始(はじまり)と了(おわり)

カテゴリー2

一万年前

『彼女』は全てを失った。存在意義も、戦う意思も理由も、何もかもずたずたに引き裂かれ『彼女』は地に伏そうとしていた。
「・・・」
だがそこに一つの光が灯った。

それは一人の『男』だった。


「邪魔な人もいなくなったし・・・正直君もいて欲しく無かったろ?」
了は笑みを浮かべていた。だがそこに敵意というものは一欠けらも存在していなかった。
「貴様・・・何故その姿をしている」
始は腰を落とし今にも襲いかかろうとしていた。
「それはこっちの台詞だよ。どうして君がその姿をとっているのか」
同じ姿をした二人は質問も同じだった。だがその片方、了は何か思いついたように言った。ほんの少し邪悪な一面を持って、
「あ、そっか。君がその姿をしているのは『あれ』を持っているからか。そうだよねジョ・・・」
『チェンジ』
了が最後まで言い切るよりも先に始は地を蹴った。すぐに腰にハートのベルトがが出現しカードを溝に通して体が変化した。カリスは一瞬で間合いを詰めよりアローを男の首を掻っ切るように振るう。だが、
「危ないな。冗談のつもりだったのに」
「何!?」
了の首は繋がっていた。それどころかカリスの刃の側面を指で掴みとめていたのだ。それを見てカリスは驚愕する。だが了は指をすぐに離した。それと同時にカリスはサッと身を引いた。
「やはり貴様、アンデッドか」
こんな技、人間で出来るわけが無い。だがカリスはどこか悩んでいるように見えた。
「だが何故だ。何故、貴様から人間の臭いがする・・・」
相手が上級アンデッドならば以前睦月が言ったようにアンデッドの気配しかない。人間に姿を変えているとは言えどその本質はアンデッドだからだ。それは決してごまかしが効かないはず。しかし目の前で笑う男は違っていた。
「どうしてだろうね?ただ言えるのは僕は戦う気は無いよ」
そこまで言って了の手から紫電が放出されてカリスの足元の地面に命中した。爆発する地面にカリスは咄嗟に目を覆った。そして前を向いたとき了の姿は無かった。


「ちぃ。硬いな」
ギャレンは舌打ちした。引き金を引いても弾丸が敵に明確なダメージを与えることが出来ない。ブレイドの到着を待つしか他無かった。

硬い甲羅、だがその硬い甲羅は体中を覆う鎧のようになっていた。そして左肩についているのは棘が付いた亀の甲羅。亀の始祖たるトータスだった。

ギャレンは牽制とばかりに照準を定めて引き金を引いた。放たれた計5発の光の弾丸はトータスに命中した。だがトータスの異常に発達した甲羅が弾丸を弾いた。そして痛くも痒くもないとばかりに突っ込んでくる。
「くそっ!」
ギャレンはショルダータックルを仕掛けるトータスに向かって走り出し、寸前のところで跳んだ。そして空中で一回転し着地。すぐに振り返り敵の襲撃に備える。あの防御力では銃撃強化のカードを使っても大して効果は変わらないだろう。だが、

