カテゴリー2「戦いの真実」

烏丸はソファに、そして剣崎と栞はそれに対するように椅子に座った。
「白井虎太郎君と言ったかな?彼の言うことは正しい。そう進化論では片付けられない問題があった。その原因がバトルファイトだ。一万年前、人類を含む53種のアンデッドによるこの星を支配する生物を決める戦いは行われた。」
「バトルファイト!?」
二人は同時に聞き返した。それに烏丸は頷き返す。
「そして人類の祖先が勝ち残り、この惑星は人間の支配する星となった。」
「じゃあ猿が勝っていればこの星は猿の惑星になっていたのか!」
こんなことをいう奴は一人しか居ない、剣崎は後ろを振り向いた。カウンターから顔を覗かせる虎太郎の顔はまたしても輝いている。剣崎は虎太郎をキッと睨みつけた。
「す・・すいません。」
無言の言葉を受け止めた虎太郎は顔を暗くしカウンターから姿を消した。
「そして敗れたアンデッドたちがカードに封印されたんですね?」
「そうだ。そしてカードはあくまでアンデッドを入れておく入れ物に過ぎない。カードに封印されてもなおアンデッドたちは生き続けていた。我々はその中に永遠の生命の謎があると考え研究を始めた。」
「でも父が母を助けるためにカードの力を使おうとして・・・私の父が封印を解いたんでしょう!?父がアンデッドを蘇らせたんでしょう!?」
栞の言葉に烏丸は首をゆっくりと横に振った。
「君のお父さんだけの責任ではない。多くの科学者、研究者達がアンデッドを解放することに賛成した。彼らは先走ってしまったんだ。そして私はそれを止めることが出来なかった・・・」
栞は何も言わず立ち上がり足早に居間を立ち去った。階段を上る足音だけが響く。
「広瀬さん!?」
剣崎も立ち上がり台所から出た虎太郎も栞のあとを追おうとしたが
「そっとしておいてやろう。」
烏丸が止めた。
「はい。」
剣崎もゆっくりと席に戻った。
「そうして封印を解かれたアンデッドが戦い始めた・・・自分の種族を繁栄させるために。」
バッド・・ローカスト・・ディアー・・・モス・・・・様々なアンデッドのことを思い出した。彼らはただ自分の種族を繁栄させるために人間を・・・この世界を自分の支配化にするために。様々な思いが交錯し剣崎は頭を抱えた。
「それで烏丸所長はアンデッドを封印するためにライダーシステムを作ったんですね?」
「そういうことだ。」
烏丸は頷いた。それを見た虎太郎は納得と満足した表情。
「そうかぁ〜〜。」
しかしその表情はすぐに軽い驚きへとシフトした。
「橘さん!?」
残る二人もそっちのほうを向いた。
「世話に・・なったな。」
ドアには橘が立っていた。顔色はさっきよりマシになったもののそれで決して大丈夫だとは言い難い姿だった。声にも力が無い。
「帰る。」
とだけ言った。それを聞いた剣崎は立ちあがって近寄った、
「待ってください!帰るってそんな!?」
「話は聞かせてもらった。けれど無理だ。俺は臆病風に吹かれたんだ・・・もう戦えない。」
「橘さん!」
橘は家を出ようとした、が
「橘!」
烏丸の声に足が止まる。
「橘、君の体がそうなったのは私の責任だ。だが私は謝らない。その恐怖心を克服し、君が戦いに帰ってきてくれると信じているからだ!」
いつになく烏丸の熱の入った言葉。それに嘘は無いだろう。しかし橘は振り返ることもせずふらふらと白井邸の出て行った。悔しさを抑えきれない剣崎は、ただ拳を壁に叩きつけることしか出来なかった。

