カテゴリー1「雷撃強襲」

それはブレイドたちが戦っているまさにその時。烏丸が研究所の壁に沿って歩いていた。やがて入り口を警備する男達を見つけゆっくりと誰にも気付かれずに中に入ることに成功するのであった・・・。そして目指す場所はただひとつ・・・


研究室が急に暗くなる。モニタも死んだように黒くなる。
「!?」
その突然の出来事に戸惑う研究員達。そこに一人の兵士が駆け込んで
「侵入者です!!」
と告げた。伊坂は立ち上がって、
「非常電源に切り替えろ。烏丸だな、あいつはまだ利用できる。捕まえろ!」
兵士はその場を離れた。烏丸を探すために。


『ライトニングブラスト』
その声と共にブレイドの周囲に電撃が迸り『ジジ・・ジジジ・・・』と音を上げコンクリートにぶつかりスパークする。
「はぁぁぁ・・・!!」
ブレイドは腰を落として剣を突き刺した。それと同時に周囲に走っている電撃がブレイドの右足に集約されていき今やブレイドの足は一つの稲妻と化していても過言でもない状態だった。
「ウェイ!」
ブレイドが空中へ飛び出す。それに気付いたトリロバイトも走り出す。空中で一回転しブレイドは雷を纏った右足をトリロバイトに向けた。
「ウェーーーーーーーイ!!!」
キックがトリロバイトに直撃しその強固な体を粉々に砕く。後ろに飛ばされ倒れるトリロバイトの体中に電撃が走っていた。
カチャッ
と軽い音を確認したブレイドはカードを投げる。トリロバイトはカードに吸い込まれるように姿を消した。
『7 メタルトリロバイト』防御力の向上。
ブレイドはカードをキャッチすると後ろに残っている敵に体を向けた。対するカリスはアローの刃を肩に置き今にも飛び掛る状態だった。ブレイドは片手で剣を構えた。
「俺は今、無性に腹が立っている!!あんたに裏切られた気分だ!!」
それを聞いたかリスも武器を前に構え
「望むところだ・・・決着を。」

しかしカリスの脳裏にあの映像が蘇った。
「・・・・」
カリスは武器を収めた。
「どうした!?」
カリスは一瞬悩んだようなそぶりを見せその場を走り去るのであった。
「おい!逃げるのか!!」
ブレイドの言葉がむなしく響いた。
「う・・げほっ」
橘は苦しそうなうめき声を上げた。それを聞いたブレイドは剣を収め駆け寄る。
「橘さん。大丈夫ですか?」

研究室にふたたび明かりが灯った。
「復旧しました。」
「ここには用は無い。データは揃った。」
そして武装した二人の兵が一人の男を連れてきた。
「わざわざ来てくれるとはな、烏丸。」
取り押えられた烏丸は伊坂を睨みつけた。そして強引に兵士達の手を振り払う。

「俺のことはいい。」
「でも・・・」
剣崎は駆け寄り橘を抱き起こした。突然、橘の顔色の優れない顔が驚きで包まれた。
「烏丸!?」
「え!?」
橘が見つめる方向はたった一つの小窓。剣崎もそこを見た。そこから見えるのは見覚えのある後姿、橘が必死で探していた人物。いま烏丸は兵士二人に追い詰められていた。
「いけ、剣崎。烏丸を確保するんだ。」
「はい!」
剣崎は走り出した。

烏丸はあっさりと捕まってしまった。
「じたばたしないで着いてきてもらおう。残りの連中には死んでもらう。」
そう言って伊坂は差し込んであるキーを回した。

その時、研究所のいたるところに仕掛けられた物が目を覚ました。表示されたデジタル数字が時を刻み始めた。タイムリミットまであと10分

そしてここでも・・・
「あ、何これ?」
天音はカウンターの隅に置かれている紙袋を見つけた。中身は箱に包まれていて分からない。
「お客さんの忘れ物かしら?取りに来るかもしれないから置いといて。」
「は〜い。」
天音はもとあった場所に紙袋を置いた。
中身が爆弾であることを二人が知るわけも無く黒い箱が非常にも時を刻み始めた。


「所長!!」
剣崎は部屋に飛び込んだ。伊坂に目もくれず烏丸を抑えている兵士達を引き剥がし殴りかかる。あっという間に倒されていく兵士たち。しかし動ずることなく、
「行くぞ。」
伊坂は剣崎に一瞥を与え部屋から出て行くのであった。
「待て!」
伊坂を追いかけようとしたが烏丸が引きとめた。
「剣崎、爆弾がセットされている。時間が無い、逃げるぞ!!」
烏丸が指差すほうにはデジタル数字が7へと変わっていた。二人も部屋を急いで出た。

