
ブレイドが切りかかった、がギャレンは銃身で無理矢理それを受け止める。両者の力は拮抗していた。しかしギャレンはすぐさま銃を傾け剣をいなす。ブレイドの剣が勢いに任せ砂浜に叩きつけられ砂を巻き上げる。ギャレンはその隙を付き
「はぁ!!」
掛け声と共に至近距離からの発砲。光弾がブレイドに襲い掛かった。



抗体・・・抗原(いわゆる毒)が体に侵入した時に生成され抗原のみに対し働く特殊なたんぱく質。
アンデッドの毒はこの世界に存在しない。しかしセンチピード自身は平気でいる、ということは抗体を自身の体で生成している。そして毒が生成される器官で抗体も生成されるなら・・・若しくは毒から抗体を解析することができるなら・・・。そうかリスは考えた。

カリスの複眼は徐々にセンチピードの体を写していく。
「抗体はどこだ・・・」
カリスはセンチピードと距離を離していた。しかしセンチピードの口からまたしても毒液が放たれた。
「!?」
カリスの体は限界に近かった。その体での反応が少し遅れたのか左肩に毒液が少し付着した。
「うっ・・・!!」
肩に焼けるような痛みを感じ立膝をついた。その液体を払うわけにはいかない、指についてしまうからだ。しかしカリスはさっきの一瞬で見つけた・・・抗体を。
カリスは痛みを堪え立ち上がりホルスターから一枚カードを抜き取った。そしてバックルの溝に通す。
「バイオ」
カリスの左腕から触手・・・蔓が出現した。その蔓が凄い勢いでセンチピードに向かう。
蔓がセンチピードの両腕、そして両足に巻きつき、三本の蔓がドスッっと鈍い音を立てセンチピードの胸の周りに突き刺さる。そして胸に突き刺さった蔓が何かを抉り取った。蔓が掴んだものは手の平に収まる程度の物だった。それこそがカリスの捜し求めていた物、抗体を作り出す器官だった。今、カリスの左手には抗体が、そして右手には新たなカードが握られている。
「チョップ」
カリスの右手に力が集まっていく。手を手刀の形にし蔓で強引にセンチピードを引き寄せた。
「はぁ!!」
一気に近づくセンチピードの腹に手刀を突き刺す。腕が貫通し緑色の血が砂浜に飛び散った。センチピードから力が抜けていくのをカリスは感じ右腕を抜き取る。バックルは既に開かれカリスはカードを突き刺した。
『10 シャッフルセンチピード』
何時の間にか左腕から伸びた蔓は消えていた。そして左手に握り締めた抗体を確認しカリスはバイクに乗りその場を去っていた。


ギャレンの銃撃を受けたブレイドは数歩後ろに下がった。ギャレンはその間にカードを展開させ一枚抜き取りラウザーに通す。
「バレット」
ギャレンの銃には弾という物は無い、エースアンデッドから供給される力と装着者のエネルギーがラウザーに宿り光弾となって攻撃するのだ。そして今ギャレンの使用したカードは銃撃の強化。銃にさらなる力が宿る。
しかしブレイドも既にカードをラウザーに通していた。
「スラッシュ」
ブレイドの剣が光を帯びた。
ギャレンが引き金を引いた。さっきより一回り大きい光弾が何発も発射される。ブレイドは向かってくる横に転がり数発を回避した。地面に弾丸が当たり砂を巻き上げる。しかしギャレンの弾は止むことは無い。ブレイドは光る剣で光弾を一発打ち返した。
「何・・・!?」
打ち返した光弾が銃を後ろに弾き飛ばす。気をとられギャレンの視線は弾き飛ばされた銃へと向く。しかしギャレンは背中にゾッとするような感覚を感じた。振り向けばブレイドが目の前にまで近づいている。
「ウェイ!!」
光の剣が袈裟に斬り上げられた。ギャレンは後ろに吹き飛び砂浜に体をたたきつけた。
「うっ・・・」
剣を構えギャレンの前に立つブレイド。ギャレンの脳裏に突然あの光景、砂になる自分が浮かび上がった。
「駄目だ・・・俺は・・アンデッドを封印しなければ・・・俺の体が・・・」
切れ切れに弱気な声を上げるギャレン。その時ブレイドはあたりを見回した。『あいつ』の姿は既に無い・・・もうこれ以上闘う理由は無い、ブレイドはそう思った。
「橘さん・・・もう止めましょうよ。」
「黙れ・・・」
ギャレンは立ち上がろうとした。しかし体が既に着いていけなくなっていた。足が崩れギャレンは再び砂浜に倒れる。
「アンデッドは封印されました。もうこれ以上闘っても・・・」
そう言って自ら戦闘を拒否するかのようにバックルに手を掛け剣崎へと戻る。ギャレンもバックルに手を掛け変身を解除する。橘は息切れしながらゆっくりと立ち上がった。
「はぁ・・・また今度こんなマネをしたら絶対に許さん。」
そう言ってその場を離れようとしたが再び倒れてしまった。剣崎が急いで近寄った。
「橘さん!?大丈夫ですか。」
剣崎は腕を伸ばし橘の肩に手を置いた。しかし橘は
「俺に触るな!」
そういって剣崎の腕を払いのける。
「はぁ・・・お前は俺の敵だ。アンデッドを封印するのを邪魔する奴は全部敵だ!」
「違うんです!あのアンデッドの抗体がどうしても必要だったんです。解かってください。お願いします!!」
剣崎は懇願するような口調でそう言い橘の目の前で土下座した。
「聞きたくない・・・俺は言い訳は聞きたくない!!」
橘は聞く耳を持たず重い足取りでバイクへと向かった。
「うっ・・・ゲホッ・・」
ようやくバイクにたどり着いた橘はエンジンをふかしその場を後にした。
「橘さん・・・」
剣崎は橘の去った跡を見つめた。しかし
「そうだ!抗体!」
そうしている場合では無いと考え直した。急いでバイクを走らせ病院へと向かった。