白井邸ではしばらく沈黙が続いた。烏丸は窓の外を眺め剣崎は無言でカップのコーヒーを啜る。しかし虎太郎が五本目の牛乳を飲もうとしたところで一つの事実を思い出した。
「で、その組織の目的は一体何なんです?何のためにライダーを?」
烏丸は窓から目を放し、
「分からない。だが人類の為ではなく何らかの目的でライダーを研究しようとしているのは確かだ。」
その答えを聞いても虎太郎は何かが腑に落ちなかった。あの時アンデッドサーチャーには何が映っていた?簡単だ、アンデッドが三体。
「でもおかしいんだよね。あの時剣崎君の周りにはアンデッドが三体いたんだ。」
「三体!?」
剣崎もそれを聞いて疑問に思った。戦ったアンデッドはトリロバイト一体のはず、なら他の二体は?
「私はあの伊坂という男が組織のヘッドであると同時にアンデッドであると睨んでいる。サングラスをかけた男だ。」
あいつか・・・小窓から戦いを眺めていたあの男。剣崎は思ったことを烏丸に話した。
「所長。そいつ人間の姿をしていました。もしもアンデッドだとしたら何で人間の姿になれるんですか?」
「トランプにある絵札、それが上級のアンデッドだと思う。彼・・・いや上級アンデッドすべてが自身の能力を使い人語を話し人間の姿となって社会に紛れ込む。手ごわい敵となるのは確かなはずだ。」
残り一体のアンデッド・・・剣崎は目の前にいた相手をおもいだした。
"全てが俺の敵だ!貴様もな!!"
(まさかあいつが!!)
漆黒の鎧を纏い武器を構える敵を。そして病院で凍てつくような視線を放ったあの男を。
「俺出かけます。」
剣崎は急いで家から出た。急な態度の異変に驚き虎太郎は急いで後を追う。
「どうしたのさ。剣崎君!?」
しかし剣崎は無言のままヘルメットを被る。その顔は気迫に満ち溢れているようだった。バイクにエンジンがかかり唸り声を上げる。
「剣崎君!?」
何も言わずに剣崎は走り去っていった。
"第一お前達人間が存在することがおかしんだ"
今ならあいつの言った意味を理解できる。あいつもアンデッドだったのか・・・人間の皮を被ったアンデッド・・・あいつだけは絶対に許せない!!


「はい、ココア。」
椅子に座る始の前に遥香がココアを置いて隣に座った。始は机の一点を見つめたまま動かない。そしてその顔はどこか寂しげでもあった。
「何か事情があるのはわかってた。言いたくなければ言わなくてもいいわ。でもね、あの子本当にあなたのことが好きなの。それだけは分かってあげて。」
始は依然机を見つめたまま。
「さぁ飲んで。私が入れたココアおいしいのよ?」
遥香は席を外してカウンターに戻った。始はゆっくりとカップを手に取った。陶磁器独特のほのかな暖かさを掌に感じながら口に近づける。甘い・・・しかし嫌になるほど甘くは無く丁度いい。ゆっくりと飲み干し始は何も言わず自室へと消えていった。

栞は自室に閉じこもっていた。部屋に明かりは無く日の光が差し込む。そこにドアをノックする音がした。
「まだ考えているのか?」
烏丸のくぐもった声が栞の耳に届く。
「父親に責任があると、そうじゃない。遅かれ早かれ封印は解かれる運命だった。一万年という周期が一つの原因なのかもしれない。」
これは気休めなんだろうか?わからない・・・
「でもそれにしたって・・・」
「今はそんなことに拘っているより現状を打破するのが先決だ。君は剣崎と共にアンデッド封印に専念してくれ。」
烏丸が言ったことは正しい。今ここで悩むよりもするべきことが自分にはある・・・
「今が大事なんですね。」
「そうだ。」
その言葉を最後に扉の向こうの気配が消えた感じがした。そして階下の扉の開く音がする。
「所長!?」
栞は急いで烏丸の後を追った。
「一体どこへ?」
「私は新しいライダーを完成させようとしている組織をつぶす。」
「ちょっと待ってください!なら私達と一緒に。」
「私なりに心当たりがある。何か分かれば必ず連絡する。」
そういい残して烏丸は外へを続く長い一本道を歩いていった。
「皆いなくなるんだね。」
虎太郎のさびしそうな声が聞こえた。
「広瀬さんはいなくならないよね?」
栞は振り返って久しぶりの笑顔を見せた。