タイムリミットまであと7分。

始はバイクを全速力で走らせていた。あの家族が居るところまで・・・

「橘!」
「烏丸・・・」
消えるような声で橘は言った。烏丸と剣崎は二人係で橘を持ち上げバイクに乗せた。

タイムリミットまであと1分。

始はハカランダの前でバイクを止めた。ヘルメットを取ることさえ惜しい。ドアへ続く階段を一段飛ばしで駆け上りながらヘルメットを脱ぐ。残り時間は30秒を回っていた。自動ドアが開く。始が急いで入ると二人は割れたのだろう、コップを塵取りに入れていた。
「あ、始さん。どこ行ってたの?」
「紙袋は?」
天音の質問に答えることなく始は手で箱の形を作った。
「え?」
カウンターの隅に置かれた紙袋が目に飛び込んだ。
「それお客さんの忘れ物・・・」
構うことなく急いで箱を取り出し中身を開いた。爆弾が示す数字は5を切っていた。

5・・・
始は爆弾を取り出しテラスへと駆け出す。
4・・・
三人は研究所のドアへと差し掛かった。
3・・・
始は窓を開けテラスへ飛び出した。
2・・・
ドアを通り抜け脱出に成功した。
1・・・
始が爆弾を出来る限りの力で投げる。
0・・・
爆破!!

窓から燃え上がる炎と衝撃が飛び出した。建物は既に火の海と化していた。自分達があそこに居たらどうなっているか剣崎は考えたくなかった。


放物線を描いた爆弾が頂点に達した瞬間、周囲を轟音と衝撃が襲った。始は咄嗟に身を伏せた。後ろの窓が全て割れ床に叩き落されていく。
「きゃぁ!」
二人の叫び声が聞こえる。始は割れたガラスを踏みつけ二人の下に歩み寄った。
「大丈夫?」
「何今の・・・何なの始さん?」
「無事でよかった・・・」
二人に傷が無いことを確認した始は塵取り片手に立ち上がった。
「始さん!」
遥香の言葉に答えずただ黙々とガラスを拾い始めた。


燃え上がる炎を見つめながら剣崎は、
「所長、あいつらは何なんです?」
「新しいライダーを作ろうとしている連中だ。あいつらに捕まり私は逃げ出した。」
「新しいライダー・・・」

「ねぇ始さん。あれは一体何だったの?何でうちに爆弾が置かれなきゃいけないの?なんで始さん爆弾があること知ってたの?」
天音の矢継ぎ早の質問に始は振り返らずにただ黙々と窓枠についているガラスを拾っている。
「天音。」
遙香が優しく諌めようとするも天音は辛辣な言葉を吐いた。
「どうして黙ってるの!?そんな始さん大嫌い!!」
そう言って自室に戻ってしまった。
「どうも失礼します。」
警察官が入ってきて遙香が応答する間始はどこかさびしそうな表情を作っていた。


白井邸のドアが開いた。二名の来訪者を剣崎が連れてきたことに二人は驚いた。
「所長!?」
「橘さん、一体どうして・・・」
烏丸と剣崎が橘を担いでいる。
「詳しい話は後だ。とにかく橘を休めなければ。」
「俺が借りてる部屋を使ってください。」
そう剣崎が言って階段を上り始めた。その後を二人が追う。

剣崎の借りている屋根裏部屋に5人の人間が入るには少々手狭だった。しかしそんな文句も言っていられない。虎太郎は毛布を橘にかけた。
「うう・・・」
橘は苦しそうな声と苦悶の表情でソファーに寝ていた。栞が水に浸したタオルを額に乗せようとするが橘はそれを払いのけた。そして
「所長・・おれの体は・・・」
小さな声で呟く。
「大丈夫だ。言ったはずだ、君の体は潜在的な恐怖心が障害となってカテゴリーAとの融合を妨げ破滅のイメージを植えつける。恐怖心さえ取り除けば必ず復活する。」
「何時・・何時なんです。どうやって取り除くことが・・・」
しかし烏丸はそれに対して無言を押し通した。
「所長!!」
橘は立ち上がろうとしたが足が思うように動けずその場に倒れこんだ。
「橘さん。」
剣崎が橘の肩に手を添えた。烏丸は橘の姿に動揺することなく冷静に言った。
「正直、私にも分からない。人の心にあるものは外からの力で取り除くことは出来ない。君自身がその方法を見つけるしかないんだ。」
「じゃあ俺は臆病者か・・・そうやって死んでいくのか・・・」
橘は情けない声を上げた。
「諦めちゃ駄目です!所長が治るって言ったじゃない・・・」
「お前に・・お前に何が分かる!!」
剣崎が最後まで言い終えないうちに橘は肩に置かれた手を振り解いた。
「お前に何が分かるんだ!!」
橘はソファに顔をうずめた。そして小さい嗚咽を漏らした。


橘を屋根裏で落ち着かせ残る四人は居間にいた。
「そもそもの発端はBOARDが人類基盤史を研究していたことにある。」
烏丸がコーヒーを飲みながら口を開いた。
「人類には進化論じゃ片付けられない何かがあるんじゃないか、ってあれですよね??」
そしてこういう時に限って目を光らせるのは決まっている、虎太郎だ。
「あっち行ってろ。」
うんざりしながら虎太郎をその場から離れさせた。
「そう、そして我々はある事を突き止めた。」
烏丸はゆっくりと話し始めるのであった。