ブオオオォォン

エンジン音がトータスの背後から聞こえてきた。それを聞いてギャレンはもう一人の戦士の到着を確信した。バイクはスタントさながら跳びあがりトータスを超えギャレンの前で停まった。
「橘さん。すいません、少し遅れて・・・」
「話は後だ。やるぞ!」
ブレイドはバイクから降りて剣を抜いて走り出した。それをギャレンが後方から銃で援護する。足止めされたトータスにブレイドは剣を振り下ろした。
「ウェイ!」
だがトータスは腕につけられた、肩とはまた別の甲羅上の盾で剣を防いだ。ブレイドはすぐに体を引く。それと同時にギャレンがブレイドの頭上から飛び出してきた。
「はっ!」
そのまま勢いに任せ足を突き出し盾にぶつかった。トータスはよろめき少し後ろに仰け反ったものの大したダメージは無いらしい。だが、
『アブゾーブクイーン』
『フュージョンジャック』
今度はギャレンの背後でブレイドが輝きを帯び黄金色の鎧に変化し翼が宿る。翼を得たブレイドは翼をすぐに広げ空中を駆けトータスに激突した。剣は盾を圧倒し真っ二つに叩き斬った。それを受けトータスは近くに流れる河に向かって走り出した。そして河に飛び込む二度と姿を現すことが無かった。
「くそ、逃げたのか」
ブレイドも空中から探したが見つからない。そしてギャレンとブレイドは変身を解いた。剣崎は深呼吸した。
「亀のアンデッドか。俺の銃じゃあの硬い甲羅は貫けない」
橘は苦々しく言った。そのとき、剣崎の携帯がまたしても鳴り響いた。
「もしもし、アンデッドの反応は?」
『無いわ。逃げたみたい。それとすぐに橘さんと戻ってきて良いニュースがあるわよ』
それを聞いて剣崎はすぐに橘に話した。橘も驚きすぐに二台のバイクは走り出した。


了は神社の境内の階段に座っていた。片手にはたこ焼きの入ったトレイを持って、
「これからどうしよっかな・・・」
そう呟いて了は爪楊枝をたこ焼きに刺した。焼きあがったばかりのたこ焼きは湯気を立てておいしそうだった。しかし了はそれを口に運ばなかった。
「そんなこともう決まってる・・・」
答えはとっくに決まっていたのかもしれない。彼はただ、『彼』に会うため日本に来たのだから・・・
「明日、ちゃんと会いに行こう」
そして了はまた何か思い出したように、
「あ、頼まれたこともさっさとやらなきゃ」
考え事が済んだのか了はたこ焼きを口に運んだ。
「うん、やっぱりおいしい」
「おーい了ちゃん」
たこ焼きを食べているとさっきの露天の男が了の方に歩いてきた。なんとこの了という男、店を手伝う代わりにたこ焼きを食べさせてくれという約束をしてしまっていた。
「ちょっと手伝ってくれ。明日から祭りだからな、しっかり仕込んどかないと」
了は笑顔で階段から飛び降りた。


「烏丸所長からメールが届いたって?」
屋敷に入ってくるなり橘はそう言った。そしてパソコンに座る栞の肩からモニタを覗いた。
「そうなの。ラウズアブゾーバーが完成したんですって!」
「やりましたね!これであのアンデッドも倒せるかもしれない!」
「ああ」
橘はすぐにそのメールを見た。内容はギャレンのラウズアブゾーバーが完成したという報告と、
「チベットから使者が来る?アブゾーバーを届けに?」
しかも続きを読んでみればその使者はとっくに日本についているらしい。
「使者って・・・嶋さんのような人なのかな?」
「おそらくな。だがどういうことだ・・・もう日本に着いてる?」
考えてみてもそんな人物に思い当たるわけが無い。着いているのならこの屋敷に来てもいいはずだ。
「誰なんだ・・・チベットからの使者って・・・」
剣崎は窓から見える景色をふと見ながら言った。


それから何も起こらずに一日は過ぎて次の日の昼下がりのことだった。

「おっちゃん。僕行くね。色々ありがと」
了は悲しそうに言った。
「おお、こちらこそありがとな。手伝ってくれて」
男もどこか寂しげだ。了は最後に笑顔を見せて神社を出て行った。

そして、ハカランダにいる始が気配が察したのはその時だった。
『ジョーカー、僕の正体知りたくない?知りたいなら・・・』
昨日聞いた声は場所を告げそれを最後に消えてしまった。
「罠か・・・」
始は自室のベッドに座りながら言った。これは明らかに罠だと分かっている。だが、行けと本能が命じている。始は立ち上がって部屋を後にしたのだった。