カテゴリー2「古のリプレイ。その1」


海辺にあった椅子に座りながら橘は昨夜のことを話していた。
「俺を襲った男といいBOARDとは違った、全く異質の組織が動いているようだ。」
「でもそいつ人間じゃないよね。君の話聞いていると。」
「おそらくな。」
橘も同じだった。あんな場所で種も仕掛けもなく空を飛び、掌から火の玉を出す人間など世界にどれくらい居るだろうか?
「お願い橘さん。力を貸して!早く剣崎君を助けないと!」
対面に座る栞の懇願を橘は冷ややかな言葉で返した。
「俺は自分のことで忙しいんだ。烏丸を見つけるのが先だ。」
「じゃあまだ破滅のイメージが付いてまわって・・」
橘は虎太郎をにらみつけた。虎太郎はその視線に体をビクッとさせ「ごめん、剣崎君から聞いたんだ。」と呟いた。
「とにかく俺は協力できない。」
そういって立ち上がりその場を立ち去ろうとした、が栞は立ち上がって声を張り上げた。
「怖いんだ!」
その声で橘が立ち止まった。その様子を見て虎太郎はおどおどする。
「怖いもんだからいつもそうやって逃げ出す!」
「ふざけるな!俺は・・・」
橘の心に小夜子の言葉が浮かぶ。
"精神的なものだから心配ないって・・・"
「俺は・・・。そんなものはない。あってたまるか・・・」
橘は背を向けたまま呟いた。
「わっかんないなぁ。どうして突っ張るのさ。」
虎太郎は立ち上がってすぐ近くの芝生の方に歩き出した。橘は思わず振り返って虎太郎の姿を目で追った。
「どうして強がるんだよ。怖いものなんてあって当然なのにさ。僕なんて一杯あるよ?ゴキブリ、蟷螂、ミミズ・・・」
虎太郎は指折りで数えやがて足元に落ちている石を拾い上げた。
「あとは・・・饅頭!あぁー饅頭怖い〜」
そう言って石にかじり付くマネをして見せた。しかし橘は
「人をおちょくってるとぶっ飛ばすぞ!!」
気迫のある目で虎太郎をにらみつけた。虎太郎は石をゆっくりと置き
「で・・でもさ、見てよ。あの大都会を。」
虎太郎は橘から視線を離しそこから見えるビル街へと目を向けた。
「あそこにいる皆が何か怖いもんがあったり不安を抱えているんだよ。でもその弱さがあるからこそ一生懸命生きていると思うんだ。おばあちゃんがこう言ってたんだ。」
虎太郎は天頂に達しようとしている太陽に向かって指差した。
「弱さを知ってる人間だけが本当に強くなれるって。」
「馬鹿馬鹿しいそうやっていつまでも詩人ぶってろ。俺は忙しいんだ!!」
橘は怒りながらバイクに乗ってどこかに行ってしまった。
「馬鹿・・・・」
栞はため息をついた。



「馬鹿馬鹿しい・・・」
橘はイライラしていた。
あいつの言ったことが的を得ていたのだろうか?だから自分はイライラしているのだろうか?わからない・・・
前に見える信号が赤に変わる。橘はバイクを止めた。そして横断歩道を渡る人たち。橘はその人達に視線を向けた。歩きながら電話をする親父、楽しげに話しているカップル、そして老人の手を握りゆっくりと渡っていく女性。

"あそこにいる皆が何か怖いもんがあったり不安を抱えているんだよ。"

あいつが言ったことは正しいのか??ここにいる人たちが悩みや弱さを持っているのか、俺だけじゃないのか??弱さを知っているからこそ強くなれるものなのか?
「俺は・・・」
信号が青に変わり橘はバイクを走らせた。


栞と虎太郎は国道沿いをとぼとぼと歩いていた。
「どうすんのよ・・・橘さん協力してくれないし。」
「ご・・・ごめん、僕のせいかなやっぱり。」
虎太郎は肩をすくめた。
「手を貸そう。」
突然の声に二人は驚いて右を向いた。橘がバイクを止めてこちらを見ている。
「橘さん!?」
二人は駆け寄った。
「そいつらが烏丸を拉致している可能性も高いな。一緒に探してやる。」
「ほんとに!?」
「けどな、」
橘はヘルメットのバイザーを上げ虎太郎の方を見る目は怒っている様子ではない。
「俺はお前の言葉に打たれたわけじゃない、誤解するなよ。」
「わ、わかってる。」
そう言う虎太郎の表情はどこかうれしそうだった。次に栞の方に向き、
「広瀬、全方位最大範囲のアンデッドサーチャーでアンデッドを探せ、どんな微弱な反応も見逃すな。」
「分かった、やってみる。」
「それとお前、」
橘は再び虎太郎の方を向いた。唐突だったので虎太郎は少し戸惑った。
「え、僕!?」
「剣崎や烏丸が見つかるように祈ってろ。お前に出来るのはそれくらいしかない。」
「わ、わかった。祈るよ。」
橘はバイザーを下げその場を去った。その後に続くように栞と虎太郎も走り出す。



「おい!待てよ!!」
剣崎は男二人に脇を抱えられここまで連れてこられた挙句放り投げられた。腕が動かせない剣崎はむやみに転がる。男達は何も言わずその場を去った。
「ここは・・・」
剣崎がゆっくりと立ち上がったとき、
バシャッ

薄暗い場所をライトが一斉に照らし出した。剣崎は広い空間の中に一人だけ立っている。まるでステージで一人立つかのように。
「なんだよ・・・今度は何をしようってんだよ・・・」