「お母さん!!始さんが居ない!」
天音が階段を駆け上ってきた。そしてカウンターの上に手紙を置いた。
「さっきアトリエ覗いたらこんなのが。」
遥香は折りたたまれた手紙を開いた。整った字でこう書かれていた。
"迷惑掛けたくないので出て行きます。お世話になりました。"
「これ・・・」
遥香も驚きを隠せない。急に出て行くなんてそんな・・・
「どうしよう・・・」
天音も同じ気持ちだった。


夜の工場の前、スモークや作業音が響いていた。
始はバイクを走らせていた。どこに行くかも分からない、ただ当て所も無く走るだけ・・・

しかし目の前からやって来たシルエットに始の気持ちにスイッチが入る。

それは剣崎も同じだった。目の前から走ってくる姿に剣崎も一瞬で理解した。ヘルメットこそ被ってはいるものの気配・・・形容し難い感覚を剣崎は覚えている。二人は真っ直ぐに走らせてそのまま擦れ違った。しかし両者ともほぼ同時のタイミングでバイクを180度回転させ相手の方に向きバイクから降りる。剣崎はバックルにカードを装填しベルトが腰に巻きつく。それと同時に始の腰にベルトが出現しカードを取り出した。二人の間に言葉はもう必要としなかった。両者とも今にも動き出そうとしている緊迫の糸が張り詰めた状況。そしてその糸が切られた、
「変身!!」
「変身」
闇夜に紫紺と漆黒の戦士が刃を重ねる。


夜の街を綺麗な光が照らしていた。
「お待たせ。」
小夜子が向かう場所に橘はいた。
「よっ」
橘も軽いノリで挨拶。
「どうしたの?急に電話でデートしようなんて?」
「迷惑だったかな?」
「ううん、うれしかった。」
その言葉どおり小夜子の声はいつもより弾んだ感じだった。
「でも、何かあった?」
「そうだな・・・何だか普通の生き方をしてみたくなった。」
小夜子は首をかしげた。
「いいじゃないか。行こう。」
そう言って橘はさっさと歩き出す。それに追いついて小夜子は腕を組んだ。
「どこ行く?」
橘は満更でもなさそうな笑みを漏らした。それにつられるように小夜子も笑顔を作る。
「そうだな・・・」
そういいながら二人はショッピングモールへと繰り出した。
「その前に。」
と小夜子。
「なんだ?」
「その格好も何だからスーツでも買わない?」




橘は自分の格好を見直した。ジャンパーを着込んでいるラフと言うかなんとも言えない姿。それはデートするには少し恥ずかしい服装だった。
「そうだな。」

そしてたどり着いたのは紳士服が置いてある店だった。サイズの合うスーツを購入して次に選んだのはネクタイ。小夜子が適当にネクタイを選び橘は鏡の前に立って試着。
「これなんかどう?」
「少し色が派手じゃないか?」
そんな何気ない会話が橘にとってはうれしいことだった。戦いなんて言葉が存在しない普通の世界、普通の生活だった。
「こっちの方がいいかな?」
「うん、これいいんじゃないかな。」
差し出されたネクタイを試着している間に小夜子が他のものを探しに行く。
これでいいんだ。俺にはもう闘えない。普通の人間、普通の生活、ライダーなんて言葉が存在しない普通の暮らし・・・臆病風に吹かれた俺にはもう・・・。

