カテゴリー1「治らない病」

何故俺はここに居るんだろう?俺は逃げ出した・・・臆病風に吹かれた・・・そうじゃないのか?なら何故小夜子と共にこの場を離れなかった?

しかし橘の声に反抗するように新たな声が木霊する。
違う。お前の仕事は何だ?仮面ライダーだ。目の前の人たちを救うのがお前の仕事じゃないのか?
でも俺はもう闘えない・・・
なら何故お前はバックルを握ってあいつを見つめている?お前がバックルを烏丸所長に渡せば全てが終わるんじゃなかったのか?誰よりもおまえ自身が戦えることを望んでいるんじゃないか?

橘の脳裏にあの映像が浮かぶ。そしてゆっくりとゼブラが近づいてくる。

「橘君、逃げよ!!」
小夜子が腕を持つも橘は反応しなかった。ただ目の前のゼブラを見つめている。
「橘君!!」
小夜子が腕を握ってくる。構うものか。橘は小夜子の手を振り解いてバックルにカードを差し込んだ。
「変身!!」
ゲートを通り抜け橘がギャレンに変身した。


肉薄していたカリスが突然距離を作り出した。何事かとおもうブレイドを無視しバックルをアローに装着し一枚のカードを使役する。
『トルネード』
カリスの周囲の砂や埃が舞い上がる。そしてアローへと集中されていく。もう二度も見たことがある、あれが直撃すればまずい。ブレイドもすぐさまカードを抜き取る。
『サンダー』
ブレイドの周りで稲妻が音を上げ剣を覆った。カリスのアローも小さな台風のように唸り声を上げる。今回は風の矢を形成しない・・・より威力を高めている。しかし臆することなくブレイドは腰を落として剣を構えた。重心を前に傾け太もも、アキレス、足と力が上手く伝わっていくのを実感しながら弾丸のように走り出す。カリスもほぼ同時のタイミングで駆け出した。そして
「はぁ!!」
「ウェイ!!」
剣とアローが交わった瞬間、まさに嵐としか形容できない光景が起こった。まるで互いの力が共鳴し合うかのように雷が周囲のコンクリートを粉々に砕き、風がそれを巻き上げ吹き飛ばしていく。そして中心にいればその力は計り知れないものになるだろう。それでもなお二人は武器を手放すことは無かった。しかし
「ぐっ・・・!!」
限界を迎えカリスとブレイド共々後ろに吹き飛ばされた。放たれた力に抗う術は無く二人とも道路に転がる。ようやく停止しコンクリートに打ち付けられた痛みが体を浸透するのを感じながら立ち上がろうとしたときその時に、
「剣崎君、聞こえる?」
急に栞からの通信が鳴り響く。
「アンデッドよ。場所は・・・」
「こっちだって忙しいんだ!アンデッドと戦ってる。」
「アンデッドと?」
ブレイドは目の前の敵を真っ直ぐと見つめた。
「始だよ、ハカランダに居た相川始。あいつが黒いライダー、いやあいつはアンデッドだ!」
「え、何だって本当なのか、それ!?」
今度は虎太郎の声が割り込んだ。マイク越しからでも驚きが感じられる。
「罪もない人たちが襲われてるのよ!その人たちを守るのがあなたの仕事でしょう!南へ17キロ、ショッピングモールのあるところよ、私情を挟まないように。」
その言葉を最後に通信が途絶えた。ブレイドは歯噛みをした。カリスは武器を構え今にも攻撃を仕掛けようとしている。
「く・・・」
ブレイドは武器をホルスターに戻した。
「待て!お前との決着は必ずつける。だから俺に時間をくれ!」
応答の変わりにカリスはアローを弓のように構えた。今度は風ではない、周囲からエネルギーが集中し矢が形成されカリスは弦を引いた。放たれた矢は真っ直ぐとブレイドの胸を射抜いた。
「ぐ!!」
胸に重たい鈍器で殴られたかのような衝撃を喰らいその場に手を付いた。痛みに歯を食いしばりながらも顔を上げたときにはカリスの姿が無かった。
「あいつ・・・」
ブレイドは立ち上がってバイクへと駆け寄った。



「融合係数512EH、505EH・・・480・・・」
研究員が数字を淡々と読み上げていく。
「相変わらずだな。戦い始めると融合係数が下がる。重症だな。」
ビルの屋上で伊坂が立っていた。闇に溶け込みそうな出で立ちでその目が見下ろす先には赤い戦士が戦っていた。