病院に着いたら虎太郎が入り口で待っていた。
「虎太郎!天音ちゃんは!?」
「大丈夫だよ。命に別状は無いみたい。」
剣崎はほっとし息を吐いた。
「医局に抗体が届いたんだ。君がそれを届けたの?」
「いや、俺じゃない。」
剣崎は首を横に振った。しかし頭の中ではいくつもの疑念が一本の太い確信へと変化していた。
「前に天音ちゃんが助けてもらったって言った奴がいただろ?あいつがまた現れたんだ。」
「そうなんだ・・・ねぇ天音ちゃんに会いに行こうよ。」
二人は病院の中に入った。

病室にはベッドで横になっている天音と遥香、そして始の姿があった。たった今医者が出て行ったと遥香は言った。
「病院の人も驚いたって。抗体を投与したら見る見る内に熱が下がったの。本当に良かった・・・」
「よく頑張ったね天音ちゃん。」
虎太郎が言った。天音は剣崎の方に目をむけ
「剣崎さんも居てくれたの・・?ありがとう。」
「ん・・・あぁ・・・よかったな天音ちゃん。」
ほんの少しの嘘を口にするのに剣崎は戸惑った。剣崎は、嘘は下手な上にあまり好きでは無いのだ。たとえそれがどんなに小さくても。
天音はそれに気付かずに始の方に向いて微笑んだ。始も少し微笑み返し部屋を跡にした。それを見て剣崎も部屋を出て行った。


始は屋上の手すりに寄りかかり眼下の景色を眺めていた。剣崎はそれを見つけ始の隣に行った。始は気にすることなく景色を眺めていた。
「君なんだろ・・・さっきのライダー。」
始がゆっくり剣崎の方に向いた。無表情な瞳が剣崎を映し出す。
「知りません。何のことです?」
そう言って後ろを向き歩き出した。すかさず剣崎が肩を持ち引き止める。
「待ってくれ。何故ライダーであることを隠す。目的は何なんだ?」
「知りません。本当に何も知らないんです。」
振り返ることもせず始は答えた。
「じゃあお前がライダーだって言ってもいいのか!?俺とお前が何度も闘ってるってことも!」
その言葉が引き金だったのか始がゆっくりと振り返った。
「そんなことを言ってみろ・・・俺はお前を・・・」
始の声はさっきまでと違い低くドスの効いた声だった。ゆっくりと顔を上げ剣崎を見つめる。
「殺す・・・!!」
視線だけで相手を射殺せる、そういう目だった。そこに見えるのは純粋な怒りだけ。それをまともに受けた剣崎は手を離し後ろにたじろいだ。
「嫌われるよ。お喋りの過ぎる奴は。」
途端始は笑顔になった。しかしどこかぎこちない笑顔だった。
「誰にだって知られたくない秘密はある。忘れるんだな。」
始はその場を去っていった。
入れ違うように虎太郎がやって来た。
「何してたの剣崎君?そろそろ帰ろうか。」
「あぁそうだな。」
二人は駐車場に向かった。
「でも本当に良かったよ。天音ちゃん助かって、安心した。」
「あぁ。」
上の空で剣崎が答えた。虎太郎は少し眉をひそめたが気にせず言った。
「でも何でそのライダーは天音ちゃんばっかり助けるんだろう。これで二度目だもんなぁ。」
剣崎は無言で歩き続けた。


その帰り道、剣崎はバイクで虎太郎は車に乗って帰った。剣崎は車の後を着いていく。
その時、一台の黒い車が現れた。剣崎も虎太郎も気にすること無くすれ違う。しかし唯一人だけ違っていた。黒い車の後部座席に座りサングラスをかけた男は剣崎から確かな『気配』を感じた。
「あれがブレイドか・・・実験には十分だな。」
その車は以前始が目にした物と同じものだった。そして中に居た男も。



病室に始は戻っていた。
「じゃあお母さん先生にご挨拶してくるから。」
「わかった。始さんと待ってる。」
遥香は始にすまなさそうに笑った。
「ごめんなさいね、始さん。じゃあお願いね。」
「はい」
遥香は病室から出て行った。
「あのね、夢にお父さんが出てきたの。」
天音が話し始めた。
「お父さんが『頑張れ』って言ってた。だから私頑張れた気がするの。」
「そう・・・」
始は複雑な面持ちで答えた。回想されるシーン、雪山で写真を自分に渡す男・・・
「本当に始さんに会わせたかったなぁ。優しくてかっこよくて・・・」
その声を聞く始の心境は複雑だった。
―――何故だ・・・何故俺はこの子のことになると冷静さを失う。人間のような感情・・・わからない・・・―――



「ただいまぁ〜」
虎太郎がドアを開けた。剣崎も続いて入る。しかし白井邸は静かだった。栞が居るはずなのだが返事が無い。
「あれ広瀬さん出かけたのかな。」
虎太郎は居間に入って冷蔵庫に向かった。その時、机の上のあるものに目が留まった。
「あれ、なんだこれ・・・」
それは一通の手紙だった。虎太郎はそれを拾い裏返してみる。
「剣崎君。君宛だよ。」
「え??」
剣崎に手紙で思い当たる節は無かった。剣崎は手紙を渡され封を切って中身を読んだ。