しかしその『普通』と呼べるものが一瞬にして打ち崩されるのはショッピングモールを悲鳴が包み込んだときだった。


ブレイドの剣をカリスは弾き返し回し蹴りを胸に喰らわせる。後ろの金網にたたきつけれたブレイドはすぐさま体制を立て直し剣を振るう。それと同時にカリスのアローで斬りかかる。剣とアローがぶつかりカリスの力がブレイドを圧倒する。そして鍔迫り合いに負けじと剣の峰に左手を添えた。
「お前は誰なんだ!!人間じゃない!!」
「誰であろうと・・・何であろうと構わない!!」
そう叫びカリスはブレイドの剣を弾き胸を真横に切り払う。再び金網に叩きつけられるブレイド。
「俺は今、無性に闘いたい!貴様のような奴をこの手でぶち壊したい!!」
その声はまさに飢えた獣のようだった。
「お前だけは・・・人間の皮を被ったお前だけは許せない!!」」
ブレイドは立ち上がり迫り来るカリスを迎撃するべく剣を真上から振り下ろした。しかし剣は空を切った。
「!?」
顔を上げるとカリスがすんでの所でバックステップを踏みアローで真一文字に切りかかろうとしていた。ブレイドは防御できない、そうカリスは確信した。が、

カリスの一撃が確かに見えていた。ブレイドはカリスの攻撃がスロー再生されたような感覚に襲われた。一瞬の出来事が横に切り払われる・・・逃げ道は・・そこだ!
「ウェイ!」
アローを掻い潜るようにして屈みこんで受身を取りながら回避運動をとる。カリスは驚いたものの行動が早かった。回避運動をとったせいでこいつの背中はがら空きだ。全てを終わらせるべくカリスは渾身の力を込めた。
「ハァ!!」
火花が飛び散り一瞬の沈黙が流れる。
「・・・!?」
自分の一撃が確かに直撃したと確信した。なのに何故だ!?

何故こいつは自分の剣で俺の攻撃を受け止めている!

まるで後ろに目があるかのように、そして俺が一度して見せたように!!マスクで顔は隠れているもののそれが無ければ始の顔は驚愕で包まれていただろう。ブレイドは動かない剣とアローをちらりと見た。一瞬自分でもしたことが分からなかった。この位置に攻撃が来ることが何となくだが予想できた。そしてその位置に右手の剣を構えた。まさに本能のなせる業としか思えない。しかし驚いている暇はない。ブレイドは左手を添えてアローを弾き飛ばした。
「ウェイ!!」
武器を飛ばされたカリスの胸をブレイドは袈裟に斬った。明確な一撃を与えられカリスは後ろに下がった。そして両者の間に距離が生まれる。カリスは落ちているアローを拾い上げ構えなおした。ブレイドもそれに続くように構える。
二人は再び走り出した。
カリスは胸のうちで高揚感を覚えていた。こいつと戦うと自分がより速く、そしてより強くなることが出来る。自分の本能が蘇ってくる!!


そいつが現れたときショッピングモールを悲鳴が覆いつくした。逃げる人たち、そのうち一人がこけて逃げ遅れたのをそいつが見逃すことは無かった。
「う・・うわぁぁぁ!!」
男の周りに幾重にも並ぶそいつの姿。あまりのことに男が倒れこみそいつが残酷に血肉をそそる。体中を黒と白の模様をつけ顔も姿もまさにサバンナにいるあの生物を彷彿とさせる。シマウマの始祖、ゼブラだった。

橘はゼブラの姿を鏡の向こうから見た。咄嗟にバックルを取り出す。しかしその手がカードを装填することは無かった。その場に立ち尽くす橘の腕を小夜子が掴んだ。
「橘君!逃げよう!!」
二人が店を飛び出した。
しかし、
「お母さん!!」
静寂とした中で響く声を橘は聞いた。少女が倒れている母親を必死でゆすって起こそうとしている。そこにゆっくりとゼブラが近寄る。橘は腕を振り解いて足を止めた。