パンチをいくら打ってもゼブラにダメージを与えることは無く放つ弾には全く威力が無い。力が出ない・・・ギャレンは絶望的な感覚が体中を浸透していくのを感じた。ゼブラのパンチを掻い潜り胸に拳を放つも一つも仰け反ることは無かった。そして限界が訪れるのにそう時間は掛からなかった。
「ぐぁぁ!!」
バックルが拒否するかのように裏返りギャレンから橘へと姿を戻す。柱にもたれかかる橘を見て止めを刺すためかゼブラは三日月状の武器を取り出した。ゼブラの顔よりもはるかに大きく人間の首なら容易に撥ね飛ばせそうな得物だった。影から見つめていた小夜子がはっと口を覆い隠す。そして後ろからバイクのエンジン音が徐々に近づいてくるのを聞いた。

橘はこの時死を覚悟しただろう。ブレイドのバイクが突然視界の横から入ってくるのを見たとき一気に脱力感に襲われた。しかしブレイドの到着があと少しでも遅ければ自分の首と体は繋がっていなかったと容易に想像できる。ブレイドは橘のほうに振り返った。
「橘さん!!」
「俺に構うな!」
その言葉を聞きブレイドは走り出した。ゼブラは武器を拾う間もなくブレイドの膝が顔面に入った。ブレイドは更なる追撃を仕掛けようと剣を抜いた、がゼブラはすぐさま立ち上がり体を屈め一気に跳びあがった。ビルの屋上にたどり着いたかと思えば再び跳びあがり転々と移動した。やがてその姿を捉えることができなくなってしまった。ブレイドはすぐさま通信網を開く。
「広瀬さん!アンデッドが姿を消した。」
「こっちも消えた・・・。何の反応も無し。一体どこへ・・・」

そして小夜子は苦痛に耐える橘をただ見つめることしか出来なかった。

剣崎と別れた後も小夜子は橘から離れることは無かった。そして橘がようやく口を開いたのは夜が白けてきた頃合だった。
「驚いた・・よな?」
橘は手すりにもたれかかった。
「仮面ライダーって呼ばれる人たちが謎の生命体と戦ってるって話は聞いたことがある。でもそれが橘君だったなんて・・・」
「俺も元々はBOARDの研究員だった。でも、沢山のアンデッドが現れそれを封印するためにライダーシステムが開発された。そして俺はその適格者だって言われたんだ。」
橘は自嘲気味に笑った。
「でも俺には無理だったみたいだ。恐怖心が俺の心を蝕んで、アンデッドとはもう戦えない。」
「ごめんね。そんな大変なことをしてたのにわかってあげられなくて。何にも支えてあげることができなかった・・・」
「そんなこと無い。君が居てくれるだけで助かった。君の傍に居るときだけは戦いを忘れられた。」
あそこに居るだけで自分の心はどれだけ救われただろうか。小夜子への感謝は幾らでもある、が本人を目の前にして言うことができなかった。
「もういい。わかった。じゃあこうしよ。私も医者辞める。だから橘君もライダーなんて仕事やめてどこか・・・そうだ南の島なんかどう?二人でサトウキビ作って・・・」
しかし小夜子の言葉を切るように携帯の着信音が鳴り響いた。
「病院からだろ、出ろよ。小夜子に医者は辞められない。君を待っている患者さんは何人もいる。南の島なんて行くわけには行かないだろ?俺は大丈夫だ。自分で何とかする。」
その言葉を最後に橘はその場を去っていった。


「待てごらぁ!!」
静かな商店街をギターを担いだ青年が慌しく疾走していた。その後ろからガタイのいい男が四人走っている。絶望的な気分に陥りながらも青年は走り続け、カーブを曲がったところに一人の男がふらふらと歩いているのを見つけた。
「助けて!」
青年は藁をも掴む気持ちで男の背中に回った。ガタイのいい男達もあっという間に追いついた。
「貸した金返せ、仁!!」
「やだね、これは俺が正当に稼いだ金だ!」
「何だと!なめんじゃねぇぞこの野郎!!」
男が吼えた途端に青年は顔を隠した。
「助けて!」
青年は壁になってくれている男に助けを求めた。しかし
「俺には関係ない。」
無表情の瞳と素っ気無い声で返された。
「だったらどけ!!」
男が肩を掴んだ途端いきなり視界が変わった。さっきまで見ていた景色はそこには無く目の前には灰色が移っていた。そしてそれがコンクリートの壁だと思った時には既にぶつかった後のことだった。男が手を下ろしながら声を荒げた。
「俺の体に触るな!」
呆然としていた三人の男達が正気を取り戻したかのように襲い掛かってきた。しかし男はいつまでも冷静を保っていた。一人目のパンチをかわし二人目の腹に蹴りを入れ三人目には腹に一発、顔に一発とパンチを入れ、最後にかわされた男がもう一度腕を振り上げたが一瞬で掴み取り手首を捻り上げる。
「痛たたたた!!」
解放された手首を押さえながら男は倒れこんだ。そしてそれは一瞬で起こり、青年が何をしているのか全く理解できない形となって終わった。
「すげぇ・・・」
青年、仁はそう呟くことしかできなかった。そしてこれが男、始と始めて出会った瞬間でもあった。