ウ"ウ"ウ"・・・・
唸り声と足音が背後から聞こえてきた。
体中は強固な殻のようなものに覆われ右腕には盾の形をしたものを構えさらに左腕には生身で引き裂かれれば一溜まりも無い大きさのカギ爪。三葉虫のアンデッド、トリロバイトが剣崎の前に立ちはだかった。
「アンデッド!!」
剣崎は体の自由を奪っている白の拘束具を引きちぎろうとしたが上手くいかない。
「逃げられはしない。ここから出ることはできないんだ。」
スピーカーからの声が空間の中で響き渡る。剣崎は急いであたりを見回すとたった一つの小窓からサングラスをかけた男、伊坂がこちらを見つめている。
「何なんだお前、俺に何をやらせようって言うんだ!!」
「戦いだ。君とアンデッドの戦いが見てみたいんだ。」
「ふざけんな!!!」
そう叫んだものの事態は納まるわけがない。トリロバイトがこちらにクローを振り上げ向かってくる。クローが剣崎の覆っていた布を一気に引き裂いていく。
「うおらぁ!!」
引き裂かれた布を投げつけ剣崎はバックルのカードを差し込んだ。トリロバイトの攻撃をかいくぐりベルトが装着される。
戦うしかない、それが今できる剣崎の最良の選択であった。たとえそれが不本意な形であっても。そして、
「変身!!」
出現したゲートがトリロバイトを吹き飛ばした。



「テロメア配列修復始ました。融合係数516EH」
モニタにブレイドの映像とそのとなりに数字が表示されていた。
始にとってはどういう意味があるのかさっぱり分からない、しかし何となく察していた。融合係数・・・カテゴリーAとの融合を数値化したものだろう。そして今の「あいつ」からは「あの時」のような強さは見られない。
「融合係数516EH。変化ありません。」


ブレイドは剣を抜き取り斬りかかった。しかし、トリロバイトの強固な盾を貫くことが出来なかった。ブレイドの剣撃を全て盾で防ぎ左手の爪で攻撃をしてくる。バックステップを踏み距離をとったブレイドは剣を構えなおした。そして再び攻撃を仕掛ける。正面打ちの要領で切りかかるも盾で防御、そして剣を弾いた盾をブレイドの胸に打ち付け、さらにクローで追撃の突きを放った。



白井邸は一気に騒然となった。
「早くしなきゃ!!」
居間に入った栞はすぐに机のパソコンに向かった。それに対して虎太郎は、
「何してんのよ?」
との栞の言葉に
「え、神様に祈ろうと思って・・・」
そう言う虎太郎は「考える人」のポーズをとった状態で祈っていたらしい。怒るというより呆れを栞は感じる。
「私の部屋のパラボラアンテナ持ってきて!!」
栞の気迫のこもった言葉に気圧され虎太郎は居間を飛び出した。


「つまらないものだな。」
伊坂はぼやいた。
「どうだ?お前も見てみるか?」
伊坂は鼻で笑いその場を離れ椅子に座った。始は何も言わず何も感じず小窓からブレイドの姿を見下ろした。


ブレイドはクローの追撃を受け後ろに飛ばされた。
「う・・うう・・・」
そして立ち上がろうとした時に―――――
視線、というより何かの感覚をブレイドは感じ取った。冷たい、そしてその冷たさが凶器となるような感覚、以前自分はそれと似たようなものを感じたことがある。一瞬だけトリロバイトから目を離しそれが感じる方向を向いた。小窓にはサングラスをかけた男はいない。その代わりに立っているのは

相川始

「あいつ!!ふざけやがって!!あの野郎、この組織の人間だったのか!!」
ブレイドの中で何かが湧き出した。
剣を支えにしながらブレイドは立ち上がる。そして攻撃を仕掛けたがトリロバイトは掻い潜って背中に回り盾で打撃。しかしブレイドは動かなかった。体を転換させ左拳を打ち出す。トリロバイトは盾で防ぐもさっきのように防ぎきることが出来ない。そして剣を逆手に持ち右手のパンチを次々盾に放つ。その一発一発が重くなっていく。トリロバイトは後ろに下がった。


「融合係数624EH!?さらに上昇しています。718EH。まだ上がっています!」
それには伊坂も驚いた。椅子から立ち上がりモニタを見つめる。
「どういうことだ?こんなに激しく上昇するとは。」
騒然とする中で始だけが冷静だった。いや、冷静にしているように見えただけだろう。その微細な変化を誰も感じることができなかった。そして始は今分かった。「あいつ」が何で強くなれるのかを。
「そうか・・・」
始は呟いた。「どういうことだ?」と伊坂が聞く。
「あいつは感情を力に変える。人を守ろうとする愛、怒り、憎しみ、感情があいつを強くする。そして今、俺に対する憎しみと怒りがカテゴリーA との融合をより強めている・・・」
彼の中で獣の本能がうずき始めた。
「842・・874・・・900!!914EH」
「あいつ」が強くなるにつれ自分の本能も抑えられなくなってきた。戦え・・・頭の中でこだまする。後ろに数歩下がった始の目は見開かれいつもの冷静さを失っている。
「うう・・!!」
伊坂も始の変化を目の当たりにした。
「融合係数1000を超えました!!」
その言葉が引き金になったかのように
「うわああぁぁぁ!!!!」
始は獣のごとき雄たけびを上げた。それに続くようにベルトが出現する。始はカードを取り出し震える手で溝に通した。
『チェンジ』
始の周りを液体が多いカリスへと変貌を遂げる。
「カリス!?」
伊坂の声にこたえることなくカリスは小窓を突き破った。



漆黒の戦士は己の本能の赴くままにステージに駆